提督はBarにいる・外伝
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提督の反撃・その2
「では聞こうか?」
今回の事態を、米国政府はどれだけ重く見ているのか。それによって此方も対応が変わる。
「そちらから請求された金額は全額お支払いしましょう。ただし、明細は出来るだけ細かくしていただきたい。更に、此方側でも査定をして、妥当な金額であると判断してからのお支払いという事で」
「水増し請求なんてケチな真似はしねぇよ。これでもウチは鎮守府単独で見ればかなり稼いでる方なんだぜ?」
「だとしても、です。明朗会計はお互いの為でしょう?」
「……まぁ、しょうがねぇか」
支払いは遅くなるだろうが、ここは折れておく。というか、テメェ等の組織のバカがやらかした後始末なんだから払って当然の金だ。問題は次からだ。
「此方からは、最新鋭の護衛空母型艦娘を1人着任させましょう。資金よりも最新鋭の艦娘の方が喜ばれるだろうという判断からです」
「あ~……まぁ、確かにそっちの方が有り難いのは確かだなぁ」
歯切れの悪い俺の言葉に、首を傾げる大使様。うん、そのリアクションは正しい。全くもって正しい。
「ですから、今回の事は水に流すということで………」
「あ~、大使殿?確認したいんだがそちらが用意すると言っている護衛空母ってのはカサブランカ級19番艦の『ガンビア・ベイ』か?」
「な……何故それを!?まだ日本政府にも正式に報告していない最新鋭の艦娘ですぞ!」
「あ~、なんと説明したモンか……まぁ、説明するより見た方が早いか。大淀、内線」
「はい提督」
俺に指示された大淀は、傍にあった内線用の電話から何処かに電話を掛ける。
「はい……提督がお呼びです。え、『訓練で死にそうだから寝かせてくれ』と言ってる?それはウチの通過儀礼です、誰もが通る道です。そんな甘えは許されません。……解りました、では布団で簀巻きにでも何でもして、引き摺ってでも連れてきなさい。最優先事項です、拒否権はありませんよ?いいですね?」
やたらと不穏な会話が大淀の口から飛び出して来たが、大丈夫か?オイ。
「すみません、本人の支度に時間が掛かるようでして。少しお待ち頂ければ」
「お前それ本人の支度っつーか、本人を縛り上げる支度じゃねぇのか?」
「あ、そうとも言いますね」
あっけらかんとした様子でそう言いのける大淀に、ギョッとした顔をする大使殿。そりゃ日常会話に簀巻きやら縛り上げるやら、物騒な単語が見え隠れしてたらそれもしょうがねぇやな。そうして待つこと数分、部屋のドアがノックされた。
「ちわ~、ご注文の品お届けに来たで~!」
そう言って部屋に入ってきたのは龍驤。それとマジで布団で簀巻きにされたガンビア・ベイだった。縛られた状態でもどうにか抵抗しようとしているのか、ムームー唸りながら芋虫のようにのたうっている。
「ごくろうさん、戻っていいぞ」
「あ、ええの?ほなサイナラ」
龍驤は床に転がった芋虫……じゃなかった、ガンビア・ベイを置き去りにして部屋から出ていった。
「とまぁ、見てもらっての通りウチにはもういるんだわ。ガンビア・ベイ」
俺がニヤリと笑って見せると、逆に大使殿は顔を青ざめさせている。
「な、何でこんな……」
「あ~、まぁ簡単に言うとだな。お前さんらの目の上のたんこぶが余計な事してくれた結果、かな?」
その言葉で全てを察したのか、大使殿はガックリと項垂れてしまった。
「では、私共は何で賠償をすれば……」
「だぁから言ってんだろ~?金が一番後腐れもなく手っ取り早いって」
「ですが!あの額は幾らなんでもーー」
「法外だ、とでも言いたいのかな?」
俺の言葉に二の句が告げなくなる大使殿。
「元々今回の交渉はイリーガル……法外な事柄の話じゃあなかったのかな?」
「そ、それは……そうですが」
「大体、深海棲艦取っ捕まえて艦娘じゃない人型機動兵器を孕まそうとか……お前らどこの鬼畜系同人誌の悪役だよ」
リョナはリアルにやっちゃダメだろ、JK(常識的に考えて)。
「な、何でそれを……」
「そりゃあねぇ?拿捕した艦を隅々まで調べるのは当然だ。それに敵の正体探るのも当たり前の話だろう?」
疲れた頭で言われてるから判ってねぇな?この大使殿。今、この部屋はライブ配信中なんだぜ?こんな爆弾発言幾つも投下したら、ネットは山火事どころか東京大空襲もボヤに見えるくらいの大炎上間違いなしだろうに。普通の状態なら間違いなく止めるだろう発言を聞き流してしまっている。耳にこっそり入れたインカムからは、
『良いですよ司令!もっとやっちゃって下さい!』
なんて青葉の興奮した声が聞こえてくるし、もう少しつついてみるか。
「ウチの明石によると、何がどう作用したんだか艦娘でも深海棲艦でもない体組織の組成が見られるって話だ。艦娘とは違う新機軸の人型機動兵器の可能性……こりゃ世界中が喉から手が出る程欲しがるだろうさ」
「そ、それが判っているなら……」
「判っているからこそ、だ。そんな大金の塊を、ウチのだから返せと言われてハイそうですかと返せる程、俺は耄碌してねぇよ」
「な、ならどうしようと?」
「そうだなぁ……オークションでもやるか」
「お、オークション!?」
「そうさ。どうせ売るなら1円でも高い方が良いからなぁ?何しろ新たな戦力になるかも知れん技術の塊だ、死体だとしても高く売れるぜ」
大使殿は信じられない、という顔で口をパクパクさせている。何となく酸欠で喘いでいる鯉っぽいな。
「あぁ勿論、アメリカも参加してもらってかまわんよ?ただし、参加料を払えばだが」
当然だが、賠償金と参加料は別だ。
「そ、そんな大金は私の一存では……」
「まぁ、今すぐに決めろとは言わんさ。ただし、参加したいって国は沢山いるみたいだぜぇ?」
俺の隣に座っていた大淀が、パソコンの画面を大使殿に見せる。それは特設のネットオークションのページ。この展開に持ってくる事を予め想定して作っておいた。
「ここに5000万ドル振り込めば、参加する権利を得る仕組みだ」
「ご、5000万ドル!?」
「新兵器開発費用と思えばかなりの低価格だと思うがねぇ。その証拠に……ホレ」
トップページに設置されている参加者リストは今もドンドン人数が増えていく。そこには、国名だけではなく名だたる軍事産業企業の名前もある。
「よっぽど欲しいんだなぁ?皆さん揃って参加料、即金で振り込んでるぜ」
「む……むぅ」
「それに、アメリカの国力を考えれば500万ドルなんてポンと出せる額だろう?」
「し、しかしですな」
なおもゴネる大使殿に、段々とイライラしてきた。この辺でトドメを刺してやろうかと思い立ったその時、対談中の部屋に駆け込んで来る艦娘が一人。
「darling、お電話デス」
俺が大使殿と対談中、執務室で業務の代行を頼んでおいた嫁さんだった。
「あのなぁ金剛、状況考えろや。今このオッさんとお話するより大事な用があると思うか?」
「だから、そのオッさんよりも上の立場の人からネ~」
成る程、そりゃあ目の前のオッさんよりも大事だわな。俺は受話器を受け取ると、スピーカーをONにした。
『どうやらそちらの提督は、想定以上の食わせ者のようだな』
「プ、大統領(プレジデント)!」
「特別ゲストのご登場~……ってか?」
そう、電話の主はアメリカの大統領。どうやってウチの鎮守府の執務室の番号を調べ上げたかはわからんが、直通で電話してきたらしい。
「それで?ご用件を窺いましょうか大統領」
『知れた事を。君の催すオークションとやらに、我が国も参加させて貰おうと思ってね』
「ほほぅ?まぁウチとしては払う物払ってもらえれば、参加者として何の問題もありませんがねぇ」
『当然だな。では、オークションの開催を楽しみにしている』
「こちらこそ。せいぜい高値で競り落としてください」
そこで通話は切れる。目の前では、自分の頭越しに賠償の話が進んだ事に理解が追い付いてないのか、呆けた表情の大使殿が座っていた。
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