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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第7章:神界大戦
  第214話「寄せ集めの希望」

 
前書き
とこよ達とサーラの戦いは大幅カット。
細かく書いているとまたまるまる一話使いそうなので……。
 

 







       =とこよside=







「はぁっ!」

「ふっ!」

 鈴さんの攻撃に合わせ、私は槍を繰り出す。

「遅いよ」

 でも、それはあっさりと刀に受け流される。

「くっ!」

 反撃の一撃を、鈴さんが受け止める。
 受け止めきれない衝撃を返す柄を当てる事で援護し、相殺する。

「そこっ!」

 少ない霊力で術式を編み、それで敵の私の術式を破壊する。
 力のほとんどがあっち持ちな今、私はこんな小細工でしか霊術で対抗できない。

「はっはっ……!力のほとんどはそっち持ちの癖に、千日手じゃないか……!」

「うるさいね。力尽きるのはそっちが先の癖に」

 それは、紫陽ちゃんも同じだった。
 だけど、やはり自分自身。押し負ける事は早々ない。
 押されながらも、紫陽ちゃんは的確に敵の紫陽ちゃんの攻撃を捌いていた。

「(紫陽ちゃんが持ち堪えている間に、“私”を倒す!)」

 倒しきる必要はない。
 洗脳の効果を解除さえしてしまえば、後は式神の術式を破棄すればいい。
 そうするだけで、今の私の自我が本体に還元されて、元に戻る。

「とこよ!」

「分かってるよ!」

 斧を投擲。刀を逸らして鈴ちゃんがそれを受け流す。
 直後に矢を放つけど、それは障壁に阻まれた。

「(紫陽ちゃんと違って、捌ききる事は出来ない。鈴さんと二人がかりで、ようやく拮抗してる……!)」

 力はあっち持ちだけど、武器は刀以外私が持っている。
 それもあって、ようやく拮抗してるんだ。
 戦法や色々な要素もあって、一対一だと捌けない。

「(せめて、刀さえあれば……!)」

 刀があれば、もう少し戦術の幅が広がる。
 得意な武器なのもあるけど……まぁ、ないものねだりしても意味ないね。

「―――ぇ?」

 その時、視界の端の奥の方で、何かが動いた。
 意識を逸らす訳にはいかないため、視線は向けない。
 でも、隙は十分だった。

「こふっ……!?」

「とこよ!?ぐっ!?」

 また殺された。今度は霊術による矢で喉を貫かれた。
 これで……四回目かな?この戦いでは。
 戦闘が拮抗していると言っても、少しでも隙を晒せば殺される。
 鈴さんも何度か殺され、今もまた殺された。
 でも、神界の法則のおかげで立ち上がれる。

「くっ!」

 咄嗟に霊力を放出して、何とか間合いを引き離す。
 体勢を立て直し、再び切り結ぼうとして……

「ッ!?」

 巨大な剣がいくつも飛来した。
 敵の私はそれらを躱すが、いくつかは刀で弾いたらしい。

「……そういう事」

 それらの剣はおそらく、先程視界の端の奥にいた、優輝君の仕業だろう。
 そして、剣も目晦ましに過ぎない。本命は……

「鈴さん!」

「ええ!」

 ……今私の手に収まった、二振りの刀だ。

「切り開く!」

「止められると思わない事だね!」

 手数で力の差を補う。
 刀の扱いは私自身がよく知っている。
 故に、二刀という同じ舞台に立てば、一人でも抑えきれる。
 そこへ、鈴さんが斬り込み、隙を晒す。

「はぁっ!!」

   ―――“森羅断空斬”

 そして、一刀の下、両断した。

「術式!」

「出来てるわ!」

   ―――“秘術・魂魄浄癒”

 間髪入れずに鈴さんが浄化の霊術を使う。
 さて、これで洗脳は解けたと思うけど……。

「どうなの?」

「ちょっと調べてみるね」

 霊力を使って、私と本体の私の波長を調べる。
 魂や概念、様々な面から調べ、完全に一致しているなら洗脳は解けているはず。

「……大丈夫かな」

 結果は完全一致。
 さっきまでは、確かにどこかが狂っていたから、間違いなく洗脳は解除出来ている。

「よし」

 式神の術式を破棄する。
 その瞬間、私の意識が混ざり合うのを感じた。
 実際は二つに別たれていた意識が元に戻っているのだ。
 記憶か感情、それらも統合される。
 ちなみに、両断された体は元に戻る時に治療しておいたから、傷は大丈夫だ。

「っ、なんというか、洗脳って怖いね……。自分が自分の意識のまま、思考や考え方が書き換えられてる。……心を踏み躙るのに、これ以上のものはないよ」

「記憶の統合で、さっきまでの本体の記憶も得たのね。……私の時とは似ているようで違うけど、気持ちは分かるわ」

 鈴さんは、かつて自分の感情を利用されていた事がある。
 その時の感覚も、洗脳に近いものがあったのだろう。
 ……ともかく、これで後は……

「紫陽ちゃん!」

「ようやくか!」

 矢を射る。
 押し切られかけていた紫陽ちゃん目掛けて放たれていた霊術を射貫く。

「そこよ!」

   ―――“火焔旋風”
   ―――“旋風地獄”

「ちぃっ……!」

   ―――“扇技・護法障壁”

 続けざまに鈴さんが霊術を放つ。
 すると、敵の紫陽ちゃんは障壁を張って防いだ。

「へぇ、本当にそんな行動を取っていいのかい?」

   ―――“呪黒剣-囲-”

 間髪入れずに、紫陽ちゃんが呪黒剣で完全に囲い込む。

「射貫く……!」

   ―――“弓奥義・朱雀落-真髄-”

「ッ……!?」

「ふっ……!」

   ―――“斧技・瞬歩-真髄-”

 死角を突くように放った矢が、敵の紫陽ちゃんの片腕を吹き飛ばす。
 さらに、間髪入れずに一気に間合いを詰め、斧で斜めに断ち切った。

「よし!」

「容赦ないね……まぁ、とりあえず……」

   ―――“秘術・魂魄浄癒”

 倒した事で、簡単に霊術で拘束できるようになる。
 すかさず紫陽ちゃんが霊術で浄化し、洗脳を解く。

「とこよを見る限り、ちゃんと解けるみたいだね」

「一応確かめておいたら?」

「そのつもりだよ」

 少しして、確かめ終わったのか紫陽ちゃんも一つに戻る。
 記憶の統合による、洗脳時の記憶を知り、少し顔を顰めていた。

「とにかく、これで何とかなったね」

「うん。……で、問題は……」

 周囲を見渡す。
 ……逃げ場はないね。

「用意周到な事だ。体力……と言うより精神を消耗した所を、さらに万全の態勢で潰そうって事かい。……呆れたくなるね」

「心を挫くには、確かに有効だけどね……」

 周囲には何人もの神と“天使”。
 包囲された状態じゃ、他の救援も望めない。
 一段落着いた所へこの状況だから、分かっていても“辛い”。
 そう感じる事で、余計に私達は不利になる。

「さて、どうするか……」

 私達は構え直す。
 私と紫陽ちゃんは冷や汗を流しながら、鈴さんは苦虫を噛み潰したような顔で。
 ……打開策もないまま、戦闘が続行された。















       =優輝side=







「ッ!」

 躱す。即座に魔力を使い、いくつもの創造した武器を差し向ける。
 牽制にもならないが、僅かに稼いだ時間で跳躍する。

「ぐっ!?」

「ふっ!」

 一人の“天使”に肉薄。刹那の間に五連撃ほど叩き込む。
 最後に回し蹴りを浴びせ、他の“天使”にぶつけておく。

「っ……!」

 直感に従い、その場を飛び退く。
 何かの力場が寸前までいた場所を覆い、潰した。

「実に厄介だな……!」

 駆ける、跳ぶ。そして躱す。
 繰り返し、繰り返す。僅かな隙間を縫うように、反撃を繰り出す。

「(感情があれば、このようにはいかなかったな)」

 今の僕には感情がない。
 だからこそ、こうして神達と渡り合えるほどの強化が出来ていた。

 現在、僕は霊魔相乗による身体強化を行っている。
 それも、従来のものではなく、それよりさらに上の効果でだ。
 今までの強化が10割までとすると、今はその5倍以上だ。
 霊魔相乗で掛け合わせる霊力と魔力の密度をそれぞれ五倍にし、効果を増している。
 それは単純に効果が5倍になるのではなく、二乗する。
 つまり、5倍であれば25倍の効果を発揮する。
 そこまですれば、複数の神が相手であろうと渡り合えた。

「っ、はぁっ!」

 一人の神の攻撃を躱し、肉薄して蹴り飛ばす。
 同時に踏み台にして跳躍。進行方向近くの神や“天使”を次々と切り裂く。

「ッッ!!」

 さらにもう一人、踏み台にする。
 跳んで、跳んで、切り裂き、攻撃を躱していく。
 これだけでは、神達は倒せないが、それでも負ける事はない。

「ふっ!!」

「ぐぉっ!?」

 神の一人を掴み、別の神や“天使”に叩きつける。
 直後にまとめて蹴り飛ばし、薙ぎ払うように圧縮した閃光を振るう。
 レーザーのようにそれは一帯を切り裂くが、それすらも防ぐのが神だ。
 そう言った相手には、直接攻撃を叩き込みに行く。

「(……ここらが潮時か)」

 時間は十分に稼いだ。アリサ達やとこよさんへの援護も終わらせた。
 これ以上、僕が単独で暴れ回る必要はないだろう。

「薙ぎ払え」

   ―――“Twilight Spark(トワイライトスパーク)

 近くの神と“天使”を蹴り飛ばし、一つの方面へと固める。
 そこへ、広範囲且つ高威力の砲撃魔法を放ち、同時に跳んだ。
 威力は本来なら出す事が不可能な出力で出している。
 なのは達の切り札を合わせたものと同等以上の威力は出ているはずだ。

「ッ―――!!」

 跳び、加速して、何人かの神と“天使”を巻き込んで着地する。
 
「優輝君!?」

「間に合ったか」

 そこには、とこよさん達がいた。
 心を折るための包囲を、僕は突き破って来たのだ。

「一か所に集まるぞ。力を合わせないと太刀打ちできないからな」

「了解だよ。行けるかい?」

「当然!」

「やるしかないもの。当然よ」

 どこへ向かうのかは言うまでもなかった。
 自爆させた式神も言っていたが、考える事は同じか。

「僕が先行する」

「じゃあ、私は露払いだね」

「あたしは後ろを警戒するよ」

「……私は支援に徹するわ。火力が足りないし」

 とこよさんが露払い、紫陽さんが殿。鈴さんはその二人の支援に役割を分担する。
 幸い、とこよさんも紫陽さんも余程の事がなければ神相手でも戦える。
 鈴さんは二人に劣るとはいえ、支援に徹するならば十分な強さだ。
 ……後は僕次第か。

「行くぞ」

 駆け出す。同時に魔力と霊力を爆発させ、包囲を吹き飛ばす。
 通常なら吹き飛ばしきれないはずだが、爆発させたエネルギーの中に剣を混ぜ、さらに直接攻撃を叩き込んだため、無事に一掃出来た。

「軌跡を見るので精一杯の速さだよ……どこまで身体強化したのさっ!」

「いくら限界を超えられるとはいえ、あたし達もそこまではいかないよ」

「想像力というか、無意識下で制限しちゃうものね」

 三人が口々に言う。
 確かに、普通なら無意識下に制限を掛けてしまう。
 実際、三人共地球にいた時よりも大きく身体能力は上がっている。
 だけど、僕に比べればそこまでではない。

「感情がない分、無意識下の制限がないんだろうね」

「その通りだ」

 感情がなければ、意識して制限を切り替える事が出来る。
 無意識下の制限……つまり、体が勝手に反応する制限も切り替えられる。

「以前は、限界突破してようやく私と互角だったのに……」

「とこよの強さをこれ程の差をつけて追い越すとはね」

 とこよさんの矢と霊術が、僕の撃ち漏らした神や“天使”を牽制する。
 倒しきっていないために復帰してくる神達を、紫陽さんの霊術が足止めする。
 二人の地力だけでは抑えきれない不足分を、鈴さんが援護して補う。
 そして、僕が前への道を切り開く。
 進行スピードは三人に合わせて遅くなるが、それでもかなりの速さだ。

「見えた」

「あれか……」

「凄い数の包囲だね」

 しばらく走り続けると、神や“天使”の数が増えてきた。
 結界も埋め尽くされており、もはや結界が結界として機能し続けているのが奇跡だ。
 おそらく、中にいる二人……特にサーラさんが“邪魔させない”と考えているからこそ、辛うじて戦場を隔てる役割を保っているのだろう。

「突破するぞ!」

 まずは周囲の神に牽制代わりに攻撃を仕掛ける。
 物理的な速さなら、神が相手であろうと上回れる。
 厄介な“性質”も、今の僕なら無視も可能だ。

「おおっ!ッ!?」

 牽制で怯ませる中、突然体が弾かれたように吹き飛ばされた。
 “性質”の厄介な所は、こうして予備動作無しな上効果範囲が不明な所だ。
 直接的な力は簡単には無効化出来ない。

「ちぃっ!」

 炎や氷、雷、風の刃、様々な攻撃が僕を襲う。
 僕だけでなく、とこよさん達にも襲うが、そちらは自分で何とかするだろう。
 問題は、攻撃を食らっていては突破するための隙が作れない事だ。

「術式起動、痛覚遮断」

Anfang(起動)

 ならばどうするか。……その答えがこれだ。
 食らった事を気にしないようにしてごり押せばいい。
 神界だからこそ出来る力技だ。

「ふっ……!!」

 弾幕に何度も被弾する。その上で、何人もの神達を殴り飛ばす。
 刹那の間にそれを繰り返し、一息で包囲に穴を開けた。

「今だ!」

「ッ……!」

   ―――“斧技・瞬歩-真髄-”
   ―――“扇技・神速-真髄-”

 その瞬間を待ち望んでいたように、とこよさん達が包囲の中へと入り込む。
 事前に霊術で身体強化をしていたため、無事に入り込めたらしい。

「(後は僕も……)」

 剣を創造し、牽制に放つ。
 それらと神達を足場に飛び回りつつ、魔力弾で周囲の行動を遅らせる。
 一人の神を蹴った反動で、そのまま僕も包囲の中へと突っ込んだ。

「状況は!?」

 一足先に入っていた紫陽さんが、既にいる皆に声を掛けていた。

「状況は依然劣勢だ!持ち堪えてはいるが、こちらの戦力は軒並み疲弊している。おまけに、内二名はあちらの手に落ちていた!」

 クロノが答える。
 一か所に固めた分、耐え凌ぐ事は出来ていた。
 しかし、また味方がやられたらしい。

「二名……ここの結界を張っていた二人か!」

 その二人は、ここでずっと結界を守っていたアミタさんとキリエさんだった。













       =サーラside=





「ッ……!」

 宙を駆ける。
 迫りくる魔力弾や砲撃魔法、魄翼を弾き、逸らす。
 そのまま間合いを詰め……魔力密度の高い魄翼によって邪魔される。

「はぁっ!!」

 振るわれる魄翼は、かつての戦いよりも格段に重く、鋭い。
 対し、私もこの短期間でさらに腕を磨いた。
 神界という特殊な環境であれば、この程度造作もなく捌ける……!

「ぉおおっ!!」

 魔力弾を避ける。砲撃魔法を弾く。
 魄翼を紙一重で避け、同時に魔力の斬撃を飛ばす。
 間髪入れず移動魔法で死角へ移動し、砲撃魔法を放つ。

「っっ!」

「はっ!」

 防御魔法を使った所へ、突貫する。
 加速の勢いを利用した一突きは、簡単に防御魔法を貫いた。

「甘いです」

「ッ……!?」

 だが、その一撃は寸での所で躱されていた。
 しかも、そのままカウンターの砲撃魔法を放つ手が、私の胴に添えられていた。

「くっ!」

 掌底でその手を弾き、身を捻る。
 間一髪、カウンターの砲撃魔法を躱す。
 だが、直後に振るわれた魄翼は躱しきれない。
 防御魔法が間に合ったものの、完全には防ぎきれなかった。

「……随分と、あの三人に鍛えられたみたいですね」

「どうします?諦めますか?」

「笑止ッ!」

 今までのユーリは、あの場面でカウンターをするなど出来なかった。
 そんな経験の不足を、ディアーチェ達は補っていたのだ。
 ……それがここで仇となるとは思いませんでしたが。

「ッ!」

 一度離れた間合いを再び詰める。
 だが、やはり妨害が入る。
 易々と近づく事は出来ず、近づいても決定打を与えられない。

「(必殺の一撃を与えるにしても、その隙が作れない)」

 猛攻を防ぎつつ、私は思考を巡らす。
 私は優輝さん程素早く術式を組み立てる事が出来ない。
 そのため、懐に潜り込めても決定打が用意出来ない。
 そんな状態で攻撃を放った所で、先程の二の舞だ。

「(ならば、必要となるのは最初の一撃)」

 どうするべきか?その答えは簡単だ。
 ……“前提”を覆せばいい。

「(肉薄した所で決定打が出せないならば、出せる状況にすればいい)」

 そのための準備が、最初の一撃だ。
 ……つまり。

「ふっ!!」

 砲撃魔法を弾き、魄翼を受け止める。
 その力を利用し、一気に間合いを取る。
 ……ここから、全力の攻撃を放てばいい。

「貴女を助ける忠義を、今再びここに示しましょう!」

   ―――“我が忠義は貴女のために(ラクレス・ロヤリティート)

 二度目の決戦にて、ユーリを助ける決定打となった魔法を、今ここで使う。
 それは一種の集束砲撃。私の忠義を、力へと変えた一撃。
 砕けえぬ闇すら砕いた、私の切り札。

「はぁああああっ!!」

「っ……!」

 極光を放つ。
 これならば、生半可な防御など容易く貫ける。
 並の砲撃魔法や魄翼など、関係ない。
 私の忠義は、全てを貫く。

「―――ダメですよ。サーラ。同じ手を食うと思っているのですか?」

「ッ……!?」

   ―――“決して砕かれぬ闇(アンブレイカブル・ダーク)

 ……少なくとも、再びその闇が放たれるまでは、そう思っていた。
 砲撃魔法と魄翼では防ぎきれない。それは確かだ。
 だけど、無意味な訳ではない。
 ユーリに辿り着くまでに、それらの攻撃は私の砲撃を減衰させた。
 その上で、ユーリも切り札を切ってきた。
 減衰した私の魔法と、ユーリの魔法。
 どちらが勝つかなど、明白だった。

「(以前のままでは、足りないと言うのですか……!?)」

 砲撃が押し切られる。
 足りなかった。以前と同じでは足りなかったのだ。















   ―――故に、以前よりも一つ、手を加えましょう







「ッッ……!」

 砲撃を維持する手に、力を籠める。
 それは、砲撃を強化するためではない。集束させるためだ。
 今私の両手にはアロンダイトが握られている。
 そこへ、集束砲撃を集束させる……!

   ―――“誓いの剣をここに(シュヴェーレン・シュヴェーアト)

 アロンダイトが光に包まれる。
 そして、それを私は振るった。

「なっ……!?」

私の忠義()は、簡単には折れませんよ……!」

 絶望の闇を、私の剣が切り裂いた。

「っ……!」

「貴女を救うためなら、私は貴女を傷つける事すら厭いません!」

 土壇場の考えではない。
 元より、放出して終わりのものを保たせる発想はあった。
 その結果が、剣に籠めるというものになっただけ。
 しかし、その力は想像以上だった。

「はっ!!」

 剣を振るう。
 たったそれだけで、追撃として迫っていた魄翼を斬り払った。
 考えれば当然の事だ。今、アロンダイトには先程の極光の力が宿っているのだから。

「くっ……!」

 質でダメなら量で補う。と言った所でしょうか。
 ユーリは弾幕を張って私を包囲してきます。
 ですが、それだけでは止められない事など、先程までの時点で分かっているはずです!

「ふっ!」

 弾幕を切り裂き、間合いを詰めていく。
 当たりそうなものだけ切り裂く事で、必要最低限の労力で道を切り開く。

「ッ……!」

 さすがに剣一つでは手数が足りない。
 普通に振っていては、対処が追いつかない。

「(ならば……!)」

   ―――“Neun Säbelhieb(ノイン・ゼーデルヒープ)

 普通の振り方から変えればいい。
 瞬時に放った九連撃で、一気に弾幕を打ち消す。

「はっ!」

「っ!」

 魄翼を、障壁を切り裂いてアロンダイトを振るう。
 だが、やはり受け流され、カウンターを受けそうになる。
 ユーリの掌に魔力が集束し、炸裂……

「させません!」

 二の舞にはならない。
 片手でその掌を上にかちあげる。
 カウンターを潰し、そのままもつれ込むように腕をユーリの胴に巻き付ける。
 そのまま、体を捻って地面に向けてユーリを投げつけ……

「少々、痛いですよ?」

   ―――“誓いの一太刀(シュヴェーレン・ゼーデルヒープ)

 斬撃を飛ばした。
 咄嗟に魄翼と障壁で防御態勢を取ったようですが、無駄です。
 先程までの剣の力を斬撃として飛ばしたのですから、それぐらいなら切り裂きます。

「っ、ぁ……!?」

「……ふぅ……」

 斬撃がユーリに直撃する。
 しかし、ユーリが両断される事はない。
 なぜなら、ここは物理法則があってないような世界。
 私がそう望んでいないからこそ、ダメージだけで終わっている。

「……やりすぎましたか」

 倒れ伏すユーリを見て、私が勝ったと確信できる。
 同時に、やり過ぎたと周りを見て思った。

「戦闘の余波か、それとも外で何か起きているのか……結界がここまでになるとは」

 私達を隔離していた結界が、完全にボロボロになっていた。
 もはや、今にも結界が崩壊しそうだ。

「(と、思った矢先にですか)」

 私がそう考えたからか、役目を果たしたからか。
 すぐに結界が崩壊した。

「っ、なるほど、そういう事ですか」

 外に出た事で、事態がどうなっているのか分かった。

「(私達の戦いの外でこうなっているとは……)」

 周囲には大群と言うべき数の神と“天使”。
 それらに囲まれながらも、一か所に固まって抵抗する他の皆さん。
 ……そして、敵に混じってこちらに攻撃してくるアミタさんとキリエさん。

「(洗脳、ですか。たった二人だけに任せた事自体が、失策だったんでしょうね)」

 依然悪い状況に歯噛みする。
 しかも、今は気絶したユーリを抱えている状態だ。
 短期間とはいえ激しい戦いだったために、精神的疲労もある。
 その状態で連戦は……

「っ、優輝!」

「はぁっ!」

 その時、傍に飛んできたアリシアさんが叫ぶと同時に、周囲に結界が張られた。
 隔離のためではなく防御のための結界が、私達の周りに現れた。
 そして、何人かの神と“天使”が吹き飛ばされた。
 どうやら、優輝さんがやったらしい。

「すぐ終わらせるよ!」

   ―――“秘術・魂魄浄癒”

 間髪入れずにアリシアさんが霊術を使用し、ユーリの洗脳を解除しました。
 実際の効果は聞いていないので知りませんが、状況から見てその類でしょう。

「ユーリは任せたよ!ここで、何とか突破口を開く!」

 そして、すぐさまアリシアさんは戦闘に戻っていった。

「っ……」

 皆さんが足掻き続けている。
 ここで終わる訳には行かないと、負ける訳には行かないと、足掻いている。
 どんなに戦力差があろうと、死に物狂いで食らいついている。

「……なら、私達も立ち止まっている訳にはいきませんね」

 まだ私は戦える。なら、武器を取ろう。
 他の方と同じように、神に抗おう。

「そうでしょう?ユーリ」

 気絶しているはずのユーリに私は話しかける。
 本来なら、返事は返ってこないだろう。……でも

「……はい」

 気絶しているはずのユーリが、すぐに目を覚まして返事を返してきた。
 私がユーリの期待に応えるように、ユーリもまた、私の期待に応えてくれます。

「私達も行きますよ」

「はい!」

 希望はまだ残っている。
 まだ、負けた訳ではない。

















 
 

 
後書き
-囲-…文字通り包囲するように展開する術式に改造しただけ。

誓いの剣をここに(シュヴェーレン・シュヴェーアト)我が忠義は貴女のために(ラクレス・ロヤリティート)を放っている状態で、その力を剣に籠める事で発動。ありとあらゆる障害を切り裂く剣となる。名前はドイツ語の“誓う”と“剣”から。

Neun Säbelhieb(ノイン・ゼーデルヒープ)…ぶっちゃけFateの射殺す百頭(ナインライブズ)。驚異的な速度と威力で放たれる九連撃。

誓いの一太刀(シュヴェーレン・ゼーデルヒープ)誓いの剣をここに(シュヴェーレン・シュヴェーアト)状態で飛ばす斬撃。使いすぎると誓いの剣をここに(シュヴェーレン・シュヴェーアト)が解けてしまう。


砲撃ぶっぱよりも切り裂く方が強いとこよとサーラ。
近接戦の方が得意ですから当然と言えば当然ですが。 
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