戦国異伝供書
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第五十一話 関東管領就任その八
「敵わぬ」
「長尾殿には」
「そうじゃ、あの御仁と武田殿にはな」
晴信にもというのだ。
「勝てぬ」
「だからですか」
「無闇に戦わずにな」
「やり過ごしますか」
「まして街や田畑や領民に危害を加えることもな」
「長尾殿はされませぬな」
「そうした無体なことをする御仁ではない」
氏康はこのことも見抜いていた、確かに政虎は戦においては無類の強さを発揮する。だがそれでも無道な者ではないことを。
だからだとだ、綱成にも言うのだ。
「それならな」
「籠城が一番ですな」
「嵐は向かうものではない」
「去るのを待つのみ」
「そうじゃ、ではな」
「はい、この度は」
「一切出ず守るのじゃ」
「それは、ですな」
今度は幻庵が言ってきた、北条家の長老である彼が。
「鎌倉に入っても」
「叔父上も同じお考えですな」
「無論。鎌倉は武家の心の場所であり」
「本来公方様がおられるところ」
「我等にとってもそうした場所でありますが」
「長尾家と戦い敗れるとなると」
「元も子もありませぬ」
こう幻庵に言うのだった。
「何といっても」
「だからですな」
「はい、ここはです」
「鎌倉もですな」
「入らせて」
そしてというのだ。
「そこで関東管領にもなるなら」
「それならですな」
「よきこと、権威が手に入れども」
政虎の手にというのだ。
「それでもです」
「それはそれですな」
「それまでのこと」
何でもないといった口調でだ、氏康は言った。
「ですから」
「鎌倉もですな」
「一時与えるだけのこと」
「では」
「あくまで小田原に籠ります」
うって出ることはなく、というのだ。
「その様にします」
「ですな、では」
「その様に」
こうしてだった、氏康は政虎が驚くべきやり方で城を救ったと聞いて落ち着いてこう言った、そして実際にだった。
北条家の軍勢は一切うって出ずどの城も篭って出ることはなくなった、政虎はその状況を見てこう言った。
「ではこのままです」
「小田原に、ですか」
「向かいますか」
「そうしますか」
「はい、越後への道は守りながら」
補給路を保ちつつというのだ。
「そしてです」
「小田原に向かい」
「あの城を攻め落とす」
「そうされますか」
「必ず」
こう言う、そしてだった。
あらためてだ、政虎は上杉家の諸将にこうも言った。
「こちらに入って来る東国の諸大名の方々ですが」
「拒むことなくですな」
「受け入れられますな」
「そうされますな」
「はい」
その通りだと言うのだった。
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