八条学園騒動記
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第五百十六話 本をなおしてその一
本をなおして
洪童とナンシーはチャイムが鳴るとすぐにだった、本を本棚に戻して図書館を出た。そうしてだった。
自分達のクラスに向かいつつだ、洪童は一緒にいるナンシーにこんなことを言った。
「珍しくな」
「珍しくって?」
「いや、俺にしてはな」
こう言うのだった。
「神妙な話になったわ」
「知的な」
「俺はそんなこと言う人間に見えないな」
「最近まではね」
「最近まではか」
「ええ、けれどね」
それがとだ、ナンシーは洪童に答えた。
「それが変わったわよ」
「そうなったか」
「ええ、随分とね」
「そうなっているか」
「本当に昔のあんたは」
洪童の顔を見て言うのだった。
「シェークスピア読んでその話するとか」
「なかったか」
「もうもてないばかりで」
それしかなくてというのだ。
「こうした話はね」
「しなかったな」
「それでイメージ的にもね」
「なかったか」
「もう全然別の人だったわ」
「そうだったな」
「それがね」
あらためてだ、洪童本人に言うのだった。
「変わって彼女さん出来て」
「それでか」
「今はね」
「変わったか」
「そんなお話する位にね」
「そうなったか」
「ええ、後ね」
さらにとだ、ナンシーは話した。
「あんたのそのよ」
「いい面がか」
「知的で深く考えている」
そうしたというのだ。
「一面がね」
「出ているか」
「あんまりにももてたいばかりだと」
それならというのだ。
「かえってもてないわよ」
「そういうことか」
「そう、それでいい面が出て」
「今の俺はか」
「いい感じよ、ならこのままね」
「いくべきか」
「そうよ、しかしね」
それでもとだ、ナンシーはここでこうも言った。
「あんたがさっき話してくれた馬鹿な人って」
「何だ」
「あんたの親戚?」
ナンシーはここでは怪訝な顔になって洪童に問うた。
「ひょっとして」
「それはな」
「それはっていうと」
「想像に任せる」
暫く考えてからだ、こうナンシーに返した。
「そこはな」
「それが返事なのね」
「そうだ、それで納得してくれ」
「じゃあね、あんたも色々あるのね」
「まあな、人間生きているとな」
「色々あるってことね」
「お前の場合は違うな」
洪童はナンシーにも問うた。
「お前が話した馬鹿はな」
「ひいひいお祖父ちゃんが昔会った人でね」
「親戚じゃないな」
「ひいひいお祖父ちゃんが若い時にね」
「かなり前だな」
「八十年位前だと思うわ」
このことはナンシーの予想で根拠のあるものではない。
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