魔法が使える世界の刑務所で脱獄とか、防げる訳ないじゃん。
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第67話
「やーやー萬屋さん! マフィアの黒華とマギアの白雪がやってきましたよー‼︎」
スライド式の扉を勢いよく開けながら、黒華が声を上げる。その後に続いて、白雪も「おーす」と小さく言う。
すると、店の奥から叫び声と共に、この店唯一の店員が、半泣きで飛び出してきた。
「はぁぁぁあああああああああっっっっっっっっ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎ ちょ、まッ……はぁッ⁉︎ 今度はなんだ、ハッキングの依頼か⁉︎」
ぼさぼさの赤い髪と、濡れた黄色い瞳。くたびれたシャツの上に厚手のパーカーを着た男、君月は、逃げ腰のまま叫ぶ。
それを、柔らかい笑顔で眺めながら、黒華は言う。
「違いますよ。借りていたトラック、返しに来ました」
「じゃあなんであの“マギアの狂犬”と一緒に来て……」
とそこで、殆ど物がない店内をぼーっと眺めていた白雪が声を荒げた。
「あ゛ぁッ⁉︎ 誰が“狂犬”だあ? 俺様は犬じゃねえッ‼︎‼︎ ぶっ殺すぞ」
———そういえば、お客さんの誰かが言ってた気がする。『“マギアの狂犬”に“マギアの狂犬”ってワードは禁句だよ! 前、それ言った人何人も殺されてるらしいからさ‼︎』ってぇえええ‼︎ なんでもっと早く思い出さなかったんだ俺ぇぇええええ‼︎ というか、なんでこのマフィアはマギアの狂犬と連んでるだぁあ⁉︎
大荒れの気持ちをそのまま謝罪の気持ちに変えて、君月は思いっきり頭を下げた。
「す、すすす、すみませぇえん‼︎‼︎ ちょ、アンタ‼︎ どう説明してくれんだよ⁉︎ マフィアと連んでるだけでマズイのに、更にマギアまでとか、マジで死ぬんだが‼︎」
「まぁまぁ、落ち着いて下さいよ。今日は本当にトラックを返しに来ただけですから」
「じゃあさっさと帰れよ‼︎ ……これ以上厄介事にオレを巻き込むのはやめてくれ」
「ええ? 酷くないですか。私が巻き込むんじゃなくて、貴方が突っ込んできているだけなのに」
「じゃあもうこの店に来んなよ‼︎」
静寂。
そして、黒華が一瞬ニヤリと何かを思い付いたように笑った後、寂しそうな顔をしながら、店の外の方を向いた。
「……わかりました。本当は白雪のことで、相談があったのに……過去、貴方に助けていただいた様に、彼も救っていただければと思っていたのですが……すみませんでした。長年、ご迷惑をお掛けしました……では、さようなら」
「ごめんごめんごめん、俺が悪かったって‼︎ だから、俺の稼ぎを減らさないでくれぇえ」
店を出ようとする黒華を引き止めるように、君月は黒華の腕を掴んで、止めさせる。
勿論、黒華のソレは全て演技な訳で、黒華は満面の笑みを浮かべる。
「あ゛あ? 何が相談だ。さっさと帰んぞクソが」
「まーまー、落ち着いてくださいよ、真希さん。私の過去の話をするだけですから」
「あ? てめえの話なんかに興味は———」
「私がマフィアを追い出されて、保護されるまでの一ヶ月の話ですが、興味ないですか?」
後書き
過去語編突入‼︎
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