ある晴れた日に
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
475部分:夕星の歌その十五
夕星の歌その十五
「噂で聞いているだけれどね」
「そういえば」
桐生もここであることを思い出して言うのだった。
「最近この町でも小さな女の子が攫われそうになったよね」
「ああ、そうだな」
「そういう話あったわね」
皆このことも思い出したのだった。
「何かそうした話が」
「あったわよね」
「関係あるのかな。ひょっとして」
その女の子達が攫われて廃人になることと、ということだった。
「まさかと思うけれど」
「ないって思いたいけれど」
奈々瀬はもう完全に震えていた。身体が実際に激しく震えている。
「何よ、この街にいたら何時私達だって」
「落ち着いて」
その奈々瀬に恵美がそっと言ってきた。
「まだ噂だから」
「噂でもそれでも」
奈々瀬の震えは止まらない。目も完全に怯えたものになっている。
「いたらどうするのよ。攫われたらそれこそ」
「だから落ち着けって」
「そうよ。恵美の言う通りよ」
その彼女を春華と咲が止めてきた。
「いるってはっきりしたわけじゃねえだろ?」
「それに皆いるから大丈夫よ」
「皆が」
「そうよ。いざって時は私達がいるじゃない」
静華はわざと拳を作ってそのうえで奈々瀬に言ってみせた。その左手に確かに拳を作ってそれを彼女に見せながらの話である。
「でしょ?だから安心してって」
「皆でいれば大丈夫だから」
凛も奈々瀬に声をかける。
「だからそんなに怖がる必要はないわよ」
「そうなの」
「そうよ。だから落ち着いて奈々瀬」
茜もそっと彼女の肩に自分の手をやって囁いた。
「別にいるって決まったわけじゃないじゃない」
「そうよね。それだったら」
皆に言われてやっと落ち着く奈々瀬であった。
「いいけれど」
「そうそう」
「落ち着いてね」
その目から怯えが消えて身体の震えも止まっていた。そのうえで皆の話を聞くのだった。
「まあさ。この町に出て来てるかはわからないけれど」
「ええ」
「それはね」
皆桐生の言葉を聞き続けている。
「今はちょっと気をつけていた方がいいと思うよ」
「じゃあちょっと登下校は皆でね」
「そうしようか」
「念の為にね」
五人も明日夢達もそれぞれ話していく。
「用心の為にね」
「それが一番いいわね」
「じゃあ俺もだな」
ここで言ったのは坪本だった。
「ちょっと彼女を学校まで送り迎えするな」
「ああ、それがいいな」
「そうした方がいいぜ」
野本と佐々が彼の今の言葉を受けてすぐに言ってきた。
「何かあってからじゃ遅いからな」
「そうしなよ」
「よし、じゃあそうするな」
坪本は二人の言葉も聞いてそのうえで頷いた。
「ここはな」
「っていうか御前彼女いたのかよ」
「それはじめて聞いたぜ」
野茂と坂上は彼の今の言葉を聞いてすぐに突っ込みを入れた。
「何時の間にいたんだよ」
「っていうか御前なんかに彼女がかよ」
「ああ、実は中学校の時からのな」
そんな二人の言葉に笑いながら返す坪本だった。
ページ上へ戻る