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女神と星座の導きによりて

作者:草ナギ
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星16 記憶


 私は……何をしていたのでしょう?
 少し硬めのベッドに寝かされていました。
 起き上がってみると違和感がありますね。なんか、着ている物がひらひら、スースーします。いつもならもっと身体にぴったりした男服の様な物を着て……ん?なんでそんな物着ていた事がわかるんでしょう?
 あれ、これってギリシアの昔の服じゃなかったでしたっけ?えーっと……ああ、ドーレス式キトーンですね。
 女官が着ている物に似ています。
 
 「?」

 女官……?なんの事でしょう……?
 ああ、でも何か忘れている様な……なんなんでしょうか?
 なんだか頭が軽いというか、顔が涼しく感じます。何故……?
 あ、ああ、私は、私は……。

 「私は、誰?」

 そうです。私は誰?
 なんだか、私は此処に居てはいけない気がします。
 此処には大事にしないといけないモノ?がない。そう思い、ベッドから起き上がります。ベッドの置いてある部屋から出てしばらく歩いていると外に出ました。
 下に続く階段。沢山の神殿が並んでいます。
 手前には沢山の赤い薔薇が引き詰めてある坂がありました。綺麗です。
 棘に気を付けながら降りました。
 でも、何故でしょう?薔薇の方が私を避けてる?いいえ、退いてくれている様な……?不思議な事があるモノです。
 しばらくすると一番手前にあった神殿に着きました。
 ……私は何故か懐かしく感じて中へ入って行きます。
 きょろきょろと中を見渡して神殿を抜けました。
 まだまだ下に神殿は続いています。
 ぼぅっと見つめていると

 「誰だ」

 後ろから声がしました。思わずビックリして振り返ると、

 「新しい女官か?」

 黄金の鎧を纏った、とても美しい少年が居ました。思わず少女かと思いましたが、身長も私より高いですし、声からして少年の声です。間違えたら失礼ですね。

 「答えないのか?」

 「あ……」

 何か言おうと声を出そうとすると、いきなり少年の纏っていた黄金の鎧が少年から離れます。

 「な、何!?」

 すると鎧は魚の形になり、点滅しながら輝き、私の周りを回って、まるで”嬉しい”と言っている様な……。
思わず微笑んで黄金の魚を撫でると鎧は私を纏い出しました。
 それを唖然として見つめていた少年は
 
 「まさか……」

 信じられない者を見る目で私を見つめてきます。

 「ね……ねえさん?」

 ねえさん?
 私はなんの事かわからず、首を傾げて少年を見つめます。

 「貴方は……」

 わたしをしっているのですか?

 そう言うと少年は青褪め、驚いていた目をさらに見開いて、今度は固まってしまいました。
 
 ━━━━━デス!シュラ!双魚宮に、直に来てくれ!!

 耳に……いえ、頭に直接聞こえる不思議な声。目の前の少年の声ですね。それが聞こえました。超能力でしょうか?すごいです。

 ━━━━━なんだよ。今寛いでるから後でな。

 わっ、違う少年?の声がしました。これって私にも使えるんでしょうか?

 ━━━━━何やら慌てている様だが、何があった?

 もう一人いるんですね。複数で出来るなんてすごい!

 ━━━━━目を覚ました……姉さんが目を覚まして、目の前に居るんだ!!

 そう目の前の少年が頭に響く声で叫ぶと、話相手だった少年達の気配?がいきなりプツンと消えました。

 「ああ……、姉さん。貴女は、貴女の名前はわかりますか?」

 名前……、また首を傾げて憶えがないので横に振りました。

 「貴女の名は、まな。魚座の真名というんですよ」

 少年は一筋、涙を流して私の名前を言ってくれました。

 「ぴすけすのまな……私は真名というんですね」

 真名……真名……と、何度か自分の名前らしい名を呟いて忘れない様にします。

 「ええ。……そして、私はアフロディーテ。貴方の弟弟子にあたる者です」

 「そうなのですね。では、貴方の事は……ディーテと、呼んでも良いですか?」

 そう言うと少年、アフロディーテは更に涙を流しながら嬉しそうに笑いました。

 「ふふっ、記憶を失っても、やはり、貴女は姉さんなんですね」

 変わらないですね。そう言って。
 そうして少し話をしているとバタバタと大きな足音が下の階段から聞こえてきました。
 黒い髪を逆立てた短髪の少年と、オールバックにした銀髪の少年が目を見開いてこちらを見ています。

 「「ま、真名……」」

 「……はい、なんですか?」

 戸惑っている二人に微笑みながら覚えたての名前を呼ばれて返事をしました。
 すると銀髪の少年が

 「……お前、本当に真名か?仮面も付けてねぇとは、怪しいモンだぜ」

 ジロジロと見つめてくる少年がケッ!っと言ってそっぽを向きます。

 「デス!彼女の姿を見ろ。魚座の黄金聖衣を纏っているんだぞ」

 黒い短髪の少年がデス?少年を軽く睨んで私を庇う言葉を言ってくれます。

 「そりゃぁ、見りゃわかるが、あの仮面の下がこんな美人な訳ねーよ。黄金聖衣だって、良く似た偽物とかじゃねーの?」
 
 「それはない。私が纏っていた本物の魚座の黄金聖衣だ」

 中々信じようとしないデス少年を見ていたら口が勝手に動きました。

 「カニさん、いい加減にしないと双魚宮裏ですよ」

 「なんでだよ!……って、何!?」

 私も自分の発言に驚いて口を押えます。すると、三人の少年達は私を見つめて唖然としたかと思ったら、涙目になって大笑いしだしました。

 「は、はははは!本物だ!こんな事いうヤツ、他に居ねーよ!ははははは!!」

 「ま、まったくだ!真名しか居ないな!くっくっく!」

 「ふ、二人共、わ、笑うのは失礼……ぷっふふっ!」

 なんだか恥ずかしくなって柱の陰に隠れます。

 「おお?真名、なんだよ。一年寝てる間に女々しくなってんじゃねーか」

 「……いちねん?」

 いちねん、私は一年眠っていたのでしょうか?
 ……なんなんでしょう?何やら胸に穴が開いた様にとても寂しい気もします。
 忘れている一年前に何かあったんでしょうか?
 私が何か思い出そうとしている間にディーテが二人に説明していました。

 「は?記憶がない?」

 「では、先程の発言は……」

 「無意識……だろうね」

 デス少年はおでこに手を当てて「くっくっく」とまた笑い出しました。はて?

 「無意識であの言葉を言うとは。流石真名だな」

 「ふふっ、確かに」

 何やら少年達に笑われてしまいました。恥ずかしい。

 「そういえば、教皇は起きた事を知っているのかい?」

 「きょうこう?」

 「あー、こりゃ知らなそうだな」

 きょうこう?という方に私が起きた事を知らせないといけないみたいです。
 三人は私を連れて上の神殿に連れて行ってくれました。
 薔薇はディーテがなんとかしてくれましたよ。
 黄金の鎧もディーテが着てます。
 元々は私の鎧だったらしいのですが、今はディーテの鎧らしいです。似合ってますよっと言うと照れたように頬を赤くしてました。
 そして鎧を脱いでキトーンの姿になるとデスくん?デス君、うん。デス君とシュラ?がまた驚いた顔をしてちょっと顔を赤らめて

 「ま、前にも言ったが、馬子にも衣装ってな」

 「キトーン、似合っている」

 とりあえずは、ありがとうと言っておきましたよ。
 少し会話しながら教皇宮の謁見の間に着きました。丁度今なら居るハズとの事です。
 警備の兵士さんにシュラが話しかけます。

 「教皇にお目通りしたい。扉を開けてもらうぞ」
 
 「ハッ」

 直に返事をした兵士さんが扉を開けて、私達は謁見の間に入ります。
 すると奥で椅子に座っている人と目が合いました。彼が教皇?

 「真名!?起きたのか!!」

 そう言って教皇は小走りで私に近付き、仮面を外したかと思うと私の頬を両手で添えて顔を上に向けさせて、なんとキスしてきました。
 驚いて目を見開いてしまいます。何故か嫌ではなくて、そのまま好きにさせていました。
 何度も啄むかの様なキスです。長くそんなキスをしているので余裕が出来、なんとなく連れてきてくれた三人に目を向けると、三人共そっぽを向いて見なかった事にしてました。
 ありがとう、三人共。
 そう心でお礼を言いました。
 そして、キスが終わり、顔が離れました。身体の方は抱きしめられてます。教皇は満足したのでしょうけど……って、うわっ、すっごい美形です。ディーテも美しいですが、また違う男性的美しさというか……。でも、この人、泣いています。目にゴミでも入ってしまったんでしょうか?
 
 「真名、私の事は覚えているか?恐らく、忘れているだろう?」

 「え、私に記憶が無い事を知ってるんですか?」

 なんでも、幻朧魔皇拳という本来は洗脳する技なのですが、まだ未完成の状態だったらしく、その技を喰らった直後、後頭部を強くぶつけた為にもしかしたら記憶に混乱が見られるかもしれないと予想していたそうです。
 ただ、一年も寝たきりになるとは思わなかったとの事。
 ……洗脳って、私何したんでしょうか?
 
 「小宇宙も青銅程になっているし、再会した時に仮面も付けていなかったから、アフロディーテが君を真名であると気付かなかったのだろう」
  
 「青銅程度の小宇宙で、魚座の黄金聖衣は反応していました。何故です?」

 ディーテが疑問をぶつけます。教皇がそれにゆっくり頷くと、

 「真名と初めて会った時も一般人程の小宇宙だったが、魚座の黄金聖衣は反応していたぞ。そして、真名は己を鍛えて小宇宙を高め、長年黄金聖衣を纏っていたからこそ、その名残で纏えたのではと推測する」

 なるほどーっと頷くと、

 「真名」

 名前を呼ばれ顔を上げます。

 「私はサガ。サガと呼んでくれ」

 「サガ?」

 「ああ、しかし普段、この三人の前以外では教皇と呼んでほしい」

 名前が沢山あるのですね。ふむふむ。
 
 「わかりました」

 私は何故か悲しそうなこの人に笑ってほしいと思い、そっと穏やかな心持ちで微笑みを返します。するとサガは目を見開き、私を抱き締め直し、また泣いてしまいました。なんだか身体の大きい幼子の泣き虫さんを相手してるみたいです。
 泣き止んでほしくて私からも背中に腕を回してポンポン軽く叩きます。
 余計に泣いてます。仕方ない人ですねぇ……。
 
 

 
後書き
洗脳ではなく記憶喪失でした。 
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