戦国異伝供書
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第五十三話 三度南へその九
「ですから」
「そうですか、ですが」
「今はですね」
「我がお館様の顔を立てて下されば」
そうしてくれればというのだ。
「拙僧も」
「はい、では今川殿にです」
「和議を結ばれることを」
「誓います」
こう雪斎に言った、そしてだった。
政虎が頷くと晴信もだった。
和議を結ぶことにした、だがここで言うのだった。
「ではな」
「はい、和議をですな」
「結ばせてもらう」
こう雪斎に答えたのだった、再び陣に戻ってきた彼に。
「そうしてもらう」
「それでは」
「しかし信濃はな」
「武田殿がですか」
「ようやく手に入れたのじゃ」
だからだというのだ。
「それ故にな」
「信濃をですな」
「決して手放さぬ」
それはというのだ。
「そのことは言っておく」
「そのことは何といいますか」
「今後のことか」
「はい、ですが今は」
少なくとも今はというのだ。
「和議を結ばれますな」
「そうする、今川殿には礼を言わせてもらう」
「それでは」
こうしてだった、雪斎は無事武田と上杉の睨み合いを終わらせてそうしてだった。両軍が兵を退くのを見届けてだった。
彼も駿河に戻った、そうして駿府で義元に話した。
「無事にです」
「両家の睨み合いをじゃな」
「ことを済ませました」
「よいことじゃ、ではな」
「それではですな」
「このことで武田殿に恩義を売れた」
少なくともそういうことになったというのだ。
「だからな」
「それで、ですな」
「ここからな」
「はい、武田殿との盟約をさらに深くし」
そしてというのだ。
「それからです」
「北条殿ともそうしてな」
「そして武田殿と北条殿の間を取り持ち」
「そのうえでな」
「三つの家の盟約としましょう」
「左様じゃな、それではな」
まさにと言うのだった、義元も。
「これからさらに動こうぞ」
「それでは」
「そのことも和上の力を借りたい」
「わかり申した」
「うむ、当家にも人はおるが」
それでもとだ、義元は雪斎に話した。二人は今は茶室にいる。そこで雪斎が淹れた茶を飲みつつ話しているのだ。
「それでもな」
「拙僧がですか」
「一番頼りになり」
そしてというのだ。
「信頼出来る」
「だからですか」
「このことも頼む、いつも働いてもらって悪いが」
「ははは、それは構いませぬ」
雪斎は義元に笑って返した。
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