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蘇った女

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第一章

                 蘇った女
 讃岐国山田郡の話である。
 ここに布敷という家があった、この家に一人の娘がいて家族から随分と可愛がられていたが重い病に罹ってしまった。
 娘は床から出られなくなり床の中で辛そうな息を出して汗ばかりかいていた。それを見て家の者達はこれは危ないと考えた。
 それで病のが治ることを願ってまじないとして家の門の左右に様々な馳走を置いた。
「馳走を疫病神に振る舞ってな」
「それで娘の病を治してもらわないと」
「大切な娘だ」
「是非助かってもらわないと」
 家族の者達は心からこう願いそれでだった。
 家の門の左右に色々な馳走を置きまた神仏にも日々願い続けた。そして布施もしきりに行った。だが。
 閻魔は娘を冥界で観て言った。
「あの娘はもう助からないな」
「それならですね」
「あの娘のところにですね」
「そうだ、迎えの者を送れ」
 自分に仕えている鬼達にこう告げた。
「そうしてだ」
「冥界に来てもらう」
「そうしてもらいますか」
「悪い娘でないから地獄にも餓鬼道にも堕ちぬ」
 悪い世界と言われているそうした世界にはというのだ。
「そのことはあの娘にとって幸いだ」
「そうですね、ではです」
「迎えの者も快いですね」
「悪い者を迎えるよりいい者を迎える方が気分がいいですし」
「それならば」
「すぐに送ろう」
 迎えの鬼、役鬼をというのだ。こうしてだった。
 一人の役鬼が閻魔から直々に言われ迎えに向かった、役鬼は冥界から全速で駆けて人界の讃岐まで来てだった。
 山田の布敷の家の門まで一気に来た、そして娘を迎えようとしたが門の前まで来てだ。
 そこで門の左右にある馳走を見た、役鬼は冥界まで全速で駆けてきたので随分と腹が減っていた。それでふらふらとだった。
 馳走に近付いてそのうえで馳走を全てぺろりと平らげてしまった、そのうえで娘の枕元まで来て娘の魂に声をかけた。
「迎えに来たぞ」
「お迎えにですか」
「これでわかるな」
「はい、私はこれでですね」
「そうだ、死ぬのだ」
 このことをだ、役鬼は娘に告げた。二人共魂だけになっているのでそれで娘を心配そうに見ている彼女の家族に姿は見えていないしやり取りも聞こえていない。
 だからだ、役鬼は娘に平然と言うのだった。
「それでだ」
「これからですね」
「冥界に行こう、そなたは特に悪いことをしていないからな」 
 役鬼は閻魔が言ったことを娘にそのまま話した。
「だからな」
「悪い世界には堕ちませんか」
「地獄道にも餓鬼道にもな」
「左様ですか」
「それ故死んでも安心せよ」
 悪い世界には行かないからだというのだ。
「よいな」
「はい、それでは」
 娘は死ぬのは恐ろしかったし家族に先立つことは痛ましかった、だがそれでも悪い世界に生まれ変わらないことにほっとしてだった。 
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