戦国異伝供書
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第五十四話 上洛その八
「その時は」
「左様ですね」
「そして」
政虎はさらに言った。
「我々は今は近江の西にいますが」
「東もですね」
「大事です」
つまり琵琶湖の向こう側もというのだ。
「やはり」
「左様ですね」
「そして」
さらに言う政虎だった。
「この近江の西を進めば」
「南にですね」
「いよいよです」
「都なので」
「尚更です」
「考える必要がありますね」
「そうかと、しかもすぐ近くに」
政虎の言葉は続いた。
「都があるのですから」
「近江はまさに要地ですね」
「この国で戦うことはです」
「都を守ることについても」
「大事です、そのことは覚えておきましょう」
「ですな、しかしこの琵琶湖は」
政景は湖をまじまじと見つつ言った。
「見れば見る程」
「大きいですね」
「はい、本朝一の湖と言われるだけあって」
「恐ろしい大きさで」
それでというのだ。
「水には困らないですな」
「そうですね、これだけの湖があれば」
「この近江は水には困りません」
「それはよいことですね」
「ただ海ではないので」
「塩は採れません」
これは無理だというのだ。
「残念ながら」
「確かに。この琵琶湖は」
今度は北条が言った、彼は湖の周りを見ている。琵琶湖の水を使った田畑があり漁や釣りもしている。だが。
塩を採る者は一切ない、それで言うのだった。
「湖だけあって」
「塩田がないですね」
「越後と違って」
「塩は欠かせません」
政虎は言い切った。
「若しです」
「塩がなければ」
「人は生きられません」
「当家も塩はよく作っていて」
「売りもしていますね」
「そのことも考えますと」
まさにというのだ。
「やはりです」
「塩は欠かせぬものであり」
「近江は塩は採れない」
「このことは厄介ですね」
「水は豊かでも」
「それは都も同じですね」
そこもとだ、斎藤も話した。
「大和もですが」
「はい、山国なので」
「海に面していないので」
「ですから」
それでというのだ。
「天下はそうしたことも考えねばです」
「ならないですね」
「そうなのです、上野もそうでしたね」
政虎は東国の話もした。
「海がないので」
「そういえばですな」
「あの国も塩には苦労していましたな」
「下野もそうだとか」
「そして甲斐や信濃も」
「そうです、武田殿はです」
政虎は晴信の話もした。
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