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戦国異伝供書

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第四十一話 人と城その九

「当家の宝であるな」
「楯無ですな」
「左様、この鎧は我等のはじまりの方のものであった」
「あの新羅三郎様ですな」
 源義光だ、最早神格化されている武士であり特に彼の流れを汲む源氏ではそうなっている。そしてそれは甲斐源氏である武田家も同じである。
「あの方からのもので」
「そして我等武田家の宝であるのはな」
「武田家が甲斐源氏の惣領なので」
「それでじゃ、やはりこのことはな」
「それがしも知っておりまする」
「そうであるな」
「ですが」
 知っていてもとだ、幸村は言うのだった。
「この目で見ることは」
「真田家全体でははじめてであるな」
「はい」
 まさにというのだ。
「ですから感無量であります」
「そうか、ではな」
「それではですな」
「これよりですな」
「その姿をよく見るのじゃ」
「その様に」
「いや、まさか」
 今度は高坂が言ってきた。
「それがしの様な者が楯無を見られるとは」
「また言うか」
 その高坂に内藤が笑って声をかけた。
「お主は」
「しかし」
「お主は元々百姓の出てあるからか」
「その様な者が武田家の直臣となり」
 そうしてというのだ。
「楯無を見られるとは」
「それはお館様が言っておられるであろう」
「資質を備えているならですか」
「誰でも取り立ててな」
 そうしてというのだ。
「重く用いられる」
「それがお館様ですな」
「それでお主もじゃ」
「その資質があるからこそ」
「今に至るのじゃ」
「そうなのですか」
「だからな」
 それ故にというのだ。
「今も楯無を見られるのじゃ」
「そうですか」
「そしてじゃ」
 まさにというのだ。
「これよりな」
「その楯無の前に出て」
「祈ろうぞ」
「我等の勝ちを」
 二人でこう話してだ、そしてだった。
 晴信は武田家の主な者達と共に楯無の前に出てだ、皆と共に深々と頭を下げてそうしてだ、こう言った。
「御旗楯無もご照覧あれ」
 こう言ってだった、そのうえで。
 皆陣に出た、既に晴信も具足に身を包み諏訪法性の兜を身に着けている。その白い毛のある兜を被ると。
 赤い着物、赤い旗、赤い具足、赤い陣笠と全てが赤になっている武田家の軍勢に高らかに告げた。
「出陣じゃ」
「はっ!」 
 皆晴信の言葉に応え出陣した、そのうえで。
 晴信も本陣と共に出陣してだ、傍らにいる信繁と山本に語った。
「この度の戦とじゃ」
「次の村上家ですな」
「あの家との戦がですな」
「当家が信濃を手に入れられるか」
「その大事な戦ですな」
「そうじゃ、だからじゃ」
 それでとだ、晴信は言うのだった。
「この度の戦必ず勝つぞ」
「左様ですな、しかし」
 信繁は兄にこうも言った、既に皆馬に乗っている。人並外れて大柄巨大と言っていい晴信は乗っている馬もまた大きい。立派な馬ばかりの武田家のそれの中でも。 
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