武悪
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第二章
「わしはそれも嫌じゃ」
「だからか」
「お主はわしに斬られて崖に逃げてな」
「そこから落ちたか」
「そういうことにしてじゃ」
そのうえでというのだ。
「何処かに逃げよ」
「ではな」
武悪も頷いた、こうしてだった。
武悪は逃げて太郎冠者は主に報した。
「それがしが斬って逃げようとして」
「そしてか」
「はい、崖から落ちて川に流されました」
「骸は確認したか」
「いえ、深い崖から落ちまして川の流れが急で」
「間違いなく死んだか」
「刀傷も深く血は多く流れていました」
このこともあってというのだ。
「ですから」
「それでか」
「はい、間違いなくで」
武悪、彼はというのだ。
「死んだかと」
「そうか、ではな」
「はい、その様に」
太郎冠者は主の前に跪いて頭を垂れて述べていたがその顔は笑っていた。これでことなきだと思われたが。
武悪は遠くに逃げたがその遠方の地で暮らしているとその地に何と主が太郎冠者を連れて来た、武悪は狩りをして暮らしていたがそれで山に入るとだった。
主そして太郎冠者とばったりと出会った、それで主は仰天して叫んだ。
「何と、武悪ではないか」
「これは主殿」
武悪も思わず言ってしまった。
「何故ここに」
「公方様に言われてここに来たのじゃ」
主は自ら行った。
「ここにははじめて来たわ」
「何ということか」
「お主太郎冠者に討たれたのではなかったのか」
この言葉を聞いてだった、太郎冠者はすぐにだった。
機転を利かした、それで主に言った。
「左様、それがしが斬って崖から落ちてです」
「川の流れが急でじゃな」
「間違いなく死にました」
「では何故今わしの目の前におる」
「これは幽霊です」
その機転をだ、太郎冠者は述べた。
「それがしが討ったのですが死んでも死にきれず」
「幽霊としてか」
「ここにおるのです」
太郎冠者は主に言いながら武悪に顔を向けた、そうして目配せをした。
すると武悪も太郎冠者が何を言いたいのかを察してだ、主に高らかに言った。
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