Unoffici@l Glory
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1st season
2nd night
前書き
バトルのみ回。
グレーラビットが神田橋付近を内回りで流していると、とある二台から同時にパッシングを受けた。
「……インプレッサ22Bに、ランエボⅤ……」
彼はそれにハザードで答えると、二台が接近してくる。ちょうど曲がっているコーナーを立ち上がると、三台のエキゾーストが大きく変わった。バトル開始の合図だ。
「従うしかねぇ走りの掟……売られたBattleから、逃げることはできねぇんだ」
3速で巡航速度を保っていたギアを2速に落とし、全開走行に入る。彼のその目にはもはや、目の前の道路しか映ってはいない。
「うっそだろ……なんだよこいつ!」
「相当やばい奴に当たっちまった……どうしよう」
彼らは、最近首都高を走り始めた「Fine Racing」の新米メンバーだ。チームに入る前に先輩の勧めで購入した、ハイパワーターボプラス4WDの車。型式が古く、ライトチューン仕様とはいえ、きっちりとメンテナンスをしたやる気十分の戦闘機。しかし、そんな2台を悠々と置き去りにするグレーのZ32に、二人は驚いていた。
「だけどやるしかねぇ……吹っ掛けたバトルで、こんな無様な終わり方してたまるか!」
ほかのエリアに比べれば、比較的パワーの差が出にくいといわれるここC1だが、それでもマシンの性能差はいかんともし難いものがあったのかもしれない。インプレッサのドライバーは、必死に食いつこうとアクセルを開けていく。
「オイオイオイ、死ぬぞアイツ……しゃぁねぇ、付き合うしかねぇやな」
エボのドライバーも負けじと踏み込んでいく。二台とも普段より数段高いスピードでのコーナリング、不慣れなGが、不慣れな速度感覚が二人を襲う。しかし、それでも追いつけない。走りこんだ年期は明らかに違う。
「必ず……必ず捉えて見せる!」
しかしそれでも、負けからでも何かをつかもうと、必死にステアリングと格闘する彼らであった。
そんな彼らを尻目に、グレーラビットは呆れ半分といった表情。
「……冗談じゃねぇ……自分から吹っ掛けてきやがったくせに、あっけなさすぎる……」
まだバックミラーに映ってこそいるが、ただいるだけ。迫りくるような圧迫感を感じない。むしろ子供のよちよち歩きを見ているかの如く、彼の表情は心なしか微笑んでいるかのようにも見える。
「まぁ、そんな奴もいるか……っ!?なんだ、これは……!?」
呆れてアクセルを戻そうとしたその時、彼の背筋に電流が走る。何かが来る、そう確信できるほどの衝撃。すぐさま臨戦態勢を取り、離そうとした右足に力を入れる。
「あんな奴追い抜いたか……?いや、見たことがない……どこかから追いかけてきたってのか……?」
「ふぅん……ちょうどええわ、食わしてもらうで、そのZ!」
そういってZ32に襲い掛かったのは、深緑のロータスエスプリV8。既に先ほどのインプレッサとエボのことなど、グレーラビットの眼中からはなくなった。霞が関に差し掛かり、そのままのスピードでバトルに突入。
「東京初バトル……食い応えありそうやんけ、ええ?」
トンネルを抜けて、赤坂ストレートのトップスピード勝負。ここは流石にエスプリの方が分があった模様で、じりじりと前に出る。
「しっかし、噂には聞いとったけど、ホンマにムズイわここ。適当なとこで降りんと、流石に集中もたへんでな」
だがしかし、ここのストレートは長く続くものではない。谷町ジャンクションに差し掛かり、一の橋ジャンクションに向かう左から右への緩やかなS字コーナー。急なものではないが、それでもブレーキング競争になる。
「こいつ……やるじゃねぇか……上等!」
左コーナーアウトからのレイトブレーキングで詰めていくグレーラビット。それを察知したエスプリだが、ラインはもう変えられない。外からスライドさせながらエスプリの鼻を抑えて立ち上がり、切り返しの右で振り返してコーナーをクリア。そのまま間髪入れず芝公園エリアへと突入する。
「……奴がついてこない……?」
コーナーを立ち上がった段階で、エスプリがスローダウンした。しかし、それを待つことはせず、そのままバックミラーから姿を消した。
エスプリのドライバーは、大きくため息を着くと、ペースを落として出口へと向かう。
「ふぅっ……面白そうな奴らもおるもんやで。アイツ、今何してんやろな」
そのまま出口を過ぎ、ある程度走った先のコンビニの駐車場に車を止め、エンジンを切った。
「あくまで今日は慣熟走行、あんまり無茶させたらアカンって言い聞かせてたのになぁ……スクランブル使てもうたわ」
車内にあったペットボトルの水を残らず体に放り込むと、それをもって車を降りる。中から出てきたのは、くすんだ黄色のライダースジャケットを羽織り、グレーのデニムに白いスニーカーを合わせ、背中までなびく黒髪をポニーテールにしている青年。
「ま、次に会うた時は、もちっとちゃんとメンテしてこなな。向こう帰るまでにあのZの兄ちゃん、また会えるとええな」
そうぼやくと彼は、店内へと入っていった。
グレーラビットと別れた疾風の黄色いRX-8は、C1には入らずC2右回りに入り、深川線を下っていた。これまでに何度か「Fine Racing」のメンバーや無所属の走り屋と戦って、その全てを撃墜している。
「さっきのインプとエボで弾切れか?つまんねェなァ……もちっと骨のあるヤツでてこいって」
薄ら笑いすら浮かべながらステアリングを握る彼の背筋に電流が走る。
「おっ……くくくっ、この感じ、ちっとはできる奴かな?」
ゆっくりとその気配を待ち、相手に車体を合わせるべくギアを落として待つ。
そこに現れたのは、銀色のアコードCL7。「Fine Racing」のリーダー「流離いの天使」が単騎で疾風に襲い掛かる。
「本来こういうのはガラじゃないんだけどな……一応看板揚げてるし、下がやられたら出てこないわけにはいかないだろって」
速度を合わせ、緩い右を抜けると、お互いにアクセルを踏みつける。特徴的なVTECサウンドとロータリーサウンドが響きあった。まずはアコードが後ろにつく。
「さぁ、どれほどのモンか、見せてもらおうか!」
「へぇ、やるじゃん。ほかの奴らよりは歯応えがありそうだナ」
疾風の中で消えかけていた闘争心に火が付いた。しかしお互いにトップスピードに難がある以上、ここから続く高速ステージでは二台とも車が辛そうに見受けられる。
「命を載せて走る以上、一番好きな車で行くのが当然……あのオッサン、いつもそう言ってたヨ」
高らかに雄叫びを上げる二台に、湾岸線へ入る直角の右が襲う。天使が内に入り、疾風が外に寄せての突っ込み勝負。わずかに天使が前に出るが、完全には抜ききれない。
「このコーナーを抜けたら、小細工なしのパワー勝負……っ、まずい!」
コーナーを立ち上がり、湾岸線合流。二台が更なる雄叫びをあげ、地面を蹴飛ばす。すると、何か不調でも発生したのか、RXー8がスローダウン。
「そうか、ここまで連続でバトルしてたから……仕方ねェ、今夜はここまでだ」
そのままRX-8、失速。巡航速度に戻った後、高速を下りる。
「あのアコード、今度会ったら撃墜とす……!」
スローダウンした疾風を尻目に走り去る天使。するとその後ろから猛追してくるマシンが一台。
「っ、何だ……この感じ……!?よくわからんが、すげぇのが来るっ……!」
臨戦態勢に入った天使だが、それをあざ笑うかのように抜き去っていく一台のマシン。
「なんで、こんなところでそんな奴転がしてんだよ……」
一瞬だけ目に映ったそのマシンは、ワインレッドのジャガーXK8だった。まるで目の前には何も写っておらず、彼でさえアザーカーだと言わんばかりに圧倒的なスピードで置き去りにしていった。
後書き
バトルシーン難しいDeath
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