戦国異伝供書
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第五十二話 籠城戦その九
「関東にも来かねません」
「だから注意ですな」
「はい、ですから」
それ故にというのだ。
「あの御仁には注意を」
「わかっています」
氏康は幻庵に強い声で答えた。
「そのことは」
「それでは」
「はい、今はその名を使わせて頂き」
「手を結ぶこともですな」
「考えていますが」
しかしと言うのだった。
「ですが」
「油断出来ぬ御仁ということは」
「肝に銘じておきまする」
「そのことくれぐれも考えておいて下され」
「それでは。しかし」
氏康はこうも言った。
「今この城を囲んでいる関東管領殿のお国の越後は羽州と接していますな」
「はい、新発田の方が」
「その割には揉めませぬな」
越後は羽州と、というのだ。
「これといって」
「接してはいても」
国境をとだ、幻庵は氏康に答えて述べた。
「越後と羽州を結ぶ道は狭く」
「さらにですか」
「羽州の多くの城は越後からかなり離れておりますので」
「お互いにですか」
「攻めにくいので」
その為にというのだ。
「どうしてもです」
「攻められませぬか」
「中々。ですから」
「越後は羽州についてはですな」
「ほぼ気にしておりませぬ、むしろ長尾殿としては」
政虎の立場ではというのだ。
「羽州よりもその新発田の辺りの揚北衆の方が」
「厄介ですか」
「越後は大きな国で春日山から新発田はかなり離れています」
これが越後の特徴だ、一口に越後と言っても百二十万石ある大きな国でありその端から端まではかなりの距離があるのだ。
それでだ、春日山の政虎から新発田にいる揚北衆はというのだ。
「ですから」
「羽州より越後の中ですか」
「そうなっております、佐渡も領地ですが」
「あちらもですな」
「国人達は油断をすれば」
政虎が目を離せばというのだ。
「独自の動きを見せかねません」
「佐渡といえば」
やはりとだ、氏康は言った。
「金山ですな」
「その金山からの金がなくなるので」
「目が離せる」
「左様です、そちらも懸念することです」
政虎にとってはというのだ。
「非常に」
「我等がそこを衝けば」
「今以上に長尾殿を楽に退けられまする」
「左様ですな、そのことも考えていきます」
「さすれば」
「今は武田、今川両家を動かしましたが」
それでもというのだ。
「ですが」
「必要とあらば」
「新発田、佐渡は狙います」
「そしていきましょうぞ」
「当家が考えているのはあくまで関東」
この地域だけのことだというのだ。
「他のところには興味がありませぬ」
「従って越後も」
「ですから」
それでというのだ。
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