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女に甘い理由

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第一章

               女に甘い理由
 井東和博は公立の中学校で体育教師をしている、その評判は男子からは散々なものだった。
「いつも怒鳴りやがって」
「何かあるとすぐに殴るしか」
「しかも一回殴るとしつこいからな」
「何発も何発もビンタすることないだろ」
「蹴りまくって床の上で背負い投げしやがって」
「死ぬかと思っただろ」
「罵倒も酷いしな」
 とかく暴力的だと評判が悪かった。
 それでだ、男子生徒は井東を見ると避けていた。大柄で丸々と太った身体をいつもジャージで覆っていて風船の様に膨らんだ顔に細い目があり髪型はパーマだ。傲慢な肩を大きくゆすって歩く歩き方でいつも校内を我がもの顔で歩いている。
 だがその彼は女子生徒には評判がよかった、彼女達は口々に言っていた。
「いい先生よね」
「そうよね」
「優しくてね」
「冗談も言ってね」
「明るくて」
「体育教えてもらってよかったわ」
 こう口々に言うのだった、彼女達は。
 だがそんな話を聞いてだ、男子生徒達は有り得ないといった顔で話した。
「それ嘘だろ」
「俺達にはどれだけボロクソなんだよ」
「殴って蹴って罵って」
「徹底的にやってくれるのにな」
「そんなのがいい先生かよ」
「そんな筈ないだろ」
 こう口々に言う、とにかくだった。
 彼等は井東は問題のある教師どころか最悪の暴力教師だと確信して女子生徒達にそれは違うと言っていた、だが。
 女子生徒達は彼等の話を信じずこう反論した。
「いい先生じゃない」
「優しいわよ」
「冗談もいつも言うしね」
「面白いじゃない」
「暴力?全然振るわないわよ」
「そんなことしないわよ」
 こう言っていた、しかし。
 男子生徒達はあくまでそんな筈がないと言い張った、それで彼等は井東を見てこんなことを言いはじめた。
「女贔屓かよ」
「絶対にそうだな」
「俺小学校でそんな担任だったぜ」
「ああ、いるよな」
 中には彼等の過去の話をする者達も出て来た。
「そんな奴な」
「女の先公で多いよな」
「同じ女だからってな」
「レディーファーストかフェミか知らないけれどな」
「そんな奴本当にいるしな」
「けれど男で、ってな」
 彼等はまだ中学生だ、その為まだ世の中でわかることは少ないし狭い。それでどうにもという顔で話すのだった。
「何でだろうな」
「女同士ならわかるけれどな」
「あいつ何で女の子にだけ優しいんだよ」
「男には無茶苦茶するのにな」
「それがわからないな」
「どうもな」
 彼等はその理由がわからず首を傾げさせていた、だが。
 ある日井東が学校に来なくなった、それで誰もが不思議に思った。
「あれっ、あいつ何処行ったんだ」
「急に体育の先生交代したな」
「あいつが顧問やってた剣道部の先生になったぜ」
「担任も交代した先生になったしな」
 井東が担任を務めていたクラスの方もそうなったというのだ、そして部活の顧問の方も。
「何でなんだ?」
「これはどういうことだよ」
「あいつ本当にいなくなったな」
「昨日まで平気な顔でやりたい放題だったのにな」
「何処行ったんだよ」
「全校集会でも何も言わないしな」
「おかしいな」
 こう話すが彼等にその理由はわからなかった、そうして月日が経ってだった。
 ある男子生徒が仲間達にこう話した。彼等が卒業する間際にだ。 
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