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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第7章:神界大戦
  第207話「最悪の真実」

 
前書き
ちなみに、前回の戦いで最も早く決着をつけたのはなのはと奏の所です。
優輝は相手の“性質”をある程度見極めるために時間をかけていました。
 

 







「あれは……」

 神を次々と倒していたディータは、戦線から少し外れた場所での戦いに気づく。
 そこには、この世界にいるはずのない存在がいた。

「……なぜ、人間がここに?」

 洗脳された神と戦っている事から、イリスの手先ではない事はディータも分かっていた。
 だが、問題なのはなぜ人間が神界にいるのかだった。

「余所見するなぁ!」

「っ!ぐっ……!」

 意識が僅かにでも優輝達の方に逸れたため、その隙を突かれる。
 “重力の性質”を持つ神によって、その場に縫い付けられる。
 本来なら潰れてしまう程の重力だが……

「なっ!?」

「甘い、よっ!!」

 追撃をしてきた所を捕まえ、叩きつける。
 “決意の性質”により、重力を耐え忍んだ上で反撃したのだ。

「……まずは片付けないとダメかな」

 決意を抱き、ディータは敵の殲滅を再開した。









「でぇりゃっ!!」

「ガッ……!?」

 一方で、戦線での戦いに巻き込まれた優輝達は……

「……っし、今ので最後か?」

「ああ。そのようだな」

「皆何とか勝てたようやなぁ……」

 何とか、競り勝つ事が出来ていた。
 連携による戦術や、早めに決着を付けたなのはや奏の助力によって、何とか勝っていた。

「一応の法則性が分かれば、いつもの戦い方で問題なさそうだな」

「そーだな。とにかく勝つつもりでぶったたきゃぁ何とかなる」

「しかし、素の実力もなかなかに高い。油断は禁物だろう」

 特に歴戦の戦士でもあるヴォルケンリッターはかなり上手く戦えていた。
 戦乱の時代を生きていた事もあり、“勝つ意志”を意識して扱えていた。
 そのため、相手の“意志”を早く折る事が出来ていたのだ。

「……それに、少し離れ離れになってもうたしなぁ……」

「……そうですね。我々は固まって行動していたため、大丈夫でしたが……」

 しかし、良い事ばかりではなかった。
 戦線に巻き込まれ、一人につき一人の神を相手にしなければならなかったため、戦闘に乗じて何人かが散り散りになってしまったのだ。

「そんな離れた場所にはいなさそうやけど……あー、でも距離の概念が普通やないんやったな。……下手に動くのもあかんしなぁ」

 物理的な距離であれば、ほとんどの者がそこまで離れていない。
 余計な障害物がない神界ならば、普通に視界内に収められる場所にいるだろう。

「……肝心のソレラさんも、分断させられたしなぁ」

 だが、神界を案内していたソレラは、それよりさらに遠くへと分断されていた。
 神界の神であるため、他の者よりも警戒度が高かったからだろうか。

「とにかく、何とかして合流せんとな」

「ああ。あたしらは大丈夫だったけど、他の奴らもそうだとは限らねーしな」

 はやて達の所にも同じ人数の神が来ていた。
 しかし、ヴォルケンリッターとしての連携や、はやてやアインスの援護もあり、実力差を連携の優劣によって覆していたのだ。
 だが、それが他の皆も同じとは限らないため、はやて達は心配していた。

「とにかく、念話を試みながら探すしかないでしょう」

「せやなぁ。手分けは……愚策やな。固まって動くで」

『引っかかるかはわかりませんが……サーチもかけておきますね』

 アインス、はやての言葉にヴォルケンリッター全員が同意する。
 リインが周囲に敵含め誰かいないか索敵しつつ、周囲を捜索する。

『っ、生体反応です!これは……!』

 直後、はやて達に近づく気配をリインが感知する。
 他全員もそれに気づき……

「っつ、っと……!」

『アリシアさんです!』

 続けられたリインの言葉と、飛んできた本人を見てはやて達は警戒を解く。
 飛んできたアリシアは、体勢を立て直してはやて達の前に止まるように着地した。

「アリシアちゃん!無事やったんか!」

「おおっ、はやて!それに皆も!」

 はやて達の存在に気付いたアリシアは少し驚く。

「炎と……氷の槍か。何があったのだ?」

「えっとね―――」

 体中に炎の残滓があり、アリシアの手にはデバイスの他に氷の槍もあった。
 その事から、アインスが軽く経緯を聞く。



「―――で、私はここまで飛んできたの」

 軽く説明したアリシアは、そう言って氷の槍をその辺に投げ捨てた。
 
 アリシアは、アリサとすずかの二人と連携を取り、三人の神を相手にしていた。
 圧倒的能力に苦戦しつつも、連携をとって一人ずつ撃破。
 比較的弱かった二人を倒し、最後の一人はアリシアが突貫して倒したのだ。
 それも、アリサの炎を利用して加速し、自身のデバイスと後方からすずかが支援として氷の槍を飛ばし、武器にして攻撃するという二段構えで。

「だからそんなにボロボロなんか」

「いやぁ、アリサの火力が強くてね……」

 なお、倒すための“意志”を強くしていたため、アリサの火が強すぎたようだった。
 そのため、アリシアの体に炎の残滓が残っていたのだ。

「まぁ、おかげで倒せたみたいだけど」

「言霊って便利やなぁ。その気になれば一気に倒せるんやろ?」

「と言っても、魔法と比べて……だけどね。でも、はやて達もちゃんと倒せてるしそんな気にする事ないよ。……それに、さすがにあの神みたいに一撃は、ね……」

 はやて達は一人の神に対し、何十発もの攻撃を精神を擦り減らす勢いで“意志”を込めて攻撃していたのに対し、アリシア達は数えられる程の攻撃回数で倒せていた。
 言霊をよく扱う霊術だからこそ、比較的倒しやすいのだ。

「……あ、二人も追いついてきた。おーい!」

 アリシアがはやて達と話していると、アリサとすずかも合流する。





「……なんか、違和感があるのよねぇ」

「違和感?」

 合流し、その事を少し喜び合った後、アリサがふと呟いた。

「ええ。考えてもみなさいよ。神界なんて言う規格外の世界と、その世界に住まう規格外の神相手よ。……なんで私達程度が勝てるのよ」

「洗脳されてる悪影響……とか?」

「それを加味しても……よ。“負けない意志”があれば倒れないのは、向こうも同じはずなのよ。なのに、こうも簡単に倒せるのはおかしいじゃない」

 普通に考えれば、勝てるとしてもこちら側も満身創痍になるくらいには苦戦するはず。
 だというのに、蓋を開けてみればアリシア達もはやて達も苦戦はしていても満身創痍になる程追い詰められる事はなかった。

「……そうやな。自惚れに聞こえるけど、私達は魔導師ん中でもかなり優秀や。でも、だからと言って神に勝てる程強いと自負してる訳やない」

「そもそも、いくら法則と表現できるものがないとはいえ、説明が曖昧になるのもおかしいのよ。言い表せないなら言い表せないなりに、何か別の言い方があるはずよ」

「……ねぇ、つまりそれって……」

 アリシアが嫌な想像をしてしまったのか、アリサに恐る恐る話しかける。

「……ええ。あたし達、騙されている可能性があるわ。さすがに、どこから、どの辺が、とまでは分からないけどね」

 そして、アリサはそれを肯定する。
 その事に、尋ねたアリシアだけでなく他の皆も息を呑んだ。

「っ……でも、それなら優輝や椿達が……」

「気づくはず……ね。まぁ、気持ちはわかるわ」

 そう。こういう事なら、アリサ以上に感覚が鋭いはずの優輝達が気づくはずだ。
 アリサも普段ならそうだろうと、頷く。

「でも、根底から視点が違ったら?価値観や先入観、印象や経験によって、考え方や捉え方はずれてくるものよ」

「視点が、違う……?」

「ええ。……今この場にいる……ザフィーラ以外の皆……と言うか女性陣ね。それと優輝さん達のような鋭い人との決定的な違いは?」

 アリサの問いに、アリシアはしばし考える。

「……魅了された、経験……?」

「あっ……!」

「それよ。優輝さんはもちろん、椿さんや葵さんも魅了された経験がない。なまじ耐性や対策があるから、そう言った経験がないのよ」

 優輝達だけでなく、リンディやプレシア、クロノなども鋭い。
 しかし、その三人も魅了された経験はない。

「でも、それがアリサの言う違和感となんの関係が……」

「直接的な関係はないわ。言ったでしょう?価値観などによって考え方がずれてくるって。……言うならそれだけの事よ」

 信憑性はない。だが、アリサの直感的な推測は無視できない。
 元々アリサはこういった類に鋭い。感覚に頼った考え方をしているからだろうか。
 理論的に考えられる頭と直感が合わさり、鋭い部分に気付く事が出来るのだ。

「……と言っても、やけにあっさり倒せる事に違和感は覚えてるはずよ。今までの事を振り返れば、それぐらいの事には気づけるはず。こればかりは聞いていた話の時点で違うもの。ただ、あの女神から教えられた事の曖昧さに関しては、“そういうもの”だと割り切っている可能性もあるわ。……特に、今の優輝さんだと、ね」

「感情がないから、やな」

 感情があった優輝ならば、何か感づいていたかもしれないと、はやて達は考える。
 椿達の場合は、護衛に残っているためにソレラの話自体を聞いていないため論外だ。

「もしかしたら実は気づいている……って事もあり得るけどね。……とにかく、あたし達は確実に何かを見落としているわ」

「……同感や。これは、気を付けんとあかんなぁ。……気を付けた所でどうにかなるとは思えへんねんけど……」

「想定できるだけ迅速に対応出来るわ。無意味ではないわよ」

 今気付いたとしても、対策と言える対策がない。
 だが、心構えは出来たと考え、その話は終わる。

「……なにはともあれ、まずは合流せんとな」

「そうだね。って、言ってる傍から……」

 会話が終わった辺りで、戦闘が終わったメンバーが合流してくる。
 今度はユーリ達エルトリア組だ。別方向からはとこよ達幽世組も来ていた。
 それぞれ、連携を取りつつ倒してきたようだった。

「あ、フェイトとママ!アルフとリニスも!」

「なのはちゃん!」

「奏も一緒だったのね」

 他を助けて回ってたためか、まとめて合流していく。
 まだ全員ではないが、ここに来た半数以上は合流した。

「はぁ……やっと勝てた……」

「きっついな……」

 司や帝、神夜も合流する。
 神夜は矢面に立たなくなったとはいえ、かなりの実力者だ。
 そのため、後衛にも向いている司達を力を合わせると相当な力を発揮する。
 その連携で倒してきたのだろう。

「後は……」

「待って、何か……来る……!」

 後誰が来ていないか確かめようとした時、アリシア達に何かが近づいてきた。
 それを察知した時には、既に接近を許していた。

「………」

「ッ、さっきの……!?」

 現れたのは、先程戦線で無双していたディータ。
 戦線での戦闘にひと段落ついたのか、こちらにやって来ていた。

「……本当に人間じゃないか。どうしてここに?」

「……私達が応対するよ。下がってて」

 話しかけてきたディータに対し、とこよと紫陽が前に出る。
 会話において、年長者である二人が相手する事にしたのだ。

「おっと、別に敵対するつもりはないよ。……ただ、どうして人間が神界に来たの?今は神界は大変な事になっているんだ。踏み入れるべきではないよ」

「あたし達は神界での戦いの影響で他世界がまずいと聞いて、自分たちの世界を守るために来た。……という回答でいいかい?」

「……誰に聞いたの?」

 少しディータの目つきが鋭くなる。
 どういうことなのかと、とこよと紫陽も見極めようとしながらも会話を続ける。

「ソレラって神だけど……」

「……知らないなぁ。縁遠い神かな。まぁ、そこはいいや。それだけの理由で来たの?突然連れてこられた訳でもなく、自分達から?」

「そうだけど……」

 まるで、“なぜここにいる?”と責められているような気がして。
 とこよはどこか戸惑いを見せつつ答える。

「その言い分だと、あたし達がここにいる事はおかしいみたいだね」

「おかしいも何も、この世界に来させる意味がないよ」

 断言されたその言葉に、紫陽は眉を顰める。
 “必要がない”ならわかる。戦力差は歴然なのだから。
 だが、“意味がない”となれば、引っかかるものがあった。

「その神から話を聞いて、ここにやって来たみたいだけど……来た所で何が出来るの?神界の神々でも手に負えないような相手を、そんな少人数で」

「……私達は、少しでも邪神イリスに抗おうと……」

「……少し、経緯を聞くべきだね」

 そう言って、ディータはとこよ達に経緯を聞く。
 簡潔にだが、なぜ自分達が神界に来たのかを説明する。



「……なるほど、ね」

 説明が終わり、ディータは聞いた話を頭の中で整理する。

「やっぱりおかしいよ。神界が支配される前に敢えて攻める。……これは分かるよ。でも、どうして追い詰められる事が“前提”?」

「あ………」

 そう呟いたのは誰だったか。考えれば、気づける事だった。
 追い詰められる前に攻める。
 それは裏を返せば、支配される事を確信しているようなものだ。
 全員がそれを前提として動いていたため気づけていなかった。

「神界の神ともあろう存在が、“負ける事”を前提にしている。それがおかしいんだよ。まるで、それを望んているかのような……」

「まさか……!」

 アリサが慄くように声を上げる。
 最悪の予感が的中した。そう言わんばかりに、冷や汗を流した。

「さて、ここで質問だ。……君たちは、どうやって洗脳された神とそうでない神を見分けているんだい?いや、そもそも見分けられるのかい?」

「それ、は……」

 答えられる訳がなかった。
 その判断は今までソレラに任せていたからだ。
 ……そして、そのソレラが正気なのかどうかは、判断のしようがない。

「……今まで戦った神は、どこか正気を欠いたような雰囲気を持っていました」

「それは判断材料のごく一部にしかならないよ。……うん、見分けられないんだね?この場にいる誰もが、洗脳されているかどうか」

「………」

 全員が沈黙する。ディータの言う通りだった。
 サーラ自身、今の発言は苦し紛れだと自覚していた。

「洗脳されても、誰かを騙すぐらいの演技はするだろうね。……神相手に騙し通す事は難しくても、君達のような人間相手なら造作もないだろう」

「……事前情報が少ないから、演技を見破るための要素がないって訳かい」

「そういう事だよ」

 ソレラとは会って間もない。
 会った時から騙していたとすれば、見破れる手段は限られてしまう。
 最初から洗脳されていると、かつての優輝の特典でもない限り、それを知るのは困難だ。

「……でも、それはあんたにも言える事じゃないかい?」

 そして、それはディータにも言える事だった。

「よかった。そう言ってくれるぐらいには、頭が切れる人だね。……うん、まさしくその通りだよ。それは僕にも言える事。……君達は、神界に来た割には気を抜きすぎている」

 そんなつもりはなかった。と言うのが皆の総意だろう。
 だが、この事に気付けていなかったと言う事は、それだけ気を抜いていたと言う事だ。

「っ……あたしとした事が……。けど、だとしたらなんであたし達はここへ……?」

「君達……というより、君達の誰かが目的だったんじゃないかな?例えば……」

 とこよ達を見回しながら、目的になりそうな人物を探るディータ。





「……僕とか、かな」

「優輝君!」

「途中からだけど、話は聞かせてもらったよ」

 そこへ、優輝が合流してきた。
 他にも、まだ合流していなかったメンバーも一緒にいた。

「……へぇ。自分だという自信があるんだ」

「パンドラの箱……いや、ここではエラトマの箱だったな。それを解析する時、僕を名指ししていた。僕には心当たりがなかったが、それが神界産となれば……」

「自分を目的にしているかもしれない、と。まぁ、そうかもしれないね」

 ディータ自身、目的が何なのかは知らない。
 だが、当人達に心当たりがあるのならば、可能性も高いだろう。

「……最早神界の何も信じられなくなるな。……これだから洗脳は厄介だ」

「僕も怪しいと?疑うのは尤もだね。だけど、気づくのが遅いよ―――ッ!!」

 刹那、ディータが顔を強張らせる。
 同時に優輝達も何事かと身構え……

「な――――」

「ッ……!?」

 遠くから飛んできた閃光に、帝が吹き飛ばされた。
 帝は声を上げる間もなく、神界の彼方へと消えていった。

「くっ、先に手を打たれた……!」

「何が……!?」

「君達が騙されていた事に気づいた……それが向こうにもばれたんだ!」

 ディータの言葉に、全員が閃光が飛んできた方向を警戒する。
 帝を助けに行く暇はない。罠に嵌められた今、そんな余裕はなかった。

「君達と同行していたソレラという神の力は聞いているかい?」

「“守られる性質”らしいが……本当かどうかは知らない」

「嘘を誤魔化すには真実も混ぜる事が定石……少なくとも、似た力を持つだろうね」

 何が本当で何が嘘か。
 前提を覆された今、優輝達が信頼できるのは己の力だけだ。
 その不安が顔に出ているのか、何人かは冷や汗を流す。

「(数が多い……!)」

「(僕ら以上に引き離された訳は、これか……!)」

 姿を現しただけでも、先程以上。
 伏兵も考えれば、ディータの戦線にいる神並の数がいると推測出来た。

「……僕らが受け持つ。君達は逃げろ」

「っ、分かった」

 ディータの発言に、優輝は即座に了承する。
 司やなのは、フェイトなど一部の者はディータを置いていく事を渋ったが、先程のあの強さを見ていたため、遅れて了承した。

「行け!」

「撤退だ!走れ!!」

「お兄ちゃん、帝はどうするの!?」

 撤退し始めた所で、緋雪が優輝に尋ねる。

「撤退途中に見つければ御の字。そうでなければ……」

「僕らが捜す!君達はまず自分たちの身を考えろ!」

 優輝の発言を遮るように、ディータがそれも任せるように言った。

「陣形展開!抑え込め!」

 ディータの号令に戦線にいた神々が召集される。
 追撃として放たれた閃光を、次々と防ぐ。

「優輝、少しばかり状況が掴めないんだけど……!」

「簡潔に言えば、僕らは騙されていた。態勢を立て直すためにも撤退だ」

「それは……何とも絶望的だな……!」

 優輝と共にみんなと合流したため、状況が掴めないユーノとクロノ。
 簡潔な説明を受け、状況の移り変わりにクロノは歯噛みする。

「しかし、どうやって撤退する!?」

「………」

 今まで案内していたソレラが自分達を騙していた。
 神界での移動方法を優輝達は未だ理解していない。
 そのため、どうやって逃げるのかが誰にもわからなかった。

「とにかく走りな!立ち止まっていたらいい的だ!」

 紫陽の一喝に、全員が慌てたように駆ける。
 既に背後ではディータ率いる神々が戦闘を始めていた。

「ッッ……!」

 戦闘の余波にあおられ、優輝達は吹き飛ぶように加速する。
 我武者羅のように逃げ続け、いつの間にかディータ達が見えなくなった。

「(気配の類は突然消えた。“離れようとする意志”がそうしたのか?)」

 撤退中、優輝は気配の動きを見ていた。
 ディータ達の気配は遠ざかるのではなく、突然遠くへ離れていた。
 その事から、神界での移動の法則を曖昧ながらも推測した。

「に、逃げ切れたの……?」

「見えへんなったな……これなら……」

 とりあえず戦闘地帯から抜けたと、何人かが安堵する。







「―――逃がしませんよ」

 しかし、その安堵を消し飛ばすように、声が響いた。

「っ……!」

「神界において神界の神から人間が逃げられると思いですか?」

 逃げる優輝達の前に、ソレラが現れた。
 少し前までの、小動物系の雰囲気は鳴りを潜めている。
 今は、冷たい眼差しで優輝達を見ていた。

「ッ!!」

「………」

「チッ……!」

 刹那、優輝が攻撃を仕掛ける。
 しかし、その攻撃は割り込んできた別の神に防がれる。

「……!」

 後退し、優輝は何人かに目配せし、念話で指示を出す。

「『足止めの攻撃をしつつ撤退!一人一人を相手にしていたらすぐに捕まるぞ!』」

 優輝が創造魔法による剣群を、緋雪が破壊の瞳で目晦ましと攻撃を。
 ユーリとサーラは魔法、とこよと紫陽が霊術で一気に攻撃を放つ。

「―――は?」

 そんな間抜けな声を出したのは誰だろうか。
 しかし、無理もなかった。

「“守られる性質”。本領発揮です。……無駄ですよ」

 その牽制は、ソレラを守るように割り込んだ神一人によってあっさりと防がれた。
 “守られる性質”。それは、味方がいる時に最も効果を発揮する。
 その“性質”によって防御効果を上げた神の障壁で、防がれたのだ。

「それと、言ったはずです。“逃がしません”と」

 防がれたのは正直優輝達にとってはどうでも良かった。
 今のは飽くまで牽制。ほんの僅かにでも時間が稼げれば良かった。
 そのため、既に全員が撤退の行動を起こしていた。
 ……が、それを妨げるように結界が張られた。

「せっかくですから聞いて行ってくださいよ。……なぜ、態々神界に招き入れるような真似をしたのか。何が目的なのかを」

「っ……!」

「囲まれている……」

「隠密性の高い能力でも使ったのか……?」

 結界だけでなく、神々によって完全に包囲されていた。
 これでは、生半可な事では逃げられない。

「志導優輝さん」

「………」

「端的に言えば、目的は貴方ですよ」

 分かっていた。予想はしていた。
 だが、実際にそう告げられた事に、司や奏達は驚いていた。

「そう。全ては貴方が原因。今の貴方は覚えていないでしょうけど、イリス様は貴方を欲しています。……正しくは、貴方の()()()()()()()()()その様を見たいがためです」

「可能性が……閉ざされる……?」

 いまいちピンと来ない言い方に、緋雪が首を傾げる。
 その呟きにソレラは呆れたように溜息を吐く。

「これだから他世界の人間は。まぁいいです。これは神界の神でなければ……いえ、イリス様以外理解できなくてもいい事です」

「っ………」

 嘲るような物言いに、緋雪を始め何人かがつい言い返しそうになる。
 しかし、それが挑発ですらないただの言葉だったため、何とか思いとどまった。

「……ぶっちゃけてしまえば、他の方々はおまけでしかないんですよ。……ただ、貴方の可能性の灯火はなかなか消し去れない。故に利用する事にしたのです」

「なぜ皆も、と問われる前に答えたか。問いの手間が省けたが……なぜ僕だ?何か特別な何かが僕にあるというのか?」

「……本気で言っているのですか?」

 冷たい視線が優輝に突き刺さる。
 その間にもとこよや紫陽が状況を打開できないか周囲を探る。
 ……が、結界と神々に包囲されている現状、何も策はなかった。

「本当は気づいているでしょう?わかっているでしょう?自分が普通の人間ではない、と言う事ぐらいは」

「………」

「……まぁ、この際そこはどうでもいいです。貴方さえ絶望させられれば」

 その言葉を皮切りに、神々が己の武器を構える。
 それに応じるように、優輝以外の全員も周囲に対して身構える。

「……僕をただ追い詰めるだけじゃなく、懐に招き入れ逃げられなくし、さらに僕以外の皆を利用するか。……人質として」

「ふふ……人質?馬鹿な事を……駒でしかありませんよ」

 個々の実力差だけでなく、現状そのものが明らかな劣勢。
 既に罠に嵌められ、追い詰められたと見ても過言ではないだろう。

「他の方も気の毒ですねぇ。こんな事に巻き込まれるなんて」

「………やめて」

 続けられる言葉は、優輝の心に突き刺さる。
 否、それだけじゃない。優輝以外の者にも、それは突き刺さっていた。

「貴方がいたから、貴方と親しくしたから―――」

「………やめろ」

 心のどこかでは考えた事があったから。
 実際に少しでもそう考えた事があったから、心に突き刺さる。
 故に、否定しようと、拒絶しようと、声を上げようとする。聞かないようにする。
 ……特に、両親である優香と光輝は、優輝が大事(ゆえ)に、否定しようとしていた。

「―――全部、貴方のせいで、皆さんは巻き込まれたのです」

「やめてぇえええっ!!」

 だが、ソレラの言葉はそのまま告げられた。
 否定しようと張り上げられた緋雪の叫びが、空しく響く。
 信じたくなかった、認めたくなかった事だった。

















   ―――最悪の真実を、告げられた。



















 
 

 
後書き
“重力の性質”…文字通りの性質。シンプル故に応用も利く。


なのはと奏以外の皆の戦闘はカット。書いているとそれだけで十話以上無駄に消費するので、それを避けるために省いています。
正直、情報としては“苦戦したけど特訓と連携のおかげで勝てた”ってだけなので。 
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