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戦国異伝供書

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第五十二話 籠城戦その五

「当家が天下を治める様になった時は」
「拙者もですか」
「管領になってもらうでおじゃる」
「それはよきこと。竹千代が管領なら」
 義元のすぐ傍にいた気品のある若者が言ってきた、義元と同じく公家風の恰好だが実に明るく気さくな感じがする。義元の嫡子で今川家の跡継ぎ今川氏真である。
「麿も有り難いでござる」
「お主から見てもじゃな」
「父上、竹千代は智勇を兼ね備えていて」
 氏真は父に明るく確かな声で話した。
「しかも真面目で律儀で慈悲も篤いので」
「そうした面でもじゃな」
「実によい者で」
 それでというのだ。
「傍にいると頼りになります」
「そうであるな」
「特にその律儀さが」 
 元康のこの資質がというのだ。
「竹千代の美点で」
「管領になってもでおじゃるな」
「頼りにすべきです」
「全くでおじゃる」
「東国は長尾殿に任せ」
 氏真はまずは関東管領となった政虎の話からした。
「そこに奥州探題の伊達殿、羽州探題の最上殿も置き」
「東国はそうして治めるでおじゃるな」
「そして西国、天下の殆どは」
 そちらはというと。
「竹千代にです」
「武田殿とじゃな」
「麿は竹千代から聞いたでおじゃるが」 
 そのうえでのことだがというのだ。
「和上も言っておられるので」
「織田のうつけ殿じゃな」
「そうなりましょうか、そこに西国探題と九州探題もですが」 
 ここで氏真はどうかという顔で言った。
「九州は大友殿でよいにしても山陽と山陰即ち西国は」
「そこでおじゃるな」
「前は大内殿がおられましたが」
 それでもとだ、氏真は曇った顔になり父に話した。
「今はあの有様、逆に毛利殿が出てきていますが」
「確か大江家の血筋でおじゃったな」
「その様ですが」
 鎌倉時代に辣腕を振るった大江広元の末裔だというのだ、だが氏真は曇った顔のまま言うのだった。
「しかし」
「毛利殿はのう」
「奸悪無限の噂がありますが」
「あれは事実でおじゃるな」
「とかく謀と裏切り、騙しを常とし」
「敵は城の足軽達まで皆殺しでおじゃるな」
「その様なことは」
 どうかと言うのだった、氏真は。
「断じてです」
「してはならぬでおじゃる」
「最悪でも城の主が腹を切る」
 それでというのだ。
「済ませるべきですが」
「あの御仁は違うでおじゃるな」
「命は助けると言って降した後で」
「騙して皆殺しでおじゃるからな」
「千を超える者を。その様なことは」
「言語道断でおじゃる」
「その様な御仁を西国探題にしては」
 到底というのだ。
「世は治まらぬかと」
「麿も同感でおじゃる」
「父上もでおじゃるな」
「あの御仁は下手をすると美濃の斎藤殿や大和の松永殿よりも悪いでおじゃる」
「このお二人もどうにもですが」
 雪斎もどうかという顔で言ってきた。
「毛利殿の振る舞いは」
「和上にしてもでおじゃるな」
「最早天魔ですらです」
 こうまで言うのだった。 
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