ある晴れた日に
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513部分:冷たい墓石その二十一
冷たい墓石その二十一
「こんな場所で嘘ついてどうなるっていうのよ」
「それはそうだけれど」
「確かに」
「嘘じゃないわよ」
あらためてこう皆に告げるのであった。
「それは断言するわよ」
「事故って」
「大丈夫かしら」
「とりあえず命に別状はないみたいよ」
まずはここから説明したのだった。
「とりあえずはね」
「そう、よかった」
「別に死なないの」
「ただね。まだどういった状況かよくわからないから」
しかし、であった。先生の言葉は晴れない。こんなことも言うのである。
「どういった事故さえもね」
「交通事故!?」
「それじゃないの?」
「それがまだはっきりとわからないのよ」
ところが先生の言葉がここで歯切れの悪いものになってしまった。その表情もである。
「まだね」
「わからないって」
「何でですか?」
「だから。事故に遭ったってだけ連絡があったのよ」
とりあえずは、という状況の様である。
「それがね」
「はあ。そうなんですか」
「それで無事だって」
「御主人が今戻って付き添っておられるようだけれど」
「付き添いって」
「大怪我!?」
今度はそのことを危惧した一同であった。
「それもかなりやばいんじゃ」
「そうよね、やっぱり」
「だから」
ここでまた大きな声を出す先生なのだった。
「まだそういうのはわからないから」
「これからですか」
「今は市立病院に向かってるらしいから」
送られてたその病院のことが述べられた。
「後で詳しいことが入ったらね」
「教えてくれるんですよね」
「ちゃんと」
「教えられることはね」
ここでもはっきりとしない返答であった。この先生には珍しく、である。
「教えられるけれどね」
「本当に大丈夫かしら」
「だよなあ」
そして皆は不安を増幅させていくばかりであった。
「こんなことになって」
「田淵先生までって」
「命に別状がないのは間違いないわ」
江夏先生はそれは保障するのだった。
「市立病院だけれどね」
「!?」
ここでおかしいと。何かに気付いたのは明日夢だった。勘の鋭い彼女は今の先生の言葉からあるものを感じ取ってしまったのである。
「何、今の先生の言葉」
「どうしたの、明日夢」
「あっ、ちょっとね」
恵美の問いに今は何でもないといったふうに返した。皆まだ席に着いておらず誰もが立ったままである。そのうえで先生の話を聞いているのである。
「何でもないけれど」
「だったらいいけれどね」
(何かしら)
応えながらも頭の中で考える彼女だった。
(先生何か隠してるのかしら)
こう思いはじめたのである。
(隠してるとしたら何を?病院って言ったところで言葉がうわずったけれど)
そこから察したのである。その勘によって。
それで考えだしたがここで。先生は言うのだった。
「まずは席に着いて」
「席って?」
「あっ、そうか」
皆言われてこのことに気付いたのだった。皆着席していない。しているのは正道の他にはクラスの数名だけだった。皆座っていなかったのである。
「ホームルームだから」
「座らないとね」
「そうよ。まずは座って」
先生はまたそのことを言った。
「とりあえず田淵先生は意識もはっきりしてるし」
「何だ、大事じゃないの」
「そうみたいね」
意識ははっきりとしているということは皆を安心させた。そこからその怪我が大したものではないことが察せられたからである。
「それじゃあ先生のことは気になるけれど」
「今は、ですよね」
「そうよ。皆とりあえず落ち着いてね」
そう言う先生が一番慌てていたのは確かであった。実際に先生はパートナーの思わぬ怪我にかなり取り乱してもいたのである。ここに来るまでに。
「それでいいわね」
「はい、それじゃあ」
「ホームルームですよね」
「そうよ。はじめるわよ」
いつもの日常に戻った言葉であった。
「それじゃあ出席を」
「はい」
「御願いします」
皆も日常に戻った。しかし明日夢は引っ掛かるものを感じたままであった。そして正道は表情を変えていなかった。田淵先生のことは聞いていたがそれよりも彼女のことを思っていた。この二つが接点になってしまうとはこの時は誰も知らないことであった。
冷たい墓石 完
2009・10・12
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