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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第7章:神界大戦
  第215話「慈悲なき絶望・前」

 
前書き
前回の閑話からの続きとなります。
一応、閑話の方を読んでなくとも大丈夫です。
 

 





       =out side=







「はぁあああっ!!」

〈“闇祓いし天巫女の祈り(プリエール・エグゾルシズム)”〉

 司の持つシュラインの矛先から、眩い閃光が放たれる。
 閃光は極光となり、眼前に迫っていたアンラ・マンユを呑み込んだ。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、これで、全部!?」

 体感で言えば数時間に及ぶような戦闘だった。
 イリスが複製したアンラ・マンユは一体だけでなく、何体も存在した。
 それら全てを、司は相手にしていたのだ。
 “負”のエネルギーを凝縮した存在であるアンラ・マンユと相対し続けたため、天巫女である司でもかなりの精神的疲労が出ていた。
 意識の持ちようで疲労も回復出来るとはいえ、限度があった。

「…………」

 司は構えを解かず、周囲を警戒する。
 一体目を倒してから、次のアンラ・マンユは突如出現していた。
 時には二体以上を同時に相手する時もあった。
 そのため、例え倒しきったと思っても警戒は解かなかった。

「(打ち止め?それとも、さらに増える?)」

 呼吸を整えつつ、辺りを窺う。
 だが、一向に新たなアンラ・マンユは現れない。

「………来ない……?」

〈そのようですね〉

 警戒は緩めないが、それでももう来ないと思えた。

「……ふぅ……」

 そのため、司は緊張をほぐすように溜息を吐いた。

「ッづ!?」

 



   ―――そして、その瞬間を狙い撃ちされた。







「―――ァ……!」

 “顎を蹴り上げられた”と気づいたのは、その数瞬後だった。

「(接近に気付けなかった!?早すぎる!)」

 すぐに体勢を立て直そうとして……また吹き飛ばされた。
 ガード自体は間に合ったが、それでも再び体勢を崩された。

「(アンラ・マンユに続いて、今度は神!それも、“天使”も従えてる!)」

 包囲するように“天使”が肉薄。
 攻撃を防ごうと、司が障壁を張ろうとした瞬間―――

「ぅ、ぁっ!?」

 それよりも“早く”、神の拳が司の体を吹き飛ばした。

「(“祈り”が間に合わない!?ストックしている魔法じゃ、心許ない……!)」

 それどころか、体勢を立て直しきる事すら困難。
 そんな状況に、司は陥っていた。
 アンラ・マンユとの連戦を経て、司の天巫女としての弱点である魔法発動までのタイムラグ、それを補うための魔法のストックもほぼゼロになっていた。
 いくら優輝達との特訓を経たとはいえ、未だにタイムラグは残っている。
 敵は、そんな僅かなタイムラグを突いて攻撃してきていた。

「(とにかく、何とかして体勢を……!)」

 通常の魔法で魔力弾を放つ。
 “天使”達への牽制として放たれたそれらは、あっさりと躱される。
 当然だ。司は天巫女の力なしでは、才能においてなのは達に劣る。
 誘導性も速度もなのはやフェイトには及ばない。
 尤も、今回は牽制なため、役目は果たしていた。

「これでっ!!」

   ―――“神槍-真髄-”

 霊術が組み立てられ、光の槍が周囲に放たれる。
 これにより、“天使”達は司に接近しきれずにいた。

「(後は神を……!)」

 姿を捉えた神へ向け、通常の身体強化魔法を発動させつつシュラインを振るった。

「―――ぇ?」

 だが、それはあまりにあっさりと逸らされた。
 まるで、出鼻を挫くかのように、瞬時に受け流された。

「ッ―――!!」

 障壁は間に合わず、辛うじて身体強化を集中させるに留まった。
 カウンターの掌底が直撃し、司は吹き飛ばされる。

「(動きの出が“早すぎる”!優輝君やとこよさん、サーラさんみたいにただ速いだけじゃない……先制を取ったはずなのに、()()()()()()()!)」

 吹き飛ばされた所へ、“天使”達の攻撃が放たれる。
 まるで、そこに吹き飛ぶのが予定調和のように、先読みして放たれたため、司は障壁を辛うじて張る事しか出来なかった。
 結果、防ぎきれずに再度吹き飛ばされた。

「(“天使”達も同じ……先手を取られてる!ダメ、このままじゃ!)」

 天巫女の特性上、先手を取られ続ける事は非常にまずい。
 アンラ・マンユとの連戦による疲労も重なり、司の思考に焦りが生じる。

「(身体強―――)」

「遅い」

「っづ……!?」

 思考か、行動を読まれる。
 身体強化のための“祈り”すら、阻まれて攻撃を受ける。
 間に合ったのは、シュラインの柄を割り込ませただけ。
 攻撃を受け止めきれず、再び司は体を浮かせた。

「ッ、ぁっ、ぐ、ぁあああっ!?」

 “天使”達が殺到する。
 何をする事も出来ずに、司は体勢を崩され続ける。
 決して反撃を行わせないように、延々と。

「こっ、のぉっ!!」

 無論、司も無抵抗なはずがない。
 無理矢理、霊力と魔力を混ぜ合わせ、“天使”達を吹き飛ば―――

「させん」

「ッ―――!?」

 ―――す前に、神が先手を打ち、“天使”達は飛び退いた。
 結果、司がただ自爆しただけとなってしまう。

「(本当に、まずい……!)」

 霊力と魔力を混ぜ合わせるための集中力を搔き乱された。
 そのために、司は自爆してしまった。

「ぐ、くっ!」

 特訓により、染みついた技術が体を動かす。
 体勢を立て直す前に放たれた追撃を紙一重で躱した。
 そして、さらに間髪入れずに放たれた極光を、シュラインで逸らす。
 無理矢理体を捻り、背後を取った“天使”に蹴りを叩き込んだ。

「(転移……!)」

 マルチタスクによって構築していた術式で、ようやく間合いを取った。
 体勢を立て直しつつ、神達を見据える司。

「ぐっ……!?はぁ、はぁ、はぁ……」

 肩で息をする司。
 神界において物理ダメージは大した事はないが、司はまた別の理由があった。
 司が聖司だった頃、死ぬ前に虐待を受けていた経験がある。
 乗り越えたとはいえ、精神的なダメージを負わない訳ではない。
 先程の“天使”達の攻撃は、その時の虐待を想起させた。
 その分、精神的なダメージが大きかったのだ。

「(魔法の発動が間に合わない。ものによっては、霊術すらも。使えるとすれば、天巫女の力を使わない基本的且つ、発動が早い魔法や霊術……後は体術かな)」

 思考を加速させる。
 なるべく分析し、相手と自分の差や特徴を探る。

「(とにかく“早い”。先手を打たれて反撃も抵抗も中断させられる。……私と相性最悪だね。これは……)」

 確実にタイムラグを突かれている。
 それは司にも理解出来ていた。出来ていてなお、対処できない。

「(“早い”事に関する“性質”かな。もしくは、そのまま“早い性質”か)」

 故に、それに類する“性質”だと司は推測した。
 司自身が知る由もないが、対峙する神はまさにその“性質”だった。

「(どの道、このままじゃいけない。何とかして、突破しないと)」

 まだここで倒れる訳にはいかないと、司は自らを奮い立たせる。

「(ここまで来て、諦められない!絶対に、優輝君の所へ―――)」

 “戻る”。そう決意して―――










「浅はかな」

「―――ぁっ?」

 ―――目の前に来た神によって、その“意志”に罅が入れられた。
 掌から放たれた閃光によって胴を貫かれる。

「っ」

「思考する暇があるか?」

 反撃するための魔力を集めた瞬間、首を掴まれる。
 そのまま理力を流し込まれ、反撃のための力は霧散させられた。

「否、お前にはもう思考する暇も与えない」

「ッ」

「遅い」

「っご……!?」

 司はそれでもシュラインを振るおうとし、胴へ掌底された事で吹き飛んだ。
 行動一つ一つの先手を取られ、司は抵抗さえ許されない。

「(行動どころか、思考にも!?このままじゃ―――)」

「ふっ!」

「っづ……!?」

 思考が追いつかない。
 司が脳内で結論を出す前に、思考を中断させるように追撃が入る。
 防御も間に合わないため、唯一司に出来た事は、ダメージの軽減だけだった。

「(まるで、お手玉―――)」

「こちらもお忘れなきよう」

「ぐっ!?」

 神だけではない。“天使”もいる。
 思考が纏まらないまま、司は“天使”の追撃も受ける。

「ッ!!」

「っと……!」

「っぐ、はぁ、はぁ……!」

 思考してからの反応が間に合わない。
 そのため、司は一度“身を任せた”。
 今までの経験に身を委ね、反射的な体の反応に賭けた。
 その賭けに勝ち、司は“天使”の攻撃を一部捌き、包囲を抜け出した。

「(マルチタスク……!)」

 マルチタスクによる全力の思考を行う。
 考えてからの行動では遅い。かと言って、脊髄反射で勝てる訳でもない。
 何より、今の状況ではジュエルシードの力を一つも使えていない。
 劣勢状況を変えるために、司は全力で考える。

「ッ―――!」

「させん」

 だが、それすら割り込むように阻止される。
 最早、思考が意味を成さない。

「(考えていたら―――)」

「はぁっ!」

「(―――負ける!)」

 司はそう結論付け、防御に意識を割いた。

「っ、ぁっ!」

「むっ……!」

 勘と、経験。その二つのみで神の攻撃を防ぐ。
 尤も、司の技量ではそれは成し遂げられない。
 全て防御する事は出来ずに、司はさらに後退する。

「隙だらけです」

「っづ、ぁっ……!?」

 そこへ、“天使”達がすかさず追撃する。
 連続攻撃に、司は耐えきれずに吹き飛ばされた。

「ぉぐっ……!?」

 体勢を立て直す間もなく転がり、そして立ち上がる前に腹を蹴られる。
 蹴り上げられた事で浮いた体を、神は閃光を繰り出してさらに吹き飛ばした。

「(耐え―――)」

「防戦一方だな」

「(―――て……)」

 吹き飛ばされた先で、また吹き飛ばされる。
 思考に割り込むように打ち抜かれ、中断させられる。
 それでも、司は諦めないように“意志”を保つ。

「(今は―――)」

「だが、それも仕方あるまい」

「(―――耐えて)」

 反射的に反応する防御行動で、僅かにでも攻撃を防ぐ。

「(打開策―――)」

「お前はもう、何も出来ない」

「(―――を―――)」

 その先に、何か反撃の手段があると、そう信じて。

「(っ……)」

 天巫女の力は使う間もなく阻止される。
 それどころか、普通の行動や思考さえも先手を取られる。
 通じるのは、無意識下の行動か、我武者羅な行動のみ。

「ぁあああああっ!!」

「ッ!」

 司が魔力を放出する。
 神や“天使”が僅かに怯み、後退する。
 だが、それだけだ。

「っ……!」

「遅い!」

 次の行動に、間に合わない。
 その前に神の“性質”によって阻止される。

「(まだ―――)」

「無駄な足掻きだ」

 もし、これが司でなければ、結果は違ったのかもしれない。

「(まだ―――)」

「私はお前を確実に倒すためにイリス様に遣わされた」

 奏であれば、ディレイを駆使する事で神の“早さ”に対抗出来ただろう。
 緋雪であれば、我武者羅な攻撃で充分な効果を発揮出来ただろう。
 優輝や椿達であれば、勘と経験で対処出来ただろう。

「(打開、策を……)」

「お前以外であれば、勝ちの目はあっただろうな」

 そのどれにも当てはまらない司だからこそ、今の状況に陥っていた。
 今までの神界の戦いでは起きていなかった、“弱点を突いた戦い”。
 それが、ついに起きたのだ。

「(何とかして……)」

「チェックメイトだ」

 司は知らない。この状況に陥ったのはイリスの策略だと。
 司は理解していない。もう、勝ち目など存在しない事を。
 司は気づいていない。








「(―――優輝、君……)」









   ―――もう、自分の“可能性”が、閉ざされている事を。

































「はっ……!」

 刃が煌めく。
 奏は攻撃を避けるように駆けながら、一人の“天使”を切り裂く。
 その様子が、いくつもの数繰り広げられている。
 
「ここで仕留める……!」

 司、奏、緋雪の三人でも劣勢だった“天使”の集団+援軍で増えた神数十名。
 それを、奏は分身する事で数の差を上回っていた。
 本来ならデメリットがあるガードスキル、ハーモニクスを使い、奏は鼠算式に数を増やして神達に対抗したのだ。

「“一心閃”……!」

 複数の奏から放たれた一閃によって、“天使”がまた一人墜ちる。
 三人では敵わなかった相手でも、数で上回ればこうして優勢に立てた。

「(これで、ようやく倒せるようになるなんて……!)」

 否、それでギリギリだった。
 数を無制限に増やせる存在は、神界にもいる。
 質は神達の方が圧倒的であるため、結局は劣勢のままなのだ。
 ただ、その中で勝ち目が出ただけに過ぎない。

「(一人だったら、倒しきれなかった……!)」

 奏が一人だった時でも、倒す事は可能だった。
 しかし、一人倒した所で、他の神や“天使”を相手にしている内に復活する。
 その事もあって、こうして数を増やさなければ勝ち目がなかった。

「(一度、気絶する事になりそうね……)」

 ここまで数を増やせば、その反動は計り知れない。
 神界でなければ、確実にハーモニクスの分身を戻した瞬間、脳が焼き切れて死んでしまう程の情報量が既にあるだろう。

「(でも、今は倒す事だけに集中よ……!)」

 余分な思考はいらないと、奏は目の前の事に集中する。







「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

 それから、神達を全滅させるまであまり時間は掛からなかった。
 しかし、疲労はその何十倍もあった。
 何せ、全力で戦いつつ、分身も増やしていたのだ。
 本来なら一分程でガス欠するような事を戦闘中ずっと持続させていた。
 そのため、疲労は大きく蓄積していた。

「(今“Absorb(アブソーブ)”を使うのは危険すぎるわね……)」

 その上で、分身をいつまで出している訳にはいかず、戻す必要があった。
 だが、さすがに疲労した状態で戻すのは危険過ぎると判断し、少し休憩する。

「(比較的疲労の少ない分身を警戒にあたらせて、休憩を……)」

 その場に座り込んで、奏は休息を取る。
 分身に警戒を任せる事で、確実に体力を回復させた。

「(誰か戻ってきてから戻す方が得策ね)」

 アブソーブは一部の分身だけ戻す事が出来ない。
 万全まで回復しても反動がきついと判断した奏は、司か緋雪が戻ってくるまで分身は出しっぱなしにする事にした。
 また、倒した神達がいつ復活するか分からないため、その見張りとしても分身は必要かもしれない事も出しっぱなしの理由の一つだった。

「随分と、悠長だな」

「ッ―――!」

 その時、奏は背後に気配を感じた。
 同時に振り返りざまにハンドソニックを振るう。

「無駄だ」

「ッ」

 “ガギン”と、それはあっさりと阻まれる。
 まるで鋼鉄を斬ろうとしたように、障壁でもない肌に阻まれた。

「(堅い!)」

 即座に奏は間合いを取り、仕切り直す。
 奏に声を掛けた神は、筋骨隆々な体格の大男だった。
 まさに鋼鉄の肉体かのような出で立ちに、奏は歯噛みする。
 いくら、堅い相手への攻撃手段を会得しているとはいえ、相性が悪いからだ。

「(……どうやって、ここまで接近を……いえ、それ以前に、隔離された……?)」

 奏が周囲を見れば、結界らしきもので隔離されていた。
 分身と本体が完全に分断されていたのだ。

「接近方法と結界が気になるか?」

「……教えてくれるのかしら?」

 情報はあった方がいい。
 そう判断して奏は神に耳を傾ける。

「簡単な事だ。隠密行動に長けた神に協力してもらったに過ぎない」

「……そうね。単純な事だったわ……!」

 接近された原因はあっさりと分かった。
 聞くや否や奏はディレイで肉薄、刃を振るう。

「効かんな」

「(単純なフルパワーでは効かない……となると……!)」

 全力で斬りかかった。しかし、それでも効かない。
 故に、奏は別の攻撃方法に切り替える。

「ふっ……!」

「っ、ほう……!」

 魔力を刃に込め、斬りつけると同時に叩き込む。
 所謂、徹し。防御力を無視できる方法で攻撃した。
 棒立ちで無効化していた神も、その攻撃は通じたのか声を漏らす。

「は、ぁっ!!」

「さすがに対策をしていたか……!」

 それを連続で繰り出す。
 神も棒立ちを止め、腕で防御してくる。
 それでも腕にダメージは蓄積していく。

「ただ堅いだけなら、負けない……!」

「そうだろうな。だが、それだけじゃない」

「ッ……!?」

 ……当然のように、そこで終わらない。
 神の肉体を理力が覆った。
 その瞬間、奏は手応えの変化を感じ取った。

「侵入を“防ぐ”結界。そして、徹しすら“防ぐ”鎧だ。お前程度の攻撃なら、全てが無意味と化す」

「“防ぐ”……くっ……!」

 胴を蹴り、奏は神から再び間合いを取った。
 たった今聞いた言葉に、奏はこのままだとダメだと察したのだ。

「(“防ぐ性質”……と言った所かしら?ただ堅いだけならともかく、これは……)」

 徹しすら防ぐ鎧に、奏はどうするべきか悩む。
 一筋縄ではいかない。そんな事は分かっていたはずだ。
 それでも、相性が悪い状況に歯噛みする。

「お前に俺は倒せない。そして、お前の分身も結界外で他の神の相手をしているから援軍もない。諦めるんだな」

「そんなの、お断りよ……!」

 斬撃を飛ばす。魔力弾も飛ばす。砲撃魔法も放つ。
 その悉くが無傷で防がれ、同時に叩き込んだ攻撃も効かなかった。
 諦める訳にはいかなかった。
 攻撃が効かず、倒せないとしてもこちらが倒れる訳にはいかなかったからだ。

「(ただ徹すだけではダメ。二段構えで効かないなら、それ以上で……!)」

 羽が舞うように魔力弾を繰り出し、一度間合いを離す。
 魔力と霊力を練り、それをハンドソニックに込める。

「……はっ!!」

   ―――“Echo(エコー)

「ぬぅっ!?」

 通じた。
 刺突と共に繰り出された霊力と魔力が理力の鎧を貫通した。
 さらに肉体の防御力も透過し、ダメージを与えた。

「(これなら……!)」

 確かな手応え。
 この方法なら通じると、奏は確信する。

「これほどとは……!侮っていたか……!」

「はぁああああっ!!」

 同じように魔力と霊力を込めた攻撃を連続で放つ。
 金属音のような音が響き、神の体を揺さぶるようにダメージを徹す。

「(このまま……っ!!)」

 蓄積した疲労を振り払うように、奏は全力で刃を振るい続ける。
 反撃の攻撃はディレイで避け、即座にカウンターを決める。
 一撃一撃が積み重なり、確かなダメージとなる。









「―――なるほど。イリス様が俺を宛がう訳だ」

「えっ……」

 直後、“ギィイン”と刃が阻まれた。
 徹すはずの衝撃も、完全に阻まれていた。

「障、壁……!?」

「肉体だけが防御の全てじゃない。当然だろう?」

「ッ……!」

 動揺の隙を潰す為に、またもや奏は間合いを取った。

「(まだっ……!)」

 すぐさまもう一度攻撃に出る。

「ッ―――!?」

 しかし、またもや阻まれる。
 波紋を広げたような円形の障壁によって、完全に攻撃が受け止められていた。

「くっ……!」

〈“Delay(ディレイ)”〉

 背後に回り込み、一閃。
 だが、それも別の障壁が展開されて防がれた。

「(堅い……!本人の防御力よりも、圧倒的に……!)」

 手応えがまるで違った。
 神本人が鋼鉄を斬りつけたような手応えであるならば、障壁は何よりも柔らかく、そして硬いものを斬りつけたかのような感覚だった。
 衝撃が一切徹らず、切り裂く事も出来ない堅さだった。

「は、ぁあああっ!!」

〈“Delay(ディレイ)”〉

 加速し、死角に回り込むように何度も斬りつける。
 しかし、その悉くが障壁によって阻まれる。

「ッッ!」

 刹那、奏は横に飛び退く。
 寸前までいた場所に障壁が展開される。
 留まっていたら、その障壁によって吹き飛ばされていただろう。

「(……司さんの圧縮障壁よりはマシね)」

 その攻撃は、かつて司の姿をしたジュエルシードが使っていた魔法に似ていた。
 現在では司本人も使える障壁による圧殺。
 それを目の前の神も行って来たのだ。

「(問題は……)」

 攻撃そのものはそこまで大したものではない。
 奏にとって一番重要なのは、目の前の神に攻撃が通じない事だ。

「ふっ……!」

   ―――“Echo(エコー)

 先程神にも効いた技を、一撃に重視して放つ。
 ……しかし、障壁はびくともしなかった。

「(これでも徹せない……完全に攻撃が遮断されてる……!)」

 直接神に叩き込めば効く攻撃も、障壁に阻まれればそれだけで完全に防がれる。
 せっかく編み出した技すら、あっさりと効かなくなってしまった。

「(何か、手は……!?)」

 司ならばさらに強力な攻撃を放てた。
 緋雪であれば、“破壊の瞳”の破壊の概念を使ったり、直接神を攻撃出来た。
 優輝や葵もまた、攻撃を一点集中させる事で障壁を貫く一撃を創っただろう。
 椿の場合は神の力を使う事で突破していたかもしれない。
 攻撃が軽いという欠点があるからこそ、奏はこれ以上の手段がなかった。

「(アタックスキル、ガードスキル……既存の手札じゃダメ。何か、新たな攻撃を生み出さない限り……)」

 奏の攻撃が通じないからと言って、神は防ぐだけじゃない。
 簡単な理力の弾や、障壁を押し出す事で攻撃をしてくる。
 それを奏は躱しつつ、何か手段がないか頭を働かせる。

「(なのはなら集束魔法を……優輝さんも攻撃を一点集中させる。司さんならジュエルシードと祈りで強力な攻撃を……。緋雪なら“破壊の瞳”が。帝はいくつもの宝具が。……なら、私は……)」

 自分には何かないか、必死に探る。
 この状況を打開できない限り、耐えながら誰かの助けを待つしかない。
 そのため、思考を巡らす。
 何か、突破できる手掛かりになるものがないか。

「(ガードスキル……私の力の原典は、“Angel beats!!”のもの。ガードスキルのスキル名の由来は、音楽用語だったはず。……音?)」

 ふと、一つに思い当たる。
 この場で新たな技のヒントとなり得る“モノ”を捉える。

「(私の魔法を“音”と捉え、それを束ねる。……本来なら不可能な事。だけど、神界であるならば……!)」

 霊術を応用した、概念の利用。
 それをさらに応用し、奏の技を“音”として捉える。
 そして、それを束ねて撃ち出す。

「ぐ、くっ……!」

〈“Delay(ディレイ)”〉

 霊力と魔力の陣を展開し、重ねる。
 そこへ、いくつもの術式が束ねられていく。
 だが、妨害がない訳ではない。
 奏は攻撃を躱しつつ術式の構築を行うため、精神力が削られていく。

「これ、で……!」

 そして、“音”は束ねられた。
 霊魔の陣に集まるは、奏の全ての魔法と言って過言ではない。

「貫いて……!」

「な、に……!?」

   ―――“Angel Beats(エンジェルビーツ)

 その束ねられた“音”が砲撃として放たれた。
 水色を淡く纏った七色の極光が神へと迫る。

「(私の全てを込めた霊魔術。ただ貫通力や攻撃力を上げた訳じゃない。……概念的強さを以て、障壁を貫く!!)」

 “音”の束は真っ直ぐと神へと向かい、直撃した。



















 
 

 
後書き
“早い性質”…文字通りの性質。確実に先手を取る。単純且つ、対処の難しい性質であるため、司にとっては最悪過ぎる相性。

“防ぐ性質”…あらゆるものを防ぐ。他にも、侵入を防ぐと言った応用を利かせて隔離する事も可能。奏にとって相性最悪。

Echo(エコー)…エコーのように響かせる霊魔術。やりようによっては何重にも響かせる事が出来る。イメージとしてはトリコの釘パンチ?

Angel Beats(エンジェルビーツ)…奏の集大成とも言える切り札。奏のありとあらゆる魔法を“音”として捉え、それを束ねて撃ち出す技。単純な威力などもさながら、概念的な攻撃力もあるため、直接的な威力よりも脅威に感じる。

霊魔術、霊魔の陣…単純に魔力及び霊力を混ぜ合わせた術式や陣の事。


優輝達はずっと神界の神の“性質”に対し、弱点を突いたりしていましたが、神界側がそれをしたのは今回が初めてです。
裏を返せば、神界の脅威はまだまだ上があると言う事です。 
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