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戦国異伝供書

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第四十五話 影武者その四

「これは」
「そうじゃな」
 小笠原も武田の本陣を怪訝な顔になっている、そのうえでの言葉だ。
「武田殿のあの傷はな」
「一月でどうにかなるものではない」
「その筈じゃ、しかし」
「武田殿は出陣されておる」
「これはどういったことじゃ」
「まさか無理をしてか」
 怪我をしてもというのだ。
「戦の場で来ておるのか」
「だとすれば何と恐ろしい御仁か」
「まさに虎じゃ」
「甲斐の虎じゃ」
 こう話した、しかしだった。
 ここでだ、彼等から見て左手武田の軍勢から見て右手の方を指し示してだ、村上家の旗本が自身の主に言った。
「殿、あちらを」
「どうした」
「また武田殿が」
「何を言う、武田殿は敵の本陣におるぞ」
 その本陣を見ての言葉だ。
「確かにな」
「その筈ですが」
 旗本もわかっていて言う。
「しかし」
「それでもだというのか」
「はい」 
 まさにというのだ。
「あちらを」
「まさか、いや」
 その諏訪の兜を見てだった、村上はあらためて述べた。
「あれもじゃ」
「武田殿ですな」
「うむ、しかしじゃ」
「武田殿はお一人ですな」
「妖術でも使わねば」
 とてもというのだ。
「二人になることなぞ出来ぬ」
「ですな、では」
「どちらかは影武者じゃ」
 小笠原が言ってきた。
「そうに決まっておる」
「それはそうであるが」
 村上は小笠原のその言葉に応えた。
「しかしじゃ」
「それでもじゃな」
「この度の事態に兵達は驚いておる」
 村上が懸念するのはこのことだった。
「まさかと思うことが続けて起こったのじゃ」
「武田殿が本陣に出てじゃ」
「今度は左手に出た」
「だからのう」
「今兵達は驚き浮足立っておる」
「早く兵達を落ち着かさせねば」
「すぐにな」
 二人でこう話したがここでだった。
 さらにだった、今度は彼等から見て右手武田の軍勢から見て左手にまただった、諏訪の兜を被った赤い陣羽織の男が出て来た。
 その者を見てだ、小笠原はまた言った。
「これは最早」
「何が何かな」
「わからぬ、武田殿が三人だと」
「影武者か」
「そうだと思うが」
「一体誰が本物じゃ」
「そもそも全員偽物ではないのか」
 彼等が戸惑い疑った、そして動きを止めてしまった。それは一瞬だったが一瞬を見逃す晴信ではなかった。
「今じゃ」
「はい、今よりですな」
「戦を決しますな」
「そうする」
 飯富と山縣に対して答えた。
「これよりこの左手から騎馬隊を突っ込ませてじゃ」
「敵を崩す」
「そうしますな」
「そしてじゃ」 
 さらにと言うのだった。 
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