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ロックマンX~Vermilion Warrior~

作者:setuna
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第143話:Metal Valley

ハンターベースでエイリアがエックスと組んで向かうのは砂色の土が剥き出しに広がる渓谷であった。

メタル・バレー

宇宙開発には欠かせない貴重な鉱石が採掘される鉱山である。

「エイリア…本当に君も向かうのか…?」

「心配しないでエックス。私だってそう簡単にやられたりはしないわ。こういう時のために今まで訓練してきたんだもの」

「だけど…!!」

エイリアの言葉に更に言い募ろうとするエックス。

エックスは人一倍失うことを酷く恐れる。

最初のシグマの反乱で同じハンターだった同胞を、ゼロをルインを失ったためだろう。

「大丈夫よエックス…信じて」

落ち着かせるようにエックスの頬に手を添えながら言うとエックスは少しの間を置いて頷いた。

「分かった。でも危険な状態になったらすぐにハンターベースに帰投させるよ」

「ええ」

メタル・バレーに転送された2人。

そこでは作業用メカニロイドがイレギュラーと化し、採掘に携わる者達にも容赦なく暴走していた。

被害を受けているのはここで働いている旧世代型レプリロイドのみである。

「これは…!!」

「酷いわね…」

モニター越しと肉眼で見るのとではここまで違うのかとエイリアは顔を顰めた。

『本当に酷いですね。ここで採掘される鉱石は宇宙開発資源なんですよ…宇宙開発は、ヤコブ計画にとって凄く大事なので……早く反乱を止めましょう!!』

次の瞬間、イエロー・ブロンテスというメカニロイドが目の前に降り立ち、首が痛くなるような巨体でコンテナや化石を破壊しながらエックスとエイリアを追いかけてくる。

「…エックス!!」

「…ああ、喰らえ!!」

このままでは埒が明かないために少しでもブロンテスの動きを、若しくは少しでもダメージを与えようと、エックスとエイリアは同時にチャージショットを放った。

威力も貫通力も申し分ないこの攻撃を受ければ、いくらヤコブ計画を効率良く進めるために製造された特別製のメカニロイドでもただでは済まないはずだと思っていたが、エックスとエイリアの予想を裏切るようにブロンテスの装甲は2発のチャージショットを弾いてしまった。

「…っ、チャージショットでさえ効かないなんて…噂以上の堅牢な装甲ね」

「そうだな…ヤコブ計画のための鉱石発掘を効率良く進めるために装甲は特別製だと聞いているが、この装甲は少し異常過ぎるな…エイリア。まずはあいつとの距離を保ちつつ、ダメージを与える方法を探そう」

「ええ!!」

ブロンテスとの距離を保ちながら逃げるエックスとエイリア。

巨大な足が大地を踏み締めるのと同時に地面が揺れ、土がむせ返るような粉塵を上げる。

砂埃で周囲が霞み、よもや見えなくなるわけはないが、自分が砂埃に呑まれ、遠い世界に行ってしまうような錯覚を覚えた。

エイリアは敵から逃れながら唇を噛む。

「(エックス…ルイン…あなた達はいつもこんな不安の中で戦っていたの……?)」

隣で共に駆け抜けるエックスを見遣り、この場にはいないルインを思って胸中で呟く。

特A級ハンターのエックスとルインも常に自信に溢れて戦場に向かうわけではない。

エックスは寧ろ“戦いたくない”と躊躇う心を抑えながら出撃していた。

最初のシグマの反乱からずっと間近で見ていたから分かるのだ。

エックスの戦いを憎む気持ちと恐れを。

ハンターは死と隣り合わせという事実を今更ながらに感じ取る。

それはモニターで見るよりも遥かに違い、鮮血を直に浴びるに似た強烈な恐怖だった。

「エイリア」

隣を走るエックスからの力強い声にエイリアはハッとなる。

「エックス…?」

「気をしっかり持つんだ。戦場の空気に呑まれてはいけない。大丈夫だ、必ず反撃のチャンスは来る。パレットも頑張っているんだから…信じよう、君の後輩の力を」

「ええ、そうね…」

深呼吸して己に気合いを入れ直す。

今の自分は今エックスと同じ立場にある。

恐怖を全身で感じながらも、信念のために、守るために戦うエックスに。

硝煙に満ちた空気を吸い、隣でバスターを構えるエックスと同じ立場。

「エックス!!」

「喰らえ!!」

目の前に立ちはだかるメカニロイドをエイリアがチャージショットでクラッキングし、エックスがとどめとばかりにチャージショットで破壊する。

その時である、パレットからエイリアとエックスに通信が繋げられたのは。

『エイリア先輩!!エックスさん!!』

エックス達全員のナビゲートを担っているためか、少し疲れている様子のパレットから通信が入る。

無理もない、ゼロのチームとアクセルのチームのナビも並行してやっているのだ。

それを1人で捌かなくてはならない疲労は並みではないだろう。

『イエロー・ブロンテスは頭部が弱点です。近くにあるクレーンを利用してイエロー・ブロンテスの頭部をボコボコにして下さい!!』

パレットの通信が終わった頃にはエックスとエイリアは行き止まりに突き当たり、周囲を見渡すと確かに土壁の上にはクレーンがある。

金属の塊であるアームは、ブロンテスの頭部を砕けるだけの強度を誇っていた。

「あれか、エイリア。俺が奴を引き付けるから…君はクレーンの操作を頼む」

「分かったわ!!」

エックスが引き付けているうちにエイリアは壁を駆け上がり、クレーンを作動させる。

反対を向いていたアームが勢いよく振られ、ブロンテスの頭部を殴りつけた。

「やった…!!」

ブロンテスの頭部から僅かに黒煙が上がる。

まだ燻る程度の熱だが、敵に見られる変化はエイリアの士気を高めた。

「よし、エイリア!そのまま続けてくれ!!」

「任せて、この調子でいくわよ!!」

エックスが動き回ってブロンテスの気を引いているうちに、エイリアは再度アームを作動させ、叩きつける。

敵は黒煙を噴き上げ、急停止すると狂ったように来た道を戻っていった。

『イエロー・ブロンデスの内部に高エネルギー反応を感知しました!!追いかけて爆発する前に機能停止させないと!!急いで下さい!!』

「(爆発…追い掛けなきゃ…)」

「了解したパレット」

こう言う非常事態にもエックスは動じずにパレットに返事を返すとエイリアに向き直る。

「追い掛けようエイリア」

「ええ…(エックス…ルイン…私、ようやくあなた達と一緒に戦えるようになった)」

力を得て、戦う術を身につけた。

まだまだエックスやルインには遠く及ばない力だけれど、こうやって共に戦場を駆けることが出来るようになった。

「(あなた達には及ばないかもしれないけど、あなた達のすぐ傍で戦うことが出来る。エックス…あなたをルインと一緒に支えるために…)」

ブロンテスをエックスと共に追い掛けながら、エイリアは胸中で笑う。

そしてブロンテスに追い付くと、ブロンテスはいきなり飛び上がり、上空で爆発した。

「ふう、どうやら慌てる必要はなかったか…先に進もう」

「ええ」

大事にならずに済んで安堵して、建物の中に入るが、入った途端に水晶の柱が出現し、エックスとエイリアに迫る。

「エイリア!!ジャンプでかわすんだ!!」

「ええ!!」

迫る水晶をかわしながら先に進むと、格納庫らしき場所に出た。

「どうやらここは大型メカニロイド用の格納庫のようだな…」

「エックス、気をつけて…イエロー・ブロンテスが1体起動したわ」

「分かってる。でもここでもあのクレーンがあるようだから、俺と君で交互にクレーンを操作して攻撃しよう。レーザーと奴の腕の動きに気を付けてくれエイリア」

「分かったわ」

ブロンテスの攻撃をかわしつつ、エックスとエイリアはクレーンを交互に操作してクレーンのアームをぶつけていく。

それを繰り返すとブロンテスは呆気なく機能停止した。
ブロンテスを停止させ、扉の前に立つと強力なイレギュラー反応を感じ取った。

この先にいるのは、データによれば、アースロック・トリロビッチだ。

非常に高性能な新世代型レプリロイドは宇宙開発に関わる拠点を、強大な権力と共に委任されている。

「ここで採掘されるメタルが、ヤコブ計画に必要なのよね…」

「そうだね…どれだけ科学が進歩しようと、人は土を離れては生きられない。それはレプリロイドも変わらない。エネルゲン水晶もマイヤールビーも自然の恵みだからね」

連綿と受け継がれていく自然の力をエイリアは畏怖せずにはいられない。

「地球の恵みで俺達は今まで生きてきた。それなのに地球から月への移住計画に関しては少し思うところがあるな…」

「エックスはヤコブ計画には反対なの?」

「全面的に反対なわけじゃないんだ。でもやっぱり、生まれた星だし…ずっと守ろうと戦ってきたんだ…簡単には切り捨てられないよ…君は?」

「そう…ね…元科学者としては宇宙に興味はあるけど…でもやっぱり私も地球が好きだわ…この星には沢山の思い出がある…幸せなことも辛いことも…」

ルインと出会って、臨時オペレーターから本格的にハンターベースのオペレーターとなって、間抜けな経緯ではあるけれどエックスと結ばれて…妻となって…今まで過ごしてきた日々は大変なことばかりだったが、全てエイリアにとって今の自分を形成する大切な思い出である。

「そう…か…」

エックスは笑みを浮かべた後に表情を引き締めた。

2人は敵が潜んでいる戦場への扉を開いて中に入ると蟲を模したレプリロイドがいる。

土色のアーマーに身を包んだ“三葉虫”型レプリロイドで長い触角と丸みを持った矮躯は、蟲の中でも特に悪感情をもたらす害虫に似ており、エイリアは恐怖よりも嫌悪感を抱く。

蟲は性格の歪みを見事に反映させた瞳をエックスとエイリアに向け、不快な声色で言った。

「あぁー?何だ何だ?イレギュラーハンターが誇る最強のハンターの1人のエックスの相方は女か~?イレギュラーハンターも人材不足だな~!!」

「エイリア」

「分かってるわ、心配しないで…この程度の挑発なんて乗らないわ」

相手が女というだけで見下す器の小さい男だ。

この程度の挑発には乗らない。

ルインならばこの程度の挑発など軽く受け流すだろうから。

「アースロック・トリロビッチ。希少な資源をどうするつもりだ?」

「はんっ…能無しのイレギュラーハンターに言っても分からないだろう。どうせ、旧世代のポンコツはここで埋もれちゃうんだしね!!」

言い終わるのと同時に地面から黄色い水晶壁が出現し、エックスとエイリアは倒れる水晶壁を間一髪でかわすと、トリロビッチに向けて言い放つ。

「新世代とかそんなのはどうでもいいわ。私はあなたを止めてみせる!!」

「ヤコブ計画に必要な宇宙開発資源を何に使うつもりかは知らないが、俺はお前を止める!!」

エックスとエイリアのバスターから放たれるショットはトリロビッチのアーマーに容易く防がれた。

「生意気な~旧世代のポンコツの癖に、言うことだけは一丁前だよな!!」

軽蔑の笑みを浮かべながらトリロビッチは光弾のバウンドブラスターを放った。

光弾は部屋の壁や水晶壁に当たると直角に軌道を変えて飛び交う。

「エイリア!!」

「任せて!!」

「はっ!!無駄だ無駄だ!!ポンコツのお前らなんかに俺は倒せやしないんだよ!!」

「それはどうかな?」

「確かに私達は旧式だけど…あまり舐めないでもらいたいわね!!」

エックスは経験から光弾をかわし、エイリアもまた長年の経験で洗練されたデータ分析によって光弾をかわしながら最大までチャージしたチャージショットをトリロビッチにお見舞いする。

「ぐああっ!!?」

「ご自慢のアーマーも、チャージショットの前じゃ形無しね」

美しい、悪戯っぽい笑みで言ってみせる。

彼女の洗練された高度な分析能力がトリロビッチとの力の差を埋めていく。

これがオペレーターとして活躍し、前線のエックス達を支えてきたエイリアの“力”だ。

「今度はこちらの番だ!トリロビッチ!!」

追撃でエックスがチャージショットを放つ。

迫り来る先程のエイリアの物よりも威力と規模が大きいチャージショットをトリロビッチは冷や汗を流しながら逃げ惑う。

「流石はヤコブ計画に携わる新世代型レプリロイドね…機動力も中々のものだわ」

「なら、かわせない攻撃をするまでだ。エイリア、行くぞ」

「分かったわ」

エックスの言葉の意味を理解したエイリアは頷くと、エックスと共にバスターのエネルギーチャージを開始し、2人がバスターのエネルギーチャージするのを見たトリロビッチは急いで吹き飛ばされたアーマーを纏う。

「ポンコツ共が~調子に乗るなよ!!クリスタルウォール!!」

複数の水晶壁を出現させるがエックスとエイリアの表情に焦りはなく、同時にフルチャージしたバスターを構えた。

「「クロスチャージショット!!」」

2つのチャージショットが合体して強大な一撃となってトリロビッチの出現させた柱と纏っているアーマーを粉砕した。

「ア…アーマーが…」

「自慢のアーマーは木っ端微塵だ。大人しく投降しろトリロビッチ」

「ふ、ふん!!いくらアーマーを破ったからって、お前らなんかに俺は倒せないさ!!ウェーブウォール!!潰されてしまえっ!!!」

悔しげに叫ぶと、トリロビッチは大量のクリスタルウォールを出現させた。

大量のクリスタルウォールを出現させて相手を圧殺するトリロビッチのスペシャルアタック・ウェーブウォールだ。

「くっ!!」

咄嗟に攻撃するが、チャージショットでも破壊出来ない水晶壁が空間をみるみるうちに満たしていく。

「まだそんな力が残っているの!!?」

ウェーブウォールの大量の水晶壁によってエックスとエイリアは壁に追いやられ、退路を失う。

「どうだ!これが俺達、新世代型レプリロイドの真の力だ!!進化した俺達の力が世界を変えていくのさ!!お前達ポンコツが生きる世界なんてないのさ!!」

「進化…?」

トリロビッチのその言葉によって彼女の胸に初めて怒りの感情が沸き起こった。

「あなたのそんな力が進化だというの!?ふざけないで!!」

地面を踏み締める足に力を込めると一気に跳躍し、水晶壁を壁蹴りで飛び越える。

それを見たエックスも続くように力強く跳躍し、同じように水晶壁を飛び越えた。

「そんなものは進化じゃない!!お前は力に溺れた。ただのイレギュラーだ!!」

トリロビッチの懐に飛び込んだ2人は零距離でのダブルアタックを繰り出した。

2人のバスターは呼応するように輝き、銃口から放たれたチャージショットはトリロビッチのボディを容易く破壊した。

「お前の負けだトリロビッチ。己の性能を過信しすぎたようだな」

「馬鹿な…お前ら如きに、やられるなんて…」

「“ポンコツ”にだって意地があるってことよ」

張り詰めた空気に一石投じるように、息切れした掠れ声がエイリアの口から零れた。

出現していた水晶壁がパリンと割れて散らばり、ガラスのように透き通った水晶壁の破片は、やがてゆっくりと消滅していく。

技の使い手であるトリロビッチが機能停止寸前である証だ。

「ポンコツが、身の程知らず…だなあ……」

言葉は侮蔑と嘲笑に満ちており、死ぬ間際でさえトリロビッチは態度を変えない。

その図太さは呆れや怒りを通り越して感心すら覚える。

「お前達、旧世代の世界はもう終わりさ…どんなに足掻いたって…あんた達は、古い世界と一緒にお陀仏だね…」

そう言ってトリロビッチは事切れた。

歪んだ瞳が瞳孔を開き、金属の手足がだらりと投げ出された。

「そんなことは…させないわ…」

届くはずのない言葉を、エイリアははっきりとトリロビッチに告げるのであった。 
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