手伝わせない理由
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第一章
手伝わせない理由
渡辺由梨の家業は建設業だ、世界的な企業グループである八条グループの系列である八条建設の実質的な孫会社でありその為このグループの仕事で家業は結構羽振りがいい。
由梨はその家の中で祖父や父、叔父、兄達が毎日身体を動かして汗水を流して逞しく働いているのを見ていた、それでよく父に将来の夢としてこんなことを言っていた。
「私もお父さんやお祖父ちゃんや叔父さんみたいに身体動かしてね」
「働きたいか」
「うん、土建屋っていうのよね」
建設業の仕事の仇名というかいささか悪い呼び方で言うのだった。
「それになりたい」
「そうか、家の仕事を手伝いたいか」
「うん」
小さい由梨は父に素直に答えた。
「私そうなりたいの」
「家の仕事をしたいのはいいことだ」
それ自体はとだ、父は娘に笑顔で答えた。だがそれと共に彼女に対してこうも言った。
「しかし女の子がしていい仕事ってのがあるんだ」
「女の子が?」
「ああ、だから家の仕事を手伝うにもな」
それでもというのだ。
「お前はお前でな」
「私で?」
「やれることがあるからな」
だからだというのだ。
「それをやってくれるか」
「それどんなお仕事なの?」
「その時になればわかるさ」
父は娘に笑って今はこう言ってだった、それ以上は言わなかった。それでだった。
由梨はずっと自分は就職は家業にそのままと思い高校に進もうとしたがここで家族全員からこう言われた。
「普通科の方がいいな」
「ああ、由梨は勉強出来るしな」
「普通科の方が大学行きやすいからな」
「普通科に行け」
「高校はそちらに進学しろ」
「そして大学にも行け」
「皆がそう言うなら」
実は由梨は工業科に行こうと思っていた、四角い感じの顔だ。唇も小さめで少し犬を思わせる。目も小さめで黒目がちである。補足優しい形の眉に波がかった黒髪を肩の高さで切り揃えている。背は一五二程でスタイルはよい方だ。胸も大きい。
「普通科に行くわね」
「そうしろ」
「そして大学に行ってな」
「家業を手伝ってくれよ」
「そうしてくれよ」
こう言ってだ、家族は由梨を高校は普通科に進ませてそこで勉強に頑張ってもらった。由梨は学業だけでなく部活は書道部に入ってそこでも頑張った。
そうして大学進学の時も家族全員で彼女に言った。
「経済学だな」
「そちらがいいな」
「大学に行くとしたら」
「あそこがいいな」
「建築学とかじゃないの?」
由梨はこの時も家族に尋ねた。
「大学は」
「いや、経済学だ」
「経済学の方がいい」
「兄さん達が建築学だからな」
「それならお前は経済学だ」
「経営のことも大事だからな」
それでというのだ。
「だからな」
「経済学に進め」
「お前はそちらだ」
「それで将来はうちで働いてくれ」
「経済学の知識でな」
「うちって経済学が必要な位かしら」
由梨は家族の言葉に首を傾げさせて言った、家の会社は同族経営で家族が中心だ。他の社員達を入れて従業員は五十人位だ。典型的な中小企業だと言っていい。ホワイトな黒字経営だが会社の規模はそれ位だ。
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