戦国異伝供書
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第四十二話 信濃の南その五
「ここはな」
「すぐにですな」
「姫様の縁組の話を進めて」
「そしてですな」
「そのうえで」
「あの地にも多くの者をやってな」
そしてと言うのだった。
「美濃を見ていこう」
「それがよいかと」
幸隆もこう述べた。
「木曽を抑えてあちらから美濃を見ずしてです」
「上洛は出来ぬな」
「はい、甲斐からは」
「そうであるな、ではな」
「そのお話すぐにですな」
「進めようぞ」
こう言ってだった、晴信は木曽の政もはじめた。彼はすぐに信濃の南の政を本格的にはじめたがそれだけではなかった。
信繁を呼んでだった、こうした話もした。
「甲斐、そして信濃のな」
「領地のですな」
「決まりを定めたいのじゃが」
「それはよいお考えです」
すぐにだ、信繁は兄に答えた。
「決まり、つまり法なくして」
「国は治められぬな」
「本来ならば御成敗式目がありますが」
「あれは幕府が確かでないとな」
「意味がありませぬ」
「法はただ文があるだけでは駄目じゃ」
晴信は確かな声で言い切った。
「そこにじゃ」
「力がなければ」
「意味がない」
「その法を守らせなければなりませぬ」
「今の幕府にその力がないならな」
「我等でやるしかありませぬ」
「だからこそじゃ」
「はい、領地で」
武田のというのだ。
「定めましょうぞ」
「それではな」
「して兄上」
信繁はさらに話した。
「どの様な法にされますか」
「それは至ってじゃ」
「至極当然のことですか」
「それを定めずしてじゃ」
それこそというのだ。
「どうにもならぬ様なな」
「それを定められますな」
「そうしようと考えておる」
「左様ですか」
「ではな」
「これからは」
「武田家の領内の法を定めるぞ」
確かな声での言葉だった。
「しかと」
「田畑や街だけでなく」
「そうしたことも法であるからのう」
「国を治めるのは何か」
「法じゃ」
それに他ならないというのだ。
「若し国に法がなければじゃ」
「何も治まりませぬ」
信繁もこのことがわかっているので晴信にも答えた、その返事は何の淀みもない確かなものであった。
「それこそ」
「そういうことじゃ」
「幾らよい田畑や街があろうとも」
「堤や道を整えてもな」
「法がなければ」
「国は治まらぬしな」
晴信も言うのだった。
「しかと定めるとしよう」
「確かな法を」
「今川家や北条家の様にな」
「そうですな、両家はです」
信繁はこの二つの家についても述べた。
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