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遊戯王BV~摩天楼の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン14 鉄砲水と手札の天使

 
前書き
お久しぶりです。まず初めに、大変投稿が遅れてしまったことお詫び申し上げます。
というのも、最近発売されたデッキビルドパック、ミスティック・ファイターズ。そこで登場した新テーマ、ドラゴンメイドに惚れ込みその構築にばかり延々頭を使っていたら正直こっちで別のデッキについて架空デュエルを書く気力もモチベも全部そちらに吸い取られて……ははは(乾いた笑い)。しかもこれだけ時間かけたのにまだ改善点あるし。
おかげで今回、書いておいてなんですがデュエルシーンは出涸らしみたいなもんです。同じ題材でももうちょい工夫のしようはあったような…。
ただかなりズレた構築の、拙作で言えば糸巻さんがいかにも喜びそうなヘンテコドラゴンメイドとなりこれはこれで気に入っているのでまた機会があればそのうちこっちにも出すかもしれません。

前回のあらすじ:魔界演目「星落とし」、満員御礼につき講演終了。 

 
「じゃ、ぼちぼち行こっかな。んで、おねーさんたちはどうするのかね」

 突如現れた朝顔が再び出て行ってから、およそ一時間が経過した。何とはなしに壁にかかった時計を見上げた清明がそろそろ頃合いかと、背伸びしつつ探るような視線を向ける。

「わ、私もご一緒します!」
「アタシも。乗り掛かった舟だ、もうちょい付き合ってやるよ」
「俺も。行きたくはないけどしょうがないしな」

 返ってきた三者三様の答えに小さく頷き、ふらりと身を翻す。ついてきたければご自由に、ということなのだろう。

「んじゃ爺さん、姪っ子は重要参考人としてちょいと借りてくぜ」
「おや。天下のデュエルポリス様がそう言うのなら、この老体に反発する気はないよ」
「頼むからやめてくれ、爺さん」
「ひひひ、冗談さね。とはいえ九々乃、今は何かと物騒だからね。こんな時間に出歩くんだ、絶対に一人にならないように。いいかい?」
「はい、おじいちゃん……そうだ!」

 糸巻の知るその現役時代からつかみどころのない老人ではあったが、その姪に対する愛情は本物なのだろう。かなり真面目な忠告に当の少女も神妙に頷き、直後にさも名案を思いついたとばかりの笑みでとてとてと糸巻の隣に行きその手を伸ばす。

「あん?どうした、八卦ちゃん」
「手を繋ぎましょう、お姉様!私が迷子にならないように、です!」
「え、ええ……?」

 いやそれはおかしいだろう。喉まで出かかった言葉を糸巻が寸前で呑み込んだのは、そのあまりにきらきらとした瞳に見据えられたせいだった。さも自信満々に、さあ名案でしょう褒めてくださいお姉様!と言いたげな少女の瞳。自分にはとっくの昔に失われた若さと、生まれた時から持ち合わせていなかった純真さ。自分にないものをまじまじと見せつけてくるようなこの瞳に見つめられると、どうも彼女は調子が狂う。
 結局今回も、のろのろとした動きながらも彼女は自分から差し伸べられた少女の手を取るのだった。

「おふたりさーん、イチャついてるなら置いてくよー?」

 若干の苛立ちを含んだ催促にそれ以上の追及を諦め、満面の笑みと共にがっしりと握り返された自分の手を見つめる糸巻。ため息をひとつ呑み込んで、代わりにこう言うのだった。

「……んじゃ、ま、なんだ。行くか、八卦ちゃん」
「はい!おじいちゃん、行ってきます!」





「さて、と。んじゃ、始めてみますかね」

 再び廃図書館に辿り着いて警報装置を切り、先日とは異なりかつての正面入口から堂々と中に入る一行。小さく呟いた清明が取り出したのは、なぜかその言葉とは裏腹に自らのデッキだった。同時に、左腕につけた青い腕輪の一部を押して例の謎技術を用いられたデュエルディスクを展開する。

「おい、何やってんだ?」

 そんなちぐはぐな言動を見とがめた鳥居に指を1本口元に立てて黙らせ、パラパラと自分のカードをめくりお目当てらしき1枚を引っ張り出す。好奇心を抑えきれずにその手元を覗き込んだ八卦が、その名前を読み上げる。

幽鬼(ゆき)うさぎ……ですか?知ってますよ、レアカードですね」
「そ、いいでしょー。まあレア度はなんでもいいんだけど、女の子の精霊ならやっぱ女の子が適任かなって。おいで、うさぎちゃん」

 朗らかに呼び寄せながら探し当てた幽鬼うさぎのカードをモンスターゾーンに置くと、彼の頭上に現れた長い銀髪の和装少女が得物の鎌を片手に一回転しながら着地する。無言で一礼するその身長はこの4人の中では一番背の低い八卦よりもさらに小さいが、血のように赤いその瞳はその体の小ささや華奢な体格から生じる第一印象を打ち消してなお余りあるほどの凄みを放っていた。

「やっぱり……この感覚は間違いないね。ここには間違いなく、カードの精霊がいる。ねえうさぎちゃん、昔を思い出すねえ。あのデュエルアカデミア古井戸の底、はるばる君に会いに行った時も、ちょうどこんな感じがしたもんだ。ただ今回はあの時と違って、それなりに緊急事態だからさ」
「さっきからお前、何ぶつぶつ1人でやってるんだ?」
「どうも、ね……確かに例の精霊ちゃんもこの辺のどこかにはいるんだけど、あんまり人には会いたくないのかな?細かい場所まで探れないからさ。同じ精霊の感覚なら、もうちょっと絞り込めるんじゃないかと思ってね。そういうわけで頼むよ、うさぎちゃん」

 その言葉に小さく首を縦に振った幽鬼うさぎが、その名の示す通りの兎さながらに周囲をきょろきょろと見まわしては耳をそばだてる。ややあって彼女が無言で指さしたのは、2階へと続く階段だった。

「そういえば……」

 少女が思い出したのは、初めて例の幽霊と遭遇したあの1瞬の時である。あの時も半透明の幽霊少女は、こちらの姿を認識するや否やすぐに2階へと駆け出していった。その時に後を追おうとした少女の前に立ち塞がったのが、朝顔と夕顔のタッグである。

「じゃあ行こうか……あーいや、またお客さん?本当にもう、どうなってんのこの町は」

 ぼやきながらも彼が振り返ったのは、彼らが入ってきた正面入り口とは別にある裏手の従業員入り口のある方角。ちょうど八卦も先日の侵入ルートとして使用した、鍵のかかっていない小さなドアのある方向だった。慌てて少女もそちらの方に視線を向けると、すでにデュエルポリスの2人もデュエルディスクを構えて臨戦態勢に入っている。両者ともにいつもの軽口も出てこないところに、その「お客さん」への警戒の高さが感じられた。
 そして4つの視線の見つめる先から、ゆっくりと1つの人影が歩み寄る。本棚の影の暗闇にまぎれて視認できなかったその姿も、足音が大きくなるにつれて窓から差し込んだ月明かりに照らされその足元から浮かび上がった。その顔を見て、糸巻が忌々しげに吐き捨てる。

「なんだなんだ、アンタの面なんぞ拝むなんて今日は厄日か?なあ、おきつねさま。巴光太郎さんよ」
「狐は神獣であると同時に、凶兆の獣でもありますからね。学のない貴女にしては、存外知的な発言ですね。そして知的という概念は、貴女には似合わないことこの上ない。ねえ、赤髪の夜叉。糸巻太夫さん?」

 にこやかな笑みを浮かべながら現れたその男が、自分を見つめる視線をぐるりと見渡したのちにゆっくりと一礼する。しかしその目を真正面から見た時、八卦は背筋も凍るような思いがした。一見慇懃にも見えるその態度や口元の笑みは、全て仮面に他ならない。少女は知らない。この男がつい先日の裏デュエルコロシアムを巡るデュエルポリス達の戦いにおいて、妨害電波の通用しない新たな「BV」と実体化するカードを武器に糸巻と文字通りの死闘を繰り広げ、実際に彼女を後1歩のところまで追いつめた男だということを。
 しかし、その叔父譲りの人間を見極める目は本物である。その目ざとい感覚は、事前知識のない少女にも目の前の男が根からの危険人物だと全力で警鐘を鳴らしていた。

「お、お姉様、この人」
「わかるか、八卦ちゃん。これはアタシの昔の同業者だが……めんどくせえ奴と鉢合わせたもんだ。いいな八卦ちゃん、絶対にアタシの後ろから出るんじゃないぞ」

 おきつねさま……巴からは片時も目を離さないままに、糸巻が繋いだままの手をぐっと引っ張って少女の体を自分へと近づける。握られた手から伝わる心臓の鼓動から、彼女の緊張が少女にも伝わってきた。
 そして睨みあう元プロデュエリスト2人の視線を断ち切るかのように、鳥居がその間へと強引に割り込む。

「巴光太郎、名前だけは聞いたことがあるぜ。『糸巻さんと並ぶぐらい腕は立つくせに』、性格はとんでもない地雷野郎だってな」

 それだけ吐き捨てて1瞬だけ振り返り、真後ろの糸巻へと必死のアイコンタクトを送る。彼の言わんとすることを阿吽の呼吸で察知した糸巻は、視線は外さないままにじりじりと階段の方へと後ずさり始めた。
 これは、鳥居が咄嗟に編み出した作戦だった。彼も事後処理の一環で、あの裏デュエルコロシアムで彼が暴れている間に糸巻が何をしていたのかはすでに聞いている。巴の糸巻に対する異様な敵対心と憎悪についても、無論彼の知るところだ。それゆえに彼は今、わざと糸巻の名を引き合いに出したうえで挑発した。巴光太郎という人間が彼の聞いた通りの男であるならば、糸巻と対比したうえでどちらが上ともつかせないようなセリフは何よりも堪えるはずだ。
 果たして、その挑発は成功した。眉間にしわを寄せ、あからさまな敵意の乗ったその視線の向く先が糸巻から彼へと移る。

「ああ、誰かと思えば擬態の新人、最後まで自分の正体が秘密のままだと思っていた公権力の犬ですか。どうです、先日の賞金は?何か有意義な使い道は見つかりましたか?例えばそう、昔のごっこ遊びのお友達と旧交を温めるような」
「この野郎、今なんつった……!」

 どうやら煽り合いは、巴の方が一枚上手だったらしい。的確に神経を逆なでする挑発の叩き返しに、怒りが瞬間的に膨れ上がる。辛うじてその場での爆発だけは堪えたものの、歯を食いしばって睨みつける目にもそれまで以上の力がこもる。

「糸巻さん、八卦ちゃん、それとそこの。この野郎は、俺が相手します!」
「ちっ……無茶すんなとは言わないからな。よしいいか鳥居、差し違える気で死ぬ気で喰らいつけ!」

 言い争う暇はないと判断し、糸巻にしては珍しくあっさりと彼の案に乗る。それは逆に言えば、それだけ巴の存在を重く見ているということの証左でもあった。ともかくそれだけ言い残し、くるりと身を翻して八卦の手を引き階段を駆け上がっていく。清明も空気を読んだらしくその後ろに続いていくのを視界の端で見送ったのち、改めて2人だけとなった戦場で戦士たちは向かい合った。

「一応聞いておこうか、テロリスト。何の用があってここに?」
「それは無粋な質問ですね。人間の技術力は、ソリッドビジョンに肉体という器を与えることに成功した……しかし、傀儡はあくまで傀儡でなくてはならない。我々が欲しいものはこちらの意思を遂行する人形であって、自らの力で考える兵士ではない。いかなる理由があって意志を持つカードなるものが生まれたのか?それを知ることはすなわち、その発生源に蓋をする方法の第一歩ですよ。ここで目撃された「幽霊」はイレギュラーな産物ではありますが、同時にその突然変異へ至った原因を突き止めるにはきわめて興味深いサンプルです」
「まあぺらぺらとよく喋る、確かに糸巻さんは嫌いそうなタイプだ……『それでは、残念ながら観客は0といささか盛り上がりに欠ける舞台ではございますが。鳥居浄瑠のエンタメデュエル、本日はその目に焼き付けてお帰り願いましょう!』」

 デュエルディスクをほぼ同時に構え、暗い廊下で視線が交差する。外では月に雲がかかったのか、すっと射し込む光が弱まった。そしてそれを合図にしたかの如く、2人の声が響いた。

「「デュエル!」」





 一方、2階へと駆け上がった糸巻らは。この廃図書館の間取りは階段を上がれば横に伸びる廊下があり、かつては読み聞かせなどのイベントが行われていたのであろう小部屋に繋がる扉と2階の大部分を占める閲覧室の大まかに分けて2つの部屋がある。

「ぐわーっ!?」

 ちょうど階段を上り終えた彼女の目の前で、閲覧室側の扉を吹き飛ばして人間の体が部屋の内側から吹き飛ばされる。そのまま背後の本棚に勢いよく激突したその体は、大量の埃を巻き上げて一時的に視界を遮る。

「おいアンタ、どうした?大丈夫か……って、おいおい」
「えっと、脈はあるね。頭を打って気絶してるから当面は起き上がれませんよーと。何、おねーさんの知り合い?」
「まあな。アタシもあんま知らん奴だけど、一応は元同業者だ。つまりプロ崩れのテロリストだな。デュエルディスクが起動中ってことは、誰かとデュエルしてたのか」

 倒れたままピクリとも動かない人影に駆け寄って生命の無事を確かめ、ついでその腕で起動したままのデュエルディスクに目をやる。そのライフポイントが0を示しているところからしても、ちょうど敗北の瞬間に立ち会ったらしい。
 ならば問題は、その相手である。そして誰よりも早い反応を見せたのは、いまだに清明が召喚しっぱなしにしていた幽鬼うさぎだった。赤い目の光と宙に浮かぶ人魂の炎の軌跡を後に引き、辛うじて目で追いかけるのがやっとのスピードで開きっぱなしの小部屋へと飛び込んでいく。その姿を見てすぐさま立ち上がった清明がその後に続いたのを見て、慌てて八卦も糸巻の手を引き後に続く。そこに、彼女はいた。

「あなたは……!」

 それは、昨夜に八卦の見たままの姿だった。ただし先ほどの男が持っていたのであろう「BV」の影響か、その体は以前のように透けてはいない。ほのかに青みがかった癖のない銀髪も、全体的にやや大きめでその小さな体にはいささか持て余し気味な修道服も、誰が見てもいっぱいいっぱいなことが見て取れる張り詰めた表情やそれに相応しい今にも決壊しそうなほどに涙を湛え潤んだ大きな瞳や、その左腕に装着されて起動したままのデュエルディスクも、その全てが実態をもってここにいる。
 そんな少女を目を細めて見つめた糸巻が、ややあってポツリと呟いた。

儚無(はな)みずき、だな」
「え?」
「あのモンスターの名前だよ。見覚えがある、確か爺さんのカードショップにも1枚売ってたはずだ」

 そう言われ、改めて目の前で警戒もあらわにする精霊少女を見る。確かにあの姿は、少女にも店の手伝いをしている最中に見たことがあるような気がしないでもない。しかしそんな精霊少女の存在に誰よりもほっとしたような表情を浮かべたのは、他ならぬ清明だった。

「みずきちゃん、ね。やっと見つけた、会いたかったよ。とりあえずうさぎちゃん、説得ゴー」

 おそらく、先ほどの男は下の男ともどもこの儚無みずきを狙い、それを精霊少女が返り討ちにしたのだろう。となると今の段階では人間の話など聞く耳持たないだろうと、傍らの幽鬼うさぎの頭にポンと手を乗せる清明。すぐさまその仕草に込められた普段から自分で何でもやりたがるこの主には珍しい行動の意図を察し、愛用の鎌を手にしたままに和装の少女が歩を進める。

「……!」
「……」

 あからさまに身を震わせたものの、相手が同じ精霊であると感じ取ったのか逃げ出そうとまではしない儚無みずき。無口な精霊同士の声なき会話を、3人の人間は蚊帳の外からなんとはなしに黙ったままに見つめていた。

「……?」
「……!」

 そして短い会話は終わり、とてとてと踵を返した幽鬼うさぎが清明の元へと戻る。足元まで来て主を見上げ、何かを伝えようとするのに小さく頷く。

「アンタ、そっちは何言ってるかわかるのな」
「もうだいぶ付き合い長いからね、なんとなくは言いたいこともわかるのよ。最悪、うちの神様が通訳やってくれるしさ。ふんふん、なるほどねえ」
「えっと、幽霊さん……じゃない、精霊さんはなんて言ってるんですか?」
「こっちの言い分はわかったけど、まだ信用はできないとさ。よっぽど人間不信が強いみたいね、こりゃ。んで、それから?どこまで本気か見極めたいから、私とデュエルしろって?いいねいいね、メルヘンなのも嫌いじゃないけど、そういう武闘派思考は歓迎するよ。お疲れさま、うさぎちゃん」

 ぺろりと唇を舐め、デュエルディスクから幽鬼うさぎのカードを戻しつつそのまま構える清明。同時に、精霊少女もまた自分のデュエルディスクを構えていた。

「それじゃあ、デュエルと洒落込もうか。下の様子も気になるし、手加減抜きでいかせてもらうよ……デュエル!」
「……」

 そして先攻を取ったのは、儚無みずきからだった。糸巻も下でただ1人足止めをしている鳥居の様子は気にかかったものの、今は完全に伸びているとはいえこの階にもいつ目を覚ますかわかったものではないテロリストからの刺客がいる以上は下手に八卦を置いていくわけにもいかない。手錠や警棒といった道具の類は、全て下にいる鳥居が持っているため今の彼女は肌身離さず持ち歩いているデュエルディスクとデッキ、そして煙草の他はほぼ丸腰だ。かといって巴という男の危険性と以前対峙した新型の「BV」を今回も手にしている可能性を考えると、民間人の少女を下までまた連れて行くのはもっと論外である。
 結局はどうすることもできず、取り出した煙草に火をつけて目の前で始まったこのデュエルが終わるのを見ているしかなかった。彼女にとっては幸いなことに、今でも鳥居が下で頑張っていることは辛うじて下からの喧騒でわかる。何を話しているのかまでは聞き取れないが、彼なりのエンタメデュエルで巴相手に渡り合っている。

「……」

 そして儚無みずきが最初に召喚したモンスターは、青い鎧に身を包み槍を持つ1人の戦士。

 竜魔導の守護者 攻1800

「竜魔導の守護者……融合テーマ、ですかねお姉様」

 同意を求めるように見上げてきた少女に、そうだなと短く返す。竜魔導の守護者は融合に対し便利な効果を2つも兼ね備えているものの、反面その効果を発動するターンには融合モンスターしかエクストラデッキから特殊召喚できないという重い制約を持つからだ。
 そして主の声なき声に竜魔導の守護者が応え、手にした槍を床に突き立てる。するとその地点を中心とした魔導陣が展開され、中心から1枚のカードが浮かび上がり少女の手元にそっと届けられた。それを見て、今度は清明がその行為を誰に聞かせるともなく代弁する。

「竜魔導の守護者の効果で手札を1枚捨てて、デッキから融合かフュージョンの魔法カードをサーチした、ってわけね。それで、選ばれたのは簡易融合(インスタント・フュージョン)と」
「……!」

 サーチ後にすぐさま発動された簡易融合のカードは、融合召喚に必要な下準備をすべて省き融合召喚を行うことができる代わりに発動時に1000のライフコストが必要となる。いきなり初期ライフの4分の1もの数値をためらいなく支払ってまで呼び出されたのは、オレンジ色のドラゴンとその上にまたがるトカゲの戦士だった。

 儚無みずき LP4000→3000
 ドラゴンに乗るワイバーン 攻1700

「……」

 仕上げとばかりに発動される永続魔法、補給部隊。そこでターンを終えたらしく、エンドフェイズを迎えたドラゴンに乗るワイバーンは簡易融合のデメリットによって破壊される……だがその破壊をトリガーとして補給部隊の効果が発動し、すぐさま少女はその損失を取り戻す1枚のカードをドローする。同時に、墓地から角と鱗の生えた龍の仙人のようなモンスターが座禅を組んだ姿勢のまま浮かび上がる。

 霊廟の守護者 守2100

「簡易融合の自壊を逆手にとって補給部隊だけじゃなく、墓地から霊廟の守護者まで蘇生したか。ありゃ確か、自分のドラゴン族が戦闘か効果で墓地に送られるたびに何回でも出てくる奴だったな。随分面倒な壁を初手に引かれたもんだ」
「だとしても、僕のやることは変わらないね。壁が何回でも出てくるなら、何回だって食い破ってやるまでさ。僕のターン、ドロー!さあ来い、水精鱗(マーメイル)-ネレイアビス!そして僕のフィールドに水属性モンスターが存在することで、サイレント・アングラーを手札から特殊召喚……そしてこの特殊召喚をトリガーに速攻魔法、地獄の暴走召喚を発動!攻撃力1500以下のモンスター1体の特殊召喚をトリガーに、デッキからさらに2体のアングラーを攻撃表示で特殊召喚。ただしこの時に相手もモンスター1体を選択して、可能な限り手札、デッキ、墓地から同名カードを特殊召喚できる」

 水精鱗-ネレイアビス 攻1200
 サイレント・アングラー 守1400
 サイレント・アングラー 攻800
 サイレント・アングラー 攻800

「……」

 霊廟の守護者と、竜魔導の守護者。2体の守護者を見比べた儚無みずきが選んだのは、竜魔導の守護者だった。デッキからさらに2体の竜の騎士が選ばれ、フィールドへと放たれる。

 竜魔導の守護者 守1300
 竜魔導の守護者 守1300

「ありゃ、3積みだったかー……まあいいさ、何回だって言わせてもらうけど、どうせ僕のやることに変わりはないしね。水族のネレイアビスと魚族のサイレント・アングラーを、それぞれ右下及び左下のリンクマーカーにセット!一望千里の大海洋に、忘却の都より浮上せよ女王の威光!リンク召喚、リンク2!水精鱗(マーメイル)-サラキアビス!」

 水精鱗-サラキアビス 攻1600

 左側のエクストラモンスターゾーンに、糸巻との戦いでも使用された紫色のビキニアーマーを装備する女王にして戦士であるサラキアビスがリンク召喚される。しかもまだ、清明のフィールドには2体のサイレント・アングラーが残っている。間髪入れずにその2体が水色の光となって飛び上がり、螺旋模様を描きつつ空中で反転して彼の足元に開いた宇宙空間へと飛び込んでいく。

「ネレイアビスがフィールドから墓地に送られた時、僕はカードを1枚ドローして手札を1枚捨てることができる。さらに水属性レベル4モンスター、サイレント・アングラー2体でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。一天四海に響く轟き、呼びて覚ますは同胞の牙!エクシーズ召喚、バハムート・シャーク!」

 ☆4+☆4=★4
 バハムート・シャーク 攻2600→3100 守2100→2600

 サラキアビスの示す2つのマーカーのうち片方に呼び出されたのは、神話の名を持つ2足歩行の海竜だった。その効果はリンクマーカーが1つ空いている、この状況にあってこそ最大限の物を発揮する。

「サラキアビスのリンク先に存在するモンスターは、常に攻守が500ポイントアップするよ。伏せカードもないことだし、ここはバトル!バハムート・シャークで攻撃表示の、サラキアビスで守備表示の竜魔導の守護者にそれぞれ攻撃!」
「……!」

 海を司る2体の息もつかせぬ連続攻撃に、いかにドラゴンの力を持ち融合を操る戦士といえどもあっけなく粉砕される。モンスターの破壊は補給部隊によってすぐさまドローという形のリカバリーがなされたものの、その効果も1ターンに1度しか使えない。

 バハムート・シャーク 攻3100→竜魔導の守護者 攻1800(破壊)
 儚無みずき LP3000→1700
 水精鱗-サラキアビス 攻1600→竜魔導の守護者 守1300(破壊)

「攻撃終わり、メイン2にバハムート・シャークの効果発動。このカードのオーバーレイ・ユニット1つをコストに、エクストラデッキからランク3以下の水属性エクシーズを1体特殊召喚する、ゴッド・ソウル……大安吉日新年の朝、昇る日の出が勝利を照らす!ランク2、餅カエル!」

 バハムート・シャーク(2)→(1)
 餅カエル 攻2200→2700 守0→500

 バハムート・シャークが自身の周りを浮遊する光球の1つに首を伸ばして食らいつき、その身に秘められた力を解放する。その仲間を呼び寄せ戦線を強化する神話の力に誘われてサラキアビスの空いたリンク先に現れたのは大小2段に積み重なった白いとぼけた顔のカエル2匹と、なぜかその上に載せられた小ぶりなみかんであった。

「バハシャ餅の布陣か……先出しして補給部隊のドローを止めるよりも、ダメージと相手へのプレッシャー優先ってわけだな。だが逆に言えば、餅カエルのコストにできる水族モンスターが奴の手札にいないことの証明にもなる。さあ、こっからどうする気だ?いくら万能のカウンター能力があるからって、安心できるようなもんでもないぞ」

 職業柄ついやってしまう鋭い目つきでの解説に、傍らの八卦もよく分からないなりにこくこくと頷く。

「僕は、これでターンエンド」
「……!」

 再びターンが変わり、またしても儚無みずきのターンとなる。フィールドだけ見れば圧倒的に不利な状況だが、精霊少女の目に諦めの色はない。そしておもむろに、1枚のカードを取り出した。

「サンダー・ボルトぉ!?ダメダメダメ、それは絶対通せない!餅カエルの効果発動!手札かフィールドの水族モンスター1体、この餅カエル自身を墓地に送って相手の発動したカード1枚を無効にして破壊、そしてそのカードを僕のフィールドにセットする!」

 すべてを破壊する雷撃が放たれる寸前、餅カエルが長い舌を伸ばしてその手から直接サンダー・ボルトのカードをひったくる。そのまま清明の手にカードを吐き出し、気まぐれなカエルはどこかへと跳ねていってしまった。
 強力なカードであるサンダー・ボルトは、これで清明の手に渡った。しかしそれは、早くもカウンターが打ち止めになってしまったことを意味している。

「おっと、餅カエルが墓地に行ったことで、その最後の効果を発動。僕の墓地の水属性モンスター1体、サイレント・アングラーを手札に加えるよ」
「……」

 どうやら今度は、融合モンスターを呼び出す気はないらしい。効果を使わないままに残る最後の竜魔導の守護者と霊廟の守護者が、ともに先ほどの清明がやったのと同じように光の螺旋となって宙に舞う。

「エクシーズ召喚、となるとランク4か」
「……!」

 ☆4+☆4=★4
 No.(ナンバーズ)50 ブラック・コーン号 守1000

 そしてサラキアビスとは反対側のエクストラモンスターゾーンに出てきたのは、漆黒に塗られた木造の帆船。力強く張られたその白い帆には大きく「50」の文字が独特な字体で描かれている。

「ナンバーズ、か」
「……」

 帆船に備え付けられた砲台が清明のフィールドを向き、光球のうち1つがその中に吸い込まれる。そして船内から飛び出したアンカーがサラキアビスの体をぐるぐると縛り付け、身動きできない海の女王を強制的に船上へと引き込んだ。

「まずいな。コーン号はオーバーレイ・ユニット1つと自身の攻撃する権利を使うことで自分より攻撃力の低いモンスター1体を墓地に送り、そのモンスターを弾丸にして相手プレイヤーに1000のダメージを与える。だがそれだけじゃない、サラキアビスがいなくなったことでバハムート・シャークにかけられた強化も消えちまう。おまけに効果が破壊じゃない墓地送りだから、サラキアビスの破壊された際の効果も使えない」

 糸巻の言葉通り、放たれた砲弾は強化を失い弱体化していくバハムート・シャークの横をすり抜けて直接清明の足元へと着弾する。

 No.50 ブラック・コーン号(2)→(1)
 清明 LP4000→3000
 バハムート・シャーク 攻3100→2600 守2600→2100

「ぐわっ!?で、さらにアームズ・ホール?サーチは再融合、と」

 無論、これだけでは儚無みずきの反撃は終わらない。デッキトップ1枚とそのターンの召喚権をコストに任意の装備魔法1枚をサーチまたはサルベージする魔法カード、アームズ・ホール。そして手札に加えられた再融合は、800のライフを支払い融合モンスターを蘇生したうえでその装備カードとなるあの往年の禁止カード、早すぎた埋葬を全体的に調整したようなカードだった。

 儚無みずき LP1700→900
 ドラゴンに乗るワイバーン 攻1700

「……!」
「守護竜プロミネシス、随分渋いカード使うな。手札から自身を捨てて、相手ターン終了時までドラゴン1体の攻守を500アップか」

 ドラゴンに乗るワイバーン 攻1700→2200 守1500→2000

「で、ドラゴンに乗るワイバーンは……」

 みなまで言うなとばかりに、荒ぶる風の力を受けて巨大化したドラゴンが無言の指示を受けたことでその翼を広げて滑空する。またもバハムート・シャークの守りをすり抜けてその奥の清明まで到達し、ワイバーンの振り下ろした竜の剣がその体を咄嗟のガードの上から大きく切り裂いた。

 ドラゴンに乗るワイバーン 攻2200→清明(直接攻撃)
 清明 LP3000→800

「痛たた……ドラゴンに乗るワイバーンは相手モンスターが水、炎、地属性しか存在しない場合、モンスターをすり抜けて相手プレイヤーに直接の攻撃ができる、だっけ?水属性メインの僕はいいカモってわけね」
「私も、クノスぺは地属性です……」
「アタシも不知火が炎でバジェは水だからな。ドーハスーラでも先出しできりゃともかく、この中だと誰が相手してもあんま変わらないだろ」

 追い込まれているというのにどこかのんびりとした会話をよそに、儚無みずきが1枚の伏せカードと共にそのターンを終えた。このターン中に清明のライフを削りきれなかった以上、当然その返しに彼は先ほど奪い取ったサンダー・ボルトが使用できる。当然、儚無みずき自身もそれはわかっているはずだ。
 だが、まだ少女の戦う意志は衰えていない。となると、と彼は推察する。まあ普通に考えて、あの伏せカードが何か悪さをするのだろう。しかし、せっかくもらえたものを使わない道理はどこにもない。もしも通れば儲けもの、まさかピンポイントなメタカードである避雷針などは入っていないだろう。

「僕のターン。お望みどおりに使ってあげるよ……リバースカードオープン、サンダー・ボルト!このカードの効果で、相手フィールドに存在するモンスターをすべて破壊する!」
「……」

 果たしてどんなカードで対応するのか、という視線が注がれる中、天から振り下ろされた雷の一撃がフィールドを焼き尽くしにかかる。しかし誰もの予想に反し、その伏せられたカードは最後まで表にならなかった。ドラゴンに乗るワイバーンとブラック・コーン号はともに跡形もなく焼き尽くされ、補給部隊のドロートリガーとなる。だが、それだけだ。他に何も起きない。最初にその違和感に気が付いたのは、やはり糸巻だった。

「……妙だな」
「どうかしましたか、お姉様?」
「コーン号の素材になってた霊廟の守護者は、もうとっくに墓地にいるはずだ。そして今のサンボルは、確かにドラゴン族モンスターのドラゴンに乗るワイバーンを破壊した。なら……」
「何もしてこない、ねえ。となると何か、蘇生させたくない理由があるってこと?霊廟の守護者がフィールドに居座ってたら発動できないカードとか……」

 言葉を繋ぎ、足りない脳をフル回転させての推測にかかる清明。彼の直感は、ここでの判断がこのデュエルの行く末を大きく左右すると告げていた。このままバハムート・シャークで攻撃するか、攻撃力800とはいえ先ほどサルベージしたサイレント・アングラーも通常召喚して戦闘に参加させるか、あるいは……そして、彼の腹が決まる。

「魔法カード、スター・ブラストを発動。ライフを500払うことで、僕の手札に存在するサイレント・アングラーのレベルを1つ下げる」

 清明 LP800→300
 サイレント・アングラー ☆4→☆3

 いきなり下級モンスターのレベルを貴重なライフを払ってまで下げるという行動に虚を突かれたのか、困惑したような表情になる儚無みずき。しかし、彼は至って正気だった。

「このターンもバハムート・シャークの効果発動、ゴッド・ソウル!如法暗夜を引き裂くは、沈黙にして悪夢の刃。さあ出ておいで、No.47……ナイトメア・シャーク!」

 彼のフィールドに向くリンクマーカーは存在しないが、そんなもの用意せずとも今はサラキアビスが離れたことで彼女のいたエクストラモンスターゾーンに空きがある。その位置へと、悪夢の世界から飛び出てきたような細長い体に鎌のような両手、そして不吉に広がる翼を生やすもはや鮫と呼ぶこともおこがましいような異形の生物が音もなくやってきた。

 No.47 ナイトメア・シャーク 攻2000

「ナイトメア・シャークの効果、発動!このカードの特殊召喚に成功した時、僕は手札か場にいるレベル3の水属性モンスター1体をそのオーバーレイ・ユニットに変換できる。これでレベル3にしたサイレント・アングラーを変換して、そのままナイトメア・シャークの更なる効果を発動。オーバーレイ・ユニット1つを消費して水属性モンスター1体を選択し、そのモンスターの直接攻撃を可能とする、ダイレクト・エフェクト!」
「……!」

 No.47 ナイトメア・シャーク(0)→(1)→(0)

 ナイトメア・シャークがその効果を発動し、細長い体が闇の中へと音もなく消えていく。それを見た儚無みずきは明らかに思わずといった様子で伏せカードに目をやり、そしてしょんぼりと肩を落とした。どうやら大正解を選んだらしいと察した清明は、それ以上何も言うことなく最後の攻撃宣言を行う。

「バトル。ナイトメア・シャークでダイレクトアタック」

 No.47 ナイトメア・シャーク 攻2000→儚無みずき(直接攻撃)

「……!」

 それは、精霊少女の意地による最後の抵抗か。無駄と知りつつも表を向いた伏せカードの名を、八卦が小さく読み上げる。

「エクシーズ・ダブル・バック……」

 エクシーズ・ダブル・バック。エクシーズモンスターが破壊されて自分フィールドにモンスターが存在しないターンにのみ発動でき、そのターンに破壊されたエクシーズモンスター1体とそれよりも攻撃力の低いモンスター1体を蘇生させるカードである。そして、サンダー・ボルトを受けた2体のモンスターが蘇る……しかし、その壁が役に立つことはない。音もなく忍び寄った悪夢の刃は、すでに儚無みずきの真後ろの闇へと溶け込んでいた。

 No.50 ブラック・コーン号 攻2100
 ドラゴンに乗るワイバーン 攻1700
 儚無みずき LP900→0





「なかなか強かったよ、みずきちゃん。うさぎちゃんの時もそうだったけど、やっぱ精霊は強い子多いね」
「そうなんですか?」
「そうそう。他にもユベルとか、The() despair(ディスペア) URANUS(ウラヌス)とか……まあ色々いたけど、みんなみんな強かったもん。と、まあそれは昔の話だからどうでもいいのよ」

 ほんの少しだけ過去を振り返るかのように遠い目をし、すぐに現実に引き戻る。膝を曲げて目線の高さを合わせつつ、そっと片手を差し出した。

「僕と一緒に、来てくれないかな。もちろんみずきちゃんのためでもあるけど、隠し事は無しでいこう。正直なところを言うと、これは僕のためでもあるんだ。僕は、もっともっと強くなりたい。今のままじゃまだ足りない、今のままじゃ何も、できやしない……!」

 そこで喋っているうちにこみ上げてきた感情を押さえつけるためか、差し出した手はそのままにぐっと目を閉じ奥歯に力を込め歯を食いしばる。こののほほんとした少年の過去に一体何があったのか、それは糸巻や八卦の知るところではない。しかし今の1瞬だけ見えたその表情は、よほど手ひどい地獄を見たのであろう過去の存在をうかがわせる。
 そして、かつて「BV」によりそれまでの生活の全てを失った糸巻には、ちょうどかつての自分と目の前の少年の姿がダブって見えた。それだけにそんな訴えが他人事とは思えずに、表情を曇らせ目を伏せる。煙草は、いつの間にか吸い終えていた。

「……だから、お願い。僕と、一緒に来て」

 永遠にも思えるような時間が過ぎた。とはいえ実際のところ、その間はせいぜい数秒程度だったのだろう。まっすぐに目を上げて清明を見つめた儚無みずきはやがて何かを決心したようにおずおずと近寄り、そっとその手に自身の小さな手を重ね合わせる。さらに空いたもう片方の手を懸命に伸ばし、かがんだままの彼の頭をそっと撫でさする。

「……」

 これまでで一番の優しい微笑みを浮かべたその体が明るい光に包まれて消えていくと、残ったのは清明の手の上の1枚のカードのみ。それがこの幽霊騒ぎのそもそもの原因となった、たった1枚のカードなのだろう。立ち上がった彼がそれをそっと掴んで見つめ、自らのデッキを取り出してその一番上に追加する。

「ありがとう。じゃあ、改めてこれからよろしく」

 万感の感謝のこもったその言葉にまたひょっこりと空中から現れ、コクリと小さく頷く儚無みずき。そしてまた消えていく精霊少女を見送ったのち、後ろの2人へと振り返る。

「さあ、早いとこ下に戻って」

 しかし、その言葉を最後まで言い終えることはできなかった。彼の言葉を断ち切るかのように階下からはっきりと聞こえたのは、まぎれもない苦痛の悲鳴。

「ぐ……うわあああぁーっ!」
「この声……」
「鳥居、どうした!?チッ、仕方ねえ、行くぞ!」
「まったく、次から次へと忙しいったらありゃしない!」

 感慨に浸る間もなく、すぐさま小部屋を飛び出して最初の階段を駆け下りる3人。踊り場に辿り着いたとき見えた光景に、糸巻は息を呑んだ。 
 

 
後書き
こんないかにも即座に次話投稿しそうな引きですが、次回も多分遅れます。
冒頭でお話ししたドラゴンメイドの構築がまだ練りきれてないのもそうですが、8月下旬はそろそろ別ゲーも忙しくなるんですよね(小声)。 
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