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戦国異伝供書

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第五十一話 関東管領就任その十二

 政虎は鶴岡八幡宮において東国の諸家そして上杉家の家臣達が居並ぶ中関東管領になった、そのうえで祝の宴の場をもうけ。
 そのうえでだ、彼は高らかに言った。
「ではです」
「これよりですな」
 整った細面の男が言ってきた、佐竹家の当主佐竹義重だ。
「小田原に」
「はい、十万の兵を向け」
 そしてとだ、政虎は佐竹に答えた。
「そしてです」
「いよいよ北条家を」
「降します」
 そうすると答えた。
「まさに」
「それでは」
「はい、明日にもです」
「この鎌倉から」
「小田原に向かいます」
 まさにそこにというのだ。
「そして十万の軍勢で」
「それで以て攻めますな」
「北条家を」
「そのうえで」
「あの家を降し」
「関東を正しき姿に戻します」
 守護達がそれぞれの国を治めそれを関東管領が助ける鎌倉公方が統括する形に戻すというのだ、幕府がそうしていた様に。
「ですから必ずです」
「はい、小田原城を攻め落としますな」
「あの巨大な城を」
「必ずや」
「その様にします」
 こう言ってだった、政虎は上杉の軍勢に関東諸大名の軍勢を加えた十万の軍勢を南下させて鎌倉から小田原に向かった。
 そのことは氏康の耳にも入っていた、氏康は報を届けた風魔小太郎に言った。
「よくわかった、しかしな」
「我等風魔衆もですか」
「軍勢を見るだけでよい」
「そして逐次ですか」
「わしに伝えよ、しかしな」
「手出しはですな」
「何度も言うが」
 念を押してというのだ。
「決してな」
「手出しはせぬ」
「特に長尾殿にはな」
 政虎にはというのだ。
「お主は今出来れば毒をと考えておるな」
「はい、長尾殿は酒好きと聞いております」
 だからだとだ、風魔は氏康に答えた。
「ですから」
「酒にじゃな」
「そう考えていますが」
「だがわかっておるな」
 考えていてもとだ、氏康は風魔にさらに言った。
「あの御仁はな」
「そうしたことは通じぬ」
「そうした御仁じゃ、並の者にはない鋭さがある」
「それ故に」
「毒を盛ったり刺客を送ることはな」
 そうしたことはというのだ。
「通じぬわ」
「左様ですか」
「ましてや戦で渡り合うことも出来ぬ」
「殿でも」
「出来るのは武田殿だけよ」
 氏康は笑って晴信の名を出した。
「そして兵が多ければ尾張の織田殿か」
「今噂のあの御仁ですか」
「大うつけとな、しかしな」
「あの御仁については」
「わしは違うと見ておる」 
 氏康もこのことについては晴信、政虎と同じだった。信長の資質を既に見抜いているのだ。まだ会ってもいないが。 
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