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ユキアンのネタ倉庫 ハイスクールD×D

作者:ユキアン
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ハイスクールD×D 革新のリアン6

 
前書き
相変わらずアーシアが眷属やヒロインにならないなぁ。
嫌いじゃないし、むしろ好きな方のキャラなのに、不思議な事もあるものですねぇ。 

 


娼館にドハマリして入り浸りそうになったイッセーをプレイ内容を公開すると脅し、成果を出せば再び連れて行ってやることを約束して人間界へと戻してからも、オレは冥界に留まり書類を片付けていく。ちなみにイッセーが気に入っていたプレイはまだ普通だ。世の中にはもっとぶっ飛んでいる奴らが多いからな。あの程度は普通の範疇だろ。まあ、赤龍帝の籠手で精力を強化していたのは笑えたが。ドライグが泣くだろうな。

「この資料は確かなのか?」

アーシア・アルジェントに関する資料をおいてマリータに確認する。

「私も目を疑いましたが、事実です」

もう一度資料に目を通して、絶滅してしまったとされる動物を実際に見てしまった気持ちになる。

「こんなのが未だに生息していたなんて。裏から手を回して囲い込んでおこう」

「取り込まないのですか?」

「いや、なんか手に余りそうだ。直視すると自分の汚れっぷりに目が潰れるかもしれん」

「まあ、分からなくもありませんが。裏で手を回しておきます。護衛の方も専属で付けておきます。それとこちらはどうします」

「消せ。眷属ごと纏めてだ」

「かしこまりました」

この一言で数日の内にとある悪魔とその眷属が姿を消すことになる。遅いか早いかの違いだけで消すこと自体は決まっていたことだ。

「それからルシファー様よりレーティングゲームの要請が」

「兄上もしつこいな。まあ良い、今少しの間だけだ。付き合ってやろう。イッセーを鍛えるのにもちょうどいいしな」

「それが、ルールがダイスフィギュアなのですが」

「ダイスフィギュアか。レーティングゲームのコスト制のルールは作りが甘いからな。10面ダイス目に眷属を配置、出た目の選手同士で対決。各眷属は2箇所まで配置可能。それを5回行う形で勝敗の数で勝負を決める。目に所属する眷属が全滅している場合は不戦敗だ。それでなら受ける。これを基本に交渉で詰めろ。断るようならレーティングゲームの存在を公表しろ。同時に裏で詳細の噂を流せ」

「かしこまりました」

「ああ、処刑場の方はどうだ?」

「リアン様の設計通りに進めております。あとは、魔法陣の設置だけですが、指定された染料の調達が難航しているようです」

「遅らせることだけは罷り成らぬ。金と人材はいくらでも注ぎ込め」

「現場に伝えます」

処刑場が稼働すれば、オレの力は更に増すことになる。負の感情ってのは放っておくと悪質に変化するからな。おいしく利用させてもらうことが出来るのが呪術師だ。餌も大量に手に入るしな。

「買収した企業は赤字だが、これは問題ないな。あれは慈善事業だし、ブラックをホワイトにした結果だからな。あとはこれを正常な利益が出る企業に変えていくだけだ。グループ化は済んでいるから、余分な贅肉を落とせば健全な企業になるな。とりあえず重役のゴミは纏めて排除して、使えない天下りも排除。手足から一時的に人材を派遣して立て直しを図らせる。余分な部署も統廃合させれば何とかなるな」

「赤字だらけですが、トータルでは黒字ですね」

「やはりカジノの収入はデカイな。プロのディーラーとそれを差配する支配人が優秀なら上がりは十分だ。目玉の巨大スロットは見えっ張りなジジイ共に大受けで何よりだ」

「溜め込みすぎですね。お金は廻してこそ意味があるというのに。宝石や芸術品を溜め込むのは分かりますが」

「コレクションしたいという気持ちはよく分かる。古銭をコレクションするのもな。レア物の現金のコレクションも理解できる。だが、普通の金を溜め込んでもなぁ。所詮は紙と数字なんだよ。それを、いや、経済そのものを理解できていないんだろうな」

経済っていうのは生き物なんだよ。金は血液だ。血液を体内の一箇所に溜め込めば生き物は死んでしまう。まあ、流れる血液の量が多くても駄目なんだが、そこはうまく調整する必要がある。今まで誰も調整した跡がなかったのは、そもそもの金銭に関する概念を人間たちから模倣しただけなのだろう。足元がお留守にも程が有るぜ。

「もう少しでライフラインの会社を全て抑えられる。金融機関も半分まであと少し。楽に革命ができそうだわ」

「旧魔王派はこれでチェックメイトですね。現政権も既に天守に籠った城主を残すのみですか」

「それから先は外交になってくる。まあ、どうとでもしてやるさ」

懐からシガレットチョコを取り出して咥える。う〜む、カカオ90%とは言えタバコとは違うな。やはり本物のタバコが欲しい。どうせ隠密用に加工するだろうけど。








「各陣営はそれぞれ1から10までの数字に眷属を配置する。眷属は2箇所にまで配置することが出来る。両陣営が配置終了後に配置を発表。その後、審判が各陣営の色のついた10面ダイスと一回り大きな6面ダイスを振り、その目に配置された眷属が6つの会場のどれかに転送される。それを5回繰り返し、先に3勝した方の勝ち。いいだろう、これで受けよう」

今日の夕食のメインの鶏肉から余分な脂身を取り除きながら通信魔術陣の先にいるマリータに答える。片栗粉をまぶし、皮の方から焼いていき、アルミホイルを被せて重しを乗せる。その間にゆで卵とピクルスをみじん切りにして自家製マヨネーズを入れてタルタルソースを作る。

「中々大変そうですね」

ソーナがボードゲーム試遊会のチラシを作りながら相槌を打つ。

「アレだけボコって再び立ち向かう気になったこととダイスフィギュアでオレに暴れさせないように考えたのは評価に値するが、情報収集を怠ったな。まあ、眷属はマリータしかお披露目していないからな。他は大したことはないと勘違いしたのだろう」

「そう言えばそうでしたね。なぜまた急に?」

「まあ、イッセーの経験値稼ぎだな。基礎はある程度積み終わったから実戦も積ませないとな。はぐれは速攻で狩るから態々遠征する必要があるからな」

「そうですね。私も匙に実戦を積ませたいのですが。遠いのがネックなのですよね。魔獣とはまた違いますから」

「レーティングゲームも実戦とは違うんだけどな。会話が成立する相手を殺せるかどうか、殺した後に壊れないかどうか」

火が通った鶏肉をひっくり返す。うむ、良い焼け目だ。鶏皮から出た余分な油をキッチンペーパーで取り除き、そこにポン酢と砂糖で作ったタレを入れる。タレを焦がさないようにスプーンで掛け回しながら火を通す。

「転生悪魔と純粋悪魔の一番の違いですか。こればっかりは試してみないとどうしようもありませんね」

「兄上達のように戦乱期の人間を転生させれればそこは簡単にクリアできるんだけどな」

はぐれになる原因の一つである命を奪うという行為。慣れていなければ簡単に心が壊れる。壊れなくても原因を求める。それが主からの命令に結びつき、憎悪し、殺害に移る。それが理解できないのが悪魔なのだ。姿は似ていても、精神の有り様が異なるのだ。なまじ姿が似ている所為で余計に分からないのだろう。

「さすがに現代では厳しいですね」

先に千切りにしておいたキャベツが盛られている皿に鶏を盛り付けてタレを少量かけ、タルタルソースをたっぷりと乗せればチキン南蛮風ソテーの出来上がりだ。

「日本で見つかったら逆に怖いな」

「見つけたら寧ろ消さないと危険すぎます」

「たまにプロが入国してるみたいだけどな。依頼成功率99.9%の超A級スナイパーがな。まあ、銃のパーツを砥いで貰っていることが多い。たまに依頼で来てるみたいだけど関わらない限り問題ない」

話を一度打ち切り、夕食をテーブルに並べる。チキン南蛮の衣があまり好きではないのでソテーにしてみたが、はたして結果は。うん、美味い。衣を取り除き、余分な脂肪も取り除いているから普通のチキン南蛮よりはあっさりしているが、メインとしては十分なボリュームだ。

「相変わらずレシピ本に無いようなアレンジをしますね」

「突拍子も無い組み合わせをしようとしなければ大抵は大丈夫だよ。レンチンしたかぼちゃにミントアイスをぶち込んだり、牛すじと金柑を蜂蜜と醤油で煮込んだりしなければな」

「なんですか、それは?」

「とある知り合いが客に出して店から追放された料理」

ちなみに現在はイッセーを放り込んだ娼館のNO.1だったりする。客に料理を振る舞わせないように細心の注意を払っている。本人は美味しいのにとか言っているが、味の許容範囲の下限が広いだけだと思う。









頭が痛い。なんでこんな苦労が多いんだろう。やめて欲しい。

「現実逃避はそのくらいにしてください」

「世界が滅ぶのを特等席で眺めるだけの方が楽な気がしてきた」

ソーナに突っ込まれながら眼の前に居るオレの手足に保護されたアーシア・アルジェントに向き直る。

「はじめましてだ。私はリアン・グレモリー、この地の管理を任されている者だ」

「はじめまして、アーシア・アルジェントと申します」

何も分かっていない笑顔で挨拶を返される。頭痛が酷くなる。

「自分がどんな目に会いそうになっていたのか理解されていないようだな」

「はい?」

「レイプ、貞操の危機だったと言っているんだ」

「えっ?」

「今時の小学生でも引っかかりそうにない言葉に釣られてな。良かったな、神器を持っている有名人で。そうじゃなければ放っておいたところだ」

本当に頭が痛い。簡単に丸め込まれてホテルに連れ込まれる直前に警察官に変装した手足が職質をかけて保護したのだ。

「なっ、えっ?」

「有名人だぞ、アーシア・アルジェント。『聖女』と呼ばれながら悪魔を癒やし、教会から追放された『魔女』様。ちなみに君が癒やした悪魔は極刑に処して首は教会に届けられた。奴は聖女好きでな、伝承にあるような悪魔らしく聖女を堕落させて自分の者にするのが好きな奴でな。その所為で同族がどうなろうと知ったことではないという奴だから処分した」

ついでに言えばテロリストと手を組んでいたし、旧魔王派でもあった。兄は魔王なのにな。だからさっぱりと処分した。心不全に見せる毒でな。

「中途半端な知識しかない君に言っても仕方ないことだが、この街は悪魔の領地でな、10年ほど前の事件によって教会はこの地への干渉は行わないという契約も存在する。土地の権利は教会側が持っているので何も言わないし、建物自体にも何も言わない。ただし、整備を行ったり管理人を送り込むのも禁じていた。教会に問い合わせた所、君が教会から追放されたとは伝えられた。ここで面倒なのが、追放されただけで破門されたわけではないということだ。この違いが分かるか?」

「いえ」

「簡単に説明すれば復帰出来るか出来ないかだ。追放の場合、恩赦によって復帰が認められる可能性がある。破門なら不可能だ。この差はデカイ。ただでさえ他の領地では一般の信者の希望で悪魔の領地に教会を建てられて、侵略されることすらあるのだからな。最近は経済戦争をこっちからふっかけて空き領地を増やしてやってるがな」

ブラックすれすれのグレーゾーンの地上げで教会をどんどん潰してるからな。手足を挟んでいるからオレまでたどり着けない。空いた領地に紛れ込むように誘導したはぐれに密かに援助して被害を出させ、管理能力不足で天界から奪いさり、それを新魔王派でやる気も能力もある新人に任せている。手足が視察しているので問題があれば業務改善命令も出すし、場合によっては研修や会合も開いている。

「水面下で激しい闘いがあるんだよ。ここ数年は悪魔が勢力を伸ばしている。教会は落ち目だ。信仰心はあまり関係ない。いや、関係なくはないのか。だが、経済という名の魔物が強大すぎるだけだ。資本主義バンザイ」

「貴方は、神を信じられていないのですか?」

「いや、信じてるよ。オーディンの爺とかはちょくちょく会ってるし。ああ、キリスト教の神、ヤハウェなら死んでるから信じる何もない」

「……えっ!?」

「まあ、知らないのも無理はない。今はミカエルがヤハウェの残した装置を使って代理を行っているからな。だが、使い切れないミカエルでは取りこぼしが多く出てしまう。ああ、ちなみに上の方の悪魔とか堕天使とか他の神話勢力はヤハウェが死んでるのは知ってるぞ。下に教えないのは、まあ、鏡を見れば分かるだろう」

半分も理解できていないだろうが、それでも十分に絶望している顔が鏡に映されている。

「希望がないから生きていけないって言うなら、殺してやる。確か自殺は禁じられてただろう?苦しまずに送ってやるよ。その方が楽でいい」

「リアン、本音が出すぎです」

「別に構わないだろう。出会ったばかりの悪魔の戯言を鵜呑みにするような、考える力を奪われ、簡単に折れる心しか持たない元シスター。オレの興味は尽きた。これまでの活動から気が引けていたが、どうということはなかった。好きに生きればいい。無知な子羊として生涯を過ごすが良い」

回復系の神器は珍しいから他の勢力に奪われないように護衛は付けるが、それだけだ。アルジェントの経歴が全てを分かった上で行っていたとしたら畏敬の念から恐れていた。だが、無知によるその場その場の行動であるというのなら恐れる理由はない。前世に居た、俺たち傭兵団が、まともな感性を持つ全ての武力を持つ人間が恐れた、あの聖人と違う存在なら掃いて捨てるほど見てきた。今まで見てきた偽物の中では一番近い存在だっただけだ。

興味がなくなったアルジェントをソーナに任せて自宅に帰る。マリータに連絡して警戒度を落とさせる。それで全てが終わったと思ったのだが、数日後にレーティングゲームに備えて眷属たちと調整していた所にソーナがアルジェントを連れてきた。

「何か用か?」

「貴方にしては対応が雑だと思いましてね。じっくりと育てるのが得意な貴方が早々に手放すと、逆に興味がわきまして」

「ああ、なるほど。ソーナは出会ったことがないのか。彼女は薄っぺらい、考えることを放棄した人間だ」

「ふむ。もう少し詳しく」

「狂信者までは行っていないが、そういう素質は持っている。性格的に狂信までは行かなかっただけだな。歴史上はそこそこの人数が居たが、近代化に伴い数は減らした。近代化には教育も含まれてくるからな。宗教は無垢で無知であると染まりやすい。教育されてしまえば、それに絶望しない限り染まりにくいからな」

「ですがリアンなら上手く扱えるでしょう?」

「まあ扱えるが面倒だ。聖女だ何だと言われてる奴らは一度折れると立ち上がらせるには何かに依存させるしか無い。何故なら心に芯がないからな。普通は成長に伴い人生経験から芯という物が形成されるが、その人生経験が薄い生活しかしてこなかった弊害で誰かに支えられないと立てない。そして支えられているうちに芯が支えてくれている相手に染まる。ソーナ、彼女は自分でここを訪ねようとしたか?違うな、ソーナが連れてきただけで能動的に動こうとはしていない。そんな者に掛ける時間は生憎持ち合わせていない」

話はそれだけだ。イッセーの仕込みの最終段階なんだ。それでこの先は自己流で仕上げさせることが出来るんだからな。多少怠け癖があるが、そこは飴と鞭を適切に使えば問題ない。娼館の一つの貸し切り程度で十分に鍛え上げた赤龍帝を使えるなら何の問題もない。これで性格がクズだったり、扱いにくいのなら話は別だがな。







人間性の薄っぺらさ。なるほど、確かに彼女はそれが薄い。自分というものが薄いと少しのきっかけで簡単に折れてしまう。逆に言えば、依存させれば裏切ることはない存在となりますね。リアンがいらないというのなら私の方でもらいましょう。手間はかかるかもしれませんが、十分なリターンはあります。駒は騎士しか余っていませんが、底上げという意味では間違いではないでしょう。

さて、じっくりと心の隙間に忍び寄らせてもらいましょう。悪魔らしくね。なに、私は身内には優しいですから。このまま放流するよりは幸せにしてあげますよ。








「各陣営はそれぞれ1から10までの数字に眷属を配置する。眷属は2箇所にまで配置することが出来る。両陣営が配置終了後に配置を発表。その後、審判が各陣営の色のついた10面ダイスと一回り大きな6面ダイスを振り、その目に配置された眷属が6つの会場のどれかに転送される。それを5回繰り返し、先に3勝した方の勝ち。各試合のインターバルは試合前後に5分ずつ。リタイアからの復帰はありか。眷属が配置されていない、もしくは復帰できていない目が出た場合は不戦敗。ご丁寧にフェニックスの涙の使用制限が入ってない」

「相手は大量のフェニックスの涙を持ち込んでくるでしょう。対策は?」

「簡単なことを聞くな。所詮は傷と魔力を回復するだけだ。体力は回復しないし、体調も回復しない。何より心は絶対に治らない。まあ、多少の細工を施させてもらう」

ルール表を見てから軽くゲームプランを組み立てる。そろそろライザー・フェニックスには飽きてきた。完全に心を折る。そのために必要なのは圧倒的な戦力、シチュエーション、そしてパフォーマンスだ。

眷属達の仕上がりは十分だ。シチュエーションは現場で細工するだけだし、パフォーマンスに必要な台本も用意してある。

罠を仕掛けたと思っている馬鹿を力技で罠ごと食いちぎりにレーティングゲーム会場に向かう。長々としたルール説明を無視して配下のグループからの報告書に目を通す。設備を最新の物に切り替えたにもかかわらず赤が減っているのは順調な証だ。重鉄鋼は抜き打ちの監査だけで問題ないな。他のところも軒並み問題なし。新規部門は赤だけだが、問題なし。

「貴様、舐めるのも大概にしろ!!」

ライザーが怒鳴り散らすが仕方ないだろうが。

「定職についていないお前と違って学生と財閥の掛け持ちをしているオレは忙しいんだよ。オレの1時間とお前の1時間は等価じゃないんだよ。オレの1時間の稼ぎに300人の生活がかかっている。いい加減諦めろ。グダグダとするのは男を下げるだけだとまだ分からんか。私だ、例の土地を買い上げろ。そうだ、新しい工場を立てる。地盤整備からしっかりとやれ。ルールは理解しているからとっとと始めろ」

「すぐに吠え面を掻かせてやる!!」

「やれるものならやってみろ。ところでだが、審判さん、あんた、ディーラーをやってるらしいな。ダンタリオンの所で」

「それがどうされました?」

「おいおい、分かんねえか。悪魔じゃあ珍しく魔力を使わない技術でダイス目を操作できるイカサマディーラーさんよぉ」

マリータに合図を出し、こいつの秘密の練習風景の盗撮動画を流す。ポーカーフェイスを崩さずに視線も泳いでないが、一瞬強張ったな。一流ではあるが超一流ではないな。

「ついでにこれもどうだ」

フェニックス家の執事が屋敷から出て審判に金を積んでいる映像だ。ライザーのやつは顔に出ているな。甘っちょろい餓鬼だな。

「場外乱闘がご所望で?兄上、どうせ見ているのでしょう。とっとと公平に見える審判を連れてきてくださいよ。何度も言っていますが、忙しいのですよ。ああ、それとお前の顔は賭博業界に流す。指を切り落とさないだけ有情だ。連れて行け」

今まで潜んでいた影たちがイカサマディーラーを捕縛して消え去る。

「さて、弁解を聞こうか、ライザー・フェニックス。先程の動画には続きがある。あの執事がお前へ報告している続きがな。杜撰にもほどがあったな。貴様程度ではオレと同じ舞台に立つことは出来ない。今まではお遊びに付き合ってやったが、暇ではないのでな」

置かれていたサイコロを拾い上げ、こいつがイカサマディーラーに頼んでいた目を出してやる。

「ほらよ、こいつが出したかったんだろう。お望み通りにしてやろうじゃないか」

出した目は、イッセーしか配置されていない目と、ライザー達全員が配置されていて、闘技場のフィールドの目だ。

「あれぐらいのサマはオレは普通にできる。出来るという事実を知らずに目の前でサマをやろうなんて、笑わせてくれる。これが格の差って奴だ。一つ勉強になったな」

先程まで青くなっていた顔色が赤くなったライザーを無視してイッセーに向かい合う。

「さて、イッセー。事前に伝えた通りだが、お前には一人でライザー達の相手をしてもらう」

「本当にオレ一人でやるんですか?イザイヤ達の方が」

「ああ、イザイヤ達の方が安定して勝てるだろう。だが、それでは意味がない。それに投資した分の成長を見せて貰わないとな。損切はしたくない。意味はわかるよな」

「投資家としてのリアン先輩を信じろと。やってみます。ただ、アドバイスが有ると嬉しいんですけど」

訓練の成果はちゃんと出ているな。情報を得ようとする姿勢があるのとないのでは大きく違う。

「うむ、慎重なのは良いことだ。では奴らの目安を教えてやろう。カーラマイン、あの鎧を着ているのしかオレの準備運動を熟せる奴が居ない」

「えっ!?」

「それとレイヴェル、あのドレスを着ている子だな。あの子とライザーは兄妹で、超再生能力があるが、加減して殴れば痛みはしっかり残る。レバーブローを叩き込んで沈めればいい。振り回して三半規管を狂わせても良い。あれは再生しようが治療されないからな。ライザーの隣りにいるドレスの女は空間爆撃を行うが、見た目ほどの威力はないし爆破までに多少の時間と違和感を与える。双子の餓鬼共はチェーンソーを獲物に持っているがそれに振り回されてるだけでさほど怖くはない。剣で斬られるのとチェーンソーで斬られるので結果が変わるわけではないからな。あのポニーテールの奴だが、多少の不意打ちや一騎打ちの割り込みをする程度の良い子ちゃんだ。あとはどうとでもなる」

「えっ?いや、えっ?あの、平均以下?」

「中堅どころの平均だな。ほとんどライザーに頼ったチームだ」

「あの、それじゃあオレたちって」

「本格的にレーティングゲームに参加すればすぐに上位陣に食い込める。それだけのことを叩き込んだ。とはいえ、ルールによっては本来の実力が出せないような状況に追い込まれることもあるだろう。が、今回はそんな心配は全く無い。存分にやると良い。それからもう一度言っておこう。悪魔は強ければモテる」

「頑張ります!!」







初めての観客に見られながらの模擬戦に緊張する。相手は16人、先輩が言うには大したことのない相手だが、それでも緊張する。左手に赤龍帝の籠手を呼び出して倍化の力を溜める。

深呼吸してライザー達に向き合った所で違和感を感じる。なんだろうな、この感覚は?ライザー以外の子たちから変な感じがする。こういう時は見に回る。先輩の教え通りに動く。最初に突っ込んできた猫耳の二人の拳をそらして足払いと同時に背中を軽く押して転がす。チャイナ服っぽい棒術使いは突いてきた棒を掴んで思いっきり引いて投げ飛ばし、チェーンソーでの飛びかかり切りをしゃがんで躱して足の裏を掴んで投げる。投げの慣性を利用してそのままバク転で背後から迫っていた剣の一撃をかわし、片手で着地して回し蹴りで蹴り飛ばす。

そこで一度攻撃の波が止む。全方位を囲まれたのだが、今の調子なら問題ない。問題ないんだが、違和感が更に濃くなった。余分な力が入りすぎていて、何かに怯えている。

「転生したばかりの相手に何をやっている!!」

ああ、なるほどね。だいたい理解した。この子達はライザーに怯えているんだ。妹だと言っていたレイヴェルって子は眷属の子たちを守ってあげたそうにしているが、出来ないでいる。先輩が適当にあしらうはずだ。先輩が嫌いなタイプの性格だ。

決めた。今から馬鹿をやろう。先輩には頭が可哀想な子を見るような目で見られるかもしれないけど、馬鹿をやる。頭が可哀想な子でも、先輩なら見捨てたりしないって分かっているからオレは馬鹿を堂々とやれる。

カーラマインって名前の騎士の攻撃を動きに問題ない程度に受けて血を流す。他の眷属の子たちの攻撃も全て受けて血を流す。眷属達の子はそれに驚きながらもすぐに立ち直って攻撃を続けてくる。殴られ、切られ、焼かれ、見た目上はひどい状態だろう。まあ、訓練時よりは全然余裕なんだけどな。

最後に笑いながら炎を飛ばそうとしたライザーにオレの血で作った泥団子を顔に叩きつけてキャンセルさせる。

「泥だと、貴様、オレの顔にどっ!?」

二個目の泥団子を口の中に放り込んで黙らせる。ついでに血がたっぷりの三個目を股間に投げつけておもらしをしたみたいにする。

「殺す!!」

「ヌルいわ!!」

速度優先だったであろう炎弾をキャッチして投げ返す。どってぱらに炎弾を受けて仰け反るライザーに飛び蹴りを食らわせてダウンしたところで両足を持ってジャイアントスイングで投げ飛ばす。回転数は大分多いからしばらくは立つことすら出来ないだろう。

ライザーを投げ飛ばすと同時にまた眷属の子たちに攻撃されるのを致命傷にならないように受ける。

「貴方、一体何を考えているのです!!先程からわざと攻撃を受けて、何がしたいんですか!!」

とうとうレイヴェルって子がキレる。他の眷属達の子達も攻撃を一度止めて距離を取る。

「あ〜、礼儀作法はまだ勉強中だから無作法があったらごめんなさい」

「そんなことを怒っているわけじゃないわ!!」

「うん、それは馬鹿なオレでも分かる。それで何故わざと攻撃を食らうのかだっけ?それはオレが馬鹿だからだ!!」

「……何を言っているの?馬鹿でも最初にあれだけ動けたのだから身を守ることぐらいできるでしょう」

「ああ、オレの身を守るぐらいならな。だけど、それだと君らの心が守れない。最近になってから怒鳴られ続けてるんだろう」

オレの言葉に反応はしても同意の声は上がらない。上げれないが正しいんだろうけどな。

「リアン先輩が見飽きたというセリフ。正式なレーティングゲームにそこそこ参加しているはずなのに異常な緊張。ライザーに怒鳴られて何人も手元が震える。馬鹿なオレでもこれだけ材料が揃っていればなんとなくでも現状が分かる。だから、ライザーの言う指示を達成させる」

「ば、馬鹿ですか!!そんなことをして、貴方に何の得もないじゃないですか!!」

「だから、馬鹿だって言ってるだろう。そんな馬鹿で無駄かもしれないけど、苦しそうに怯えている女の子を見て何もしないなんてオレには出来ない。幸い、もっとやばい訓練を施されてるからこれぐらい余裕余裕」

実際、最初の方に食らった傷は自然治癒済みだ。足りなくなった血液も造血量を倍加させて回復済み。問題は空腹がちょっと辛い。今度から先輩みたいにチョコレートでも懐に忍ばせておこう。防弾チョッキにあのビスケットも仕込んどこう。

「まっ、女好きのわがままだとでも思ってくれ。ほら、いくらでも来い。絶対に倒れるつもりはないし、ライザーを先に倒すけどな!!」

倍化で強化した身体能力で眷属の子たちを置き去りにしてライザーに飛びかかる。

「見よ、リアン先輩の地獄のような特訓で身につけた身体能力による見かけ倒し!!筋肉族三大奥義が一つ!!」

未だに立つことすら出来ていないライザーを空高く放り投げ、追いかけるようにジャンプし、首と左足と両腕を固定してエビ反りのようにクラッチ。体の硬いライザーから色々と砕ける音が聞こえる。そのまま背中合わせになるようにしてから手足を固定し、そのまま地面に首から叩きつける。

「未完・マッスルスパーク!!」

相互理解とその後の和解への道を残す気がない今のオレが打てるのは未完でしかない。オレはライザーの敵であり続けて構わない。自分のことを慕ってくれている女の子を苦しめる奴と和解なんてしたくない。ついでにこれで勝負が決まることもない。

ライザーの体が炎に包まれて、フラフラしながらも立ち上がってくる。回転による酔いが抜けてきたのだろう。これがフェニクス家の再生能力か。手頃なサンドバックだよな。

「き、貴様!!たかが転生悪魔風情がよくもこのオレを!!お前たち、なn」

「必殺シュート!!」

余計なことを言わせないように顔面を蹴り飛ばす。そのまま追撃して再生した所で更に顔面を殴る。これ以上余計なことは喋らせないようにさらに追撃をかけようとする。

「お待ちになってください!!」

急にレイヴェルちゃんに静止を促されるけど、車は急には止まれない。加速の付いた赤龍帝も止まれない。終いには変に転んでライザーに組み付いてしまったので慣性を活かしてそのまま真空地獄車に発展させてライザーをボコる。よし、さらに酔ってしばらくは動けないはずだ。

「何かようか」

「ええ、決めましたの。私達はリザインします。これ以上、お兄様に付き合うつもりはありません」

「はい?」

「あんなのでも昔はもう少しはまともで優しかったんです。それがリアン様に負けてからあのように。いつかは元に戻ってくれると思っています。でも、決めました。元に戻るきっかけを待つのではなく、きっかけを作ると。その覚悟を持たせてくれた兵藤様に感謝を」

そう言ってカーテシーだったか?あの、こうお嬢様がやるスカートをちょっと持って礼をするあれを見せてくれた。そしてリザインを口にしようとした所でレイヴェルが炎弾に貫かれた。オレに対する殺気がなかったせいで反応ができなかった。誰がやったかなんて聞くまでもない。

「自分が何をやったのか、分かってるのかライザー!!」

レーティングゲームにはサクリファイスという戦術がある。囮にかかった敵を囮ごと吹き飛ばす戦術だ。だが、今のはただのフレンドリーファイアですらない。

「黙れ小僧!!お前たち、何をしている!!早くその小僧を殺せ!!」

ライザーの言葉を聞いても眷属の子たちは誰も動かない。それどころか武器から手を離す。

「もう止めましょうライザー様。これ以上はもっと評判が悪くなるだけです」

「そうです。もう止めましょう。レイヴェル様だって謝れば許してくれるはずです」

とうとう説得まで始まってしまう。これ、貴族的に致命傷のような気がするのはオレだけ?若干怒りのボルテージが下がり、冷静とは言わないまでも

「黙れ!!女は黙ってオレに使われていれば良いんだよ!!」

あ〜、うん、リアン先輩ごめんなさい。言いつけ破ります。最大出力と思われる炎の壁に向かって突撃し、禁手化して炎を散らす。

「ライザー、オレ、お前のこと大っきらいだ。お前のことを心配してくれる女の子があんなにも居るって言うのに、使うだと?巫山戯るな!!彼女たちはお前の承認欲求を満たすための道具じゃない!!」

最初とは違い、今度は本気でライザーの顔面を張り手する。首から上だけが吹き飛ぶ。右手の篭手を爪状に変化させ、残っている体を引き裂く。眷属の子たちを見るとレイヴェルが再生を終えていてオレを心配そうに見ていた。

「とっとと、リザインして会場を離れてくれ。それと出来ればこの後の惨状を見ないでくれ」

「ですが、いえ、愚かな兄ではありますが、どうか命だけは」

「分かってるよ。さすがにそこまではしないけど、徹底的にやりたいんだ」

「よろしくお願いします。それではごきげんよう」

リザイン宣言をして会場から退場する眷属の子たちを見送り、手頃な石を拾い上げる。再生中のライザーの歯をへし折りながら石を口の中に突っ込む。これでリザイン宣言は出来ない。

「さて、ライザー。覚悟は良いな?オレは3日ほどなら不眠不休で戦えるぞ」
『馬鹿なことをしたな。こいつは歴代の赤龍帝の中でも怒らせたらヤバイやつだ。まあ、赤龍帝の恐ろしさ、その身に刻み込め』

今まで黙っていたドライグの宣告と共にライザーを地獄に叩き込んだ。









「よくやった、イッセー。序盤の馬鹿はあれだったが、世論は味方に付いた」

丸一日ほどでライザーの反応がなくなったので拷問は終了し、戻った第一声がそれだった。

「お前が拷問に入るまでの試合風景を撮影した物が何者かによって流失してな、ライザーの評価は地に落ち、レイヴェルやその眷属は主の忠臣として評価され、馬鹿で女好きだが頼りになるヒーローって感じだな。さて、特別報酬として欲しいものはあるか?」

何者かって言うけど、先輩の手足がやったんでしょう。口に出さないけど、皆そう思ってるはずだ。

「とりあえず飯を食わせてください。腹が減って気持ち悪いんです」

「別室に用意させてある。着替えもな。この後、オレは残務処理がある。特別報酬の希望はメールで送ってくれ」

「了解です」

先輩の手足の一人に別室に案内されて状態保存の魔法陣の上に置かれた食事にありつく。白音ちゃんには負けるけど、戦闘後は食べる量が多いオレに合わせた量の食事をしながら特別報酬を考える。とはいえ、特に欲しい物ってないんだよなぁ。あ〜、でも、ライザーの眷属の子たちは本当に大丈夫なのか?しばらくしてから会って現状を確認させてほしいとかで良いかもしれないな。うん、そうしよう。


 
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