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自然地理ドラゴン

作者:どっぐす
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三章 天への挑戦 - 嵐の都ダラム -
  第32話 人型モンスター(1)

 シドウとティアは、同行していたマーシアの町の役人や職員に事情を話し、しばらく王都ダラムに滞在することにした。

 滞在中、シドウは冒険者ギルドや農業ギルドをときおり訪ね、おこなわれる予定の『嵐を消す実験』の進展について目を光らせていた。
 そしてついに、嵐が南東の岬にやってくる日の予想が固まり、実験の日も決まったという情報を入手した。

 この国の歴史は、嵐と戦う歴史でもあった。雨雲の感知魔法の開発、観測技術の開発漁師の経験則の集約などにより、被害を無くすことはできなくとも、嵐のやってくるタイミングについてはおおまかに予想できるようになっていたという。
 シドウたちは事前に同行を申し出るのは確実に断られると判断し、こっそりと魔法使い軍団を追いかけ、実験現場に立ち会う方針にした。

 ところが、魔法使い軍団が王都を出発する予定の日。



「ティア。起きて」

 シドウがベッドで寝ているティアを揺すると、ティアがムニャムニャと何か言いながら目を覚ました。すでに窓から朝日が差し込んでいたため、まぶしそうに手をかざしている。

「宿の人に聞いたんだけど、魔法使いさんたち、夜中に出発してしまったみたいなんだ。俺たちも向かおう」
「えー? そんな話じゃなかったよね?」

 ティアの言うとおりで、掴んでいた最新の情報では、朝に出発ということになっていた。
 だが天気は生き物。出発直前で予想の修正が発生したというのはありえない話ではない。もしくは、急遽予行練習を長めにおこなうことにしたのかもしれない。

 いずれにせよ、早めに追いかけたほうがよい。二人は支度を整え、出発した。



 実験場は、王都の南東に位置する岬である。
 シドウとしては空を飛んでいきたい。だが風がすでに強くなってきているであろうことと、やはり目撃されると面倒であろうということで、馬車を借りて走らせた。

 道は整備されている。何事もなければ、途中で追いつけなくても、魔法使い軍団の実験開始には十分に間に合うと思われた。そう。何事もなければ。

 その何事が起きてしまったのは、予定していた道のりの半分ほどを進んだときだった。

「シドウ。誰か立ってるよ?」
「そうだね……誰だろう」

 こちらの馬車を見据え、進路を塞ぐように堂々と立つ騎士風の若い男の姿。
 嫌な予感。
 シドウは馬車を道の脇に止め、降りた。ティアもそれに続く。

 シドウは男に話しかけるために近づこうとしたのだが、通常の会話の距離になる前に立ちどまった。そして手を横に出し、ティアの足をとめる。

「ティア、気を付けて」
「え?」
「あの人の耳の形……。たぶん人間じゃない。いざとなったら変身するから、俺より少し後ろにいて」
「――!」

 男の耳が、やや尖っていたのだ。
 ティアもそれを確認すると警戒態勢をとる。

 男は、端正な顔を構成している口を少しだけ緩めると、長い銀髪を大きくなびかせながら、シドウたちに近づいてきた。

「たしかに俺は人間ではない。アルテアの民だ。人間たちが言うところの『人型モンスター』だな」

 二人のやりとりが聞こえたのだろう。程よい距離で立ち止まり、男はそう言った。
 発せられた言葉は旧魔王軍の公用語ではなく、人間のものだ。発声に訛りもなく、流暢だった。

 男が背中に背負っているのは、通常では考えられないほどの大剣。
 だが、それを抜く気配は今のところない。

「人型、モンスター……」

 ティアはもちろん、シドウも、人型モンスターを名乗る者は初めて見ることになる。
 大魔王亡き今、はっきり人間と敵対関係にある種族ではない。
 しかし現在、その残党はグレブド・ヘルと呼ばれる高地に居住していることになっていたはず。
 二人はいっそう警戒を強めた。

「シドウという名だったな。風貌が独特と聞いていたが、なるほどこれはわかりやすい」

 シドウの服装のみすぼらしさを言っていると思われるのだが、もちろんシドウもティアも笑わない。
 逆に銀髪の男は、余裕の笑みを浮かべている。

「俺の名はエリファス。ドラゴンと人間のハーフであるお前を『新魔王軍』に勧誘しにきた」

 放たれたその言葉は、シドウに衝撃を与えた。

「新魔王軍……? 勧誘……?」

 ティアも驚いたのか、シドウと男を交互に何度も見ている。

「わけがわかりません。どういう……ことですか」

 シドウは説明を促した。
 男は一つうなずく。

「約二十年前。大魔王様は、勇者を名乗る人間とその仲間たちによって討たれてしまった。アルテアの民……お前たちの言う人型モンスターの幹部はだいたいがその過程で殉職し、協力関係にあった有力な動物も殺し尽くされ、魔王軍は瓦解した。ここまではいいか?」

 シドウもそれを受け、小さくうなずいた。

「はい。それは俺も聞いています。その後人型モンスターは、特に野望を持つ者が現れることもなく、ひっそりとグレブド・ヘルで暮らしているとも」
「それはあまり正しくない。旧魔王軍で研究職のトップであったダヴィドレイという男は生き残っている。今も元気に魔王軍復活を画策中だ」

「ダヴィドレイ……魔王軍復活……? でも大魔王が死んでいるのに」
「ああ。たしかに亡くなられている。だが、白骨となったご遺体は魔王城に残ったままでな。アンデッドとして生き返らせるつもりらしい」

「は? でもアンデッドにしたところで意味が――」
「当然そこは意味があるようにするということだ。新しいアンデッド化の技術を開発中でな。そのうち記憶も能力も元どおりのアンデッド大魔王様が完成だよ」
「――!」

 シドウの頭の中に、旅で見てきた不自然なアンデッド事件の記憶が蘇った。 
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