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色を無くしたこの世界で

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第二章 十三年の孤独
  第39話 翌日

 翌日、早朝六時ごろ。天馬は愛犬のサスケと共に河川敷を走っていた。
 今日、自分達はこの世界を離れモノクロ世界に行かねばならない。
 今まで様々な事件に巻き込まれて来た天馬も、今回ばかりは規模が違う。
 過去も未来も宇宙も、なにもかもをまたにかけた“世界を守る”為の戦い。
 齢十三の天馬にはとても重たい使命であり、正直の所、今にもそのプレッシャーに押し潰されそうだが。
 天馬にはそれ以上に仲間を奪われ、世界から心を奪おうとするクロト達に対する決意の方が強かった。

――スキア達を倒してクロトの野望を阻止しないと、世界中から色が……何かを大切だと思う気持ちがなくなってしまう。
――三国さん達、奪われた仲間達の為にも……

「絶対、勝たなくちゃ……!」

 グッと拳に力を込め、一人呟いた。瞬間、天馬は気付く。

――誰かに見られてる……?

 ぐるりと周囲を見回してみる。
 早朝のこの時間。河川敷にはウォーキングをする男性や、天馬と同じように犬の散歩をする老人などがたまに通り過ぎるくらいで、天馬の感じた視線の主とは一致しない。
 気のせいかと再度走り出そうとすると、サスケが「ばうっ」と低い鳴き声を上げた。

「サスケ? ………………!」

 歩みを止め、一点を見詰めるサスケの視線の先……河川敷の上に架かる橋の下。
 こちらを見詰める緑色の瞳と目が合い、天馬の脳裏に前日の試合の情景がよみがえる。

「あの人……!」

 言うが早いか。天馬は河川敷の階段を勢いよくかけおりると、橋の下へと急いだ。
 息を切らし目的の場所へと辿り着くと、先程よりもその姿がハッキリと分かる。
 黒いローブ、目深にかぶったフードから垣間見える緑色の瞳。
 それは前日のスキアとの試合で助けてくれた、あの人物だった。

「あの。君、昨日助けてくれた人だよね?」

 乱れた呼吸を整え、天馬は言葉をかける。が、返答は無い。
 背格好から見て天馬と同じくらいだろうか。目の前の人物は警戒した様子でこちらを見詰めている。

「昨日はありがとう。君が来てくれなかったら俺達……もっとボロボロにされてたかも知れなかったよ」
「…………別に、君達を助けた訳じゃ無い」
「え?」

 今まで黙っていた男の突然の言葉に、天馬は不思議そうに呟いた。

「あれが主人の指示だからね…………」

 『主人』……その言葉を聞いて思うのは世界から色を奪い、アステリ達イレギュラーを生み出したと言うクロトの事。
 カオスもスキアもクロトの事を『主』だと言い、アステリを連れ戻そうと襲いかかってきた。
 「まさかこの人も」。そう思い顔を上げると、さっきの男の姿は既に無くなっていた。

(さっきの人もクロトの仲間なのか……? でも、それじゃあなんで……)

 「アステリならなにか分かるかもしれない」……
 そう思い、天馬はサスケと共に木枯らし荘へと駆けていった。









 木枯らし荘へ帰ってきた天馬は、さっそく自室に戻りアステリに話を聞こうとした。
が……。

「あれ」

 自室の様子を見て天馬は首をかしげる。
 朝、出掛ける時には確かにいたアステリの姿がどこにも無い。
 疑問に思い天馬は部屋を出ると、台所で朝食の用意をしていた秋に尋ねた。

「秋姉、アステリ見なかった?」
「アステリ君? それなら用事があるって言って、天馬が出掛けた少し後に出ていったわよ」
「そう……」

 現在、モノクロームに追われている身であるアステリ。そんな彼を一人で放っておくのは危険ではないか
 そう思い、探しに行こうと踵を返して、天馬は足を止めた。
 よく考えてみれば、彼がどこに行ったのか自分は知らないし。そもそも用事があるのであれば、無理に連れ戻すような事は出来ない。
 「戻ってくるまで待っていよう」、そう一つ言葉を零して天馬は一人、朝食をとり始めた。

 朝食を終え、旅立つ為の準備をしていると、ガチャッと自室の扉が開く音が聞こえた。
 扉の方に目をやると、そこには昨日までいなかったフェイが立っていた。
 「ただいま」と言うフェイに「おかえり」と返すと、天馬は昨日からずっと気になっていた事を尋ねる。

「用事の方はもう良いの?」
「あぁ。上手くいったよ」
「? どういう事?」

 そう不思議そうな顔で唱えた天馬に、フェイは「あとでのお楽しみ」とイタズラな笑みで答えた。

「ところで、アステリは?」
「なんか、用事があるって出掛けたみたい」

 ふと、壁にかけられた時計を見る。
 あれからもう一時間程経過したが、一向に戻ってくる気配はない。
 そろそろ雷門に向かわなければいけない時間なのに……
――もしかして、何かあったのだろうか……

「もしかしたら、そのまま雷門に向かったのかもしれないね」

 心配そうに時計を見詰める天馬にフェイはそう言うと、「ボク等も向かおうか」と言葉を続けた。
 確かに、このままアステリが帰ってくるまで待っていては約束の時間に間に合わない。
 今はフェイの言葉に従う事にした天馬は、着替え等の荷物が入ったバッグを肩にかけた。

「じゃあ秋姉、行ってきます」
「えぇ。二人共、頑張ってね」

 玄関で見送りに来てくれた秋の言葉に二人は強く頷くと、雷門へ向かい歩き出した。


 
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