戦国異伝供書
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第五十三話 三度南へその十三
「間違いなくです」
「敗れるか」
「そうなります」
こう言うのだった。
「何があろうとも」
「それが織田殿か、わしはあの御仁を傑物と見るが」
「それがしも同じですが」
「わしが思っている以上にか」
「お言葉ですが」
「いや、よい」
雪斎は率直な言葉を咎めることはない、元康にあえて素直に言わせてそれを己や今川家の鏡にすることもある。
それでだ、今もそうしてこういうのだ。
「しかと聞いた」
「左様ですか」
「うむ、しかし当家の家臣にならぬなら」
「その時は」
「腹を切ってもらうとまでは言わぬが」
「世に出られぬ様にですか」
「そうすることもな」
寺に押し込むなりしてというのだ、出家させずとも。
「せねばな、お命はな」
「それまではですな」
「わしはしたくないしお館様もな」
義元にしてもというのだ。
「好まれぬしな」
「お館様はそうした方ですな」
「そうじゃ、だからな」
それ故にというのだ。
「そこまではせぬが。当家にとっては」
「油断せずとも」
「勝つことは難しい相手か」
「そのこと申し上げさせて頂きます」
今川の家臣としてというのだ。
「その様に」
「そうか、では織田家との戦は色々考えていこう」
「そうされますか」
「これからな」
こう言ってだ、雪斎は今川家のこれからのことを考えていた。だが信長は自分が思っている以上の大器だと感じつつだ。どうすべきかと考えるのだった。
第五十三話 完
2019・6・9
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