セメンクカラー
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第二章
「やはり知らぬな」
「男の服を着ておられるが」
「どなただ、あの方は」
「見たことがないぞ」
「貴族でも神官でもない」
「無論王族でもおられん」
「他の国の方か」
エジプトの者達はまた訳がわからなくなった、とにかくファラオの為すことも考えることも何もわからなくなった。
それでファラオの政治に戸惑うばかりで何も対することは出来なかった。こうなっては彼等に出来ることは一つしかなかった。
「おかしなことばかりされるファラオだが」
「そのファラオも永遠の命ではない」
「何時か冥界に行かれる」
「その時まで待つか」
「幸いファラオはご病気の様だ」
そのアクナトンを見ての言葉だ。
「あの方は日に日に胸や腹が痩せていっておられる」
「しかし頭や尻や脚はどんどん膨らんでいっておられる」
「あれは間違いなく病だ」
「治らない病だ」
当時のエジプトは世界でも最先端の医学だった、だがそのエジプトの医学でもどうにもならない病もあったのだ。
ファラオの病はそれであった、それで彼等は待つことにしたのだ。
「ファラオが崩御されてからだ」
「それから動いてもいい」
「今は待とう」
「そうしよう」
こう言ってだった、彼等は待つことにした。
「またかつてのエジプトに戻そう」
「エジプトの伝統を復活させるのだ」
「この国は多くの神々がおられる国だ」
「それをあの様な奇怪な神だけとはおかしい」
「アメンも他の神々も復活させよう」
「信仰も取り戻すのだ」
こう言い合い時を待つことにした、そうして奇怪な考えや行動ばかりだが自分達ではどうにも太刀打ち出来ないファラオの崩御を待った。
「セメンクカラ―様がどなたかわからないが」
「今は待とう」
「新しい王妃のアンケセパーテン様も中々の方だが」
「流石にファラオが一番大きな方だからな」
「あの方だ」
「あの方がおられなくなれば」
とかく今は時を待つことにした、そしてだった。
ファラオを見続けた、彼はどう見ても余命幾許もなかった。身体の異常は誰がどう見ても明らかだった。
だがファラオも愚かではない、彼にしても自身の考えもっと言えば理想をエジプトに完全に根付かせたかった。それでだ。
娘である王妃にだ、こう言うのだった。
「この国は変わる時に来ているのだ」
「だからですね」
「そうだ、私はだ」
「アテンにですね」
「あの神の下にだ」
自身の神のというのだ。
「エジプトの全てを集めてな」
「真理に基づく国にされるのですね」
「そうだ、だがだ」
ここでだ、ファラオは暗い顔になった。それで娘に言うのだった。自分によく似ている若い娘に対して。
「見ての通り私はな」
「お身体が」
「これでは長くない」
このことは自分自身が最もよくわかっているのだ、それで娘にも言うのだ。
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