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まずすべきこと

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第二章

 王はバビロンの軍勢を南に集中させた、その間も国の守りは忘れない。見事な街並の都バビロンは高く厚い城壁と深く広い堀に囲まれて実に堅固であり多くの兵達に守られていた。
 バビロンの軍勢はラルサを次第に攻めていき勢力圏を拡大し次第にこの国を追い詰めていった、そうしてこのラルサを併呑し南方の街を次々にバビロンの勢力に収めていった。そのうえでマリという国も滅ぼした。
 バビロンはメソポタミアの地に揺るぎない国となっていた、ここで王は玉座から言った。
「時が来た」
「といいますと」
「ではですね」
「次は北ですか」
「アッシリアですか」
「あの国を攻めますか」
「そうする、確かにあの国は強い」
 だからこそ最初に手を結んだのだとだ、王は自身の言葉にこの言葉も含ませた。
「しかしだ」
「今の我々は、ですか」
「畑と街を増やしメソポタミアの南を完全に手に入れた我々なら」
「それならですね」
「あの国も攻められる」
「そうなのですね」
「そうだ、我々ならだ」
 まさにとだ、王は廷臣達に告げた。自分達がいる宮廷も彼が即位したばかりの頃とは全く違う見事なものになっていた。そこにもバビロンの今の力が出ていた。
 王は大軍、長い歳月で整え南を制圧したその兵達を以てだった。そのうえで北のアッシリアに兵を向けた。するとだった。
 さしものアッシリアも今のバビロンには勝てず敗れた、そうしてメソポタミアの地全てを手に入れた、この時にだ。
 王はバビロンの都において廷臣達に話した。
「余は最初からだ」
「この地を全て手に入れられるおつもりでしたか」
「このメソポタミアの地を」
「シュメール及びアッカドの地を」
「そのおつもりでしたか」
「そうだ、だがこの地は多くの国がある」
 アッシリアなりラルサなりだ、とかく多くの国はチグリス=ユーフラテス川流域に都市国家単位で乱立しているのだ。
 王もこのことはわかっていた、それで今言うのだ。
「それならだ」
「迂闊に攻めるのではなく」
「まずは強い国と手を結び」
「そしてその国とは戦わず攻められない様にして」
「力を蓄える」
「畑や街も整えて」
「軍もだ」
 肝心の彼等もというのだ。
「数を増やしよい装備を与えていくがな」
「それでもまずは攻めず」
「じっくりと強い軍にして」
「それかですね」
「敵を絞り」
「その敵を攻めていったのですね」
「南からな」
 メソポタミアのそこからだというのだ。
「そうした、そしてだ」
「いよいよですね」
「北のアッシリアと戦った」
「全ては最初からお考えでしたか」
「この手順を」
「そうだった、そしてそれがだ」
 まさにというのだ。
「今のこの国を作ったのだ」
「バビロンを」
「それが出来ましたね」
「ではですね」
「これからはこの地を治めていきますか」
「メソポタミアの地を」
「確かにな、法も整えてな」
 王はこう言って今度は国を治める法を成文しかも体系化したうえで整えた、そしてその法でも国を治めていった。
 ハンムラビ王は現代でも聡明かつ偉大な王だと言われている、それは何故かということは歴史に残っている。戦いで領土を拡げ国を強大にするよりもまずすべきことがありそれを整えてからである。このことを行ったから彼はことを果たすことが出来た。歴史にある大きな教訓である。


まずすべきこと   完


                       2019・5・5 
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