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色を無くしたこの世界で

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ハジマリ編
  第33話 再戦VSザ・デッド――影の力

 ザ・デッドが2点目を得点した直後。試合は一時中断し、天馬達雷門イレブンはベンチへと戻っていた。
 皆、ザ・デッドのラフプレーにより負傷し、歩く事すらままならない状況。途中交代した影山、浜野、車田は特に怪我が酷く、マネージャーの葵、水鳥、茜が手当てを行っている。
 そして、キーパーの三国も……

「三国さん……」
「ッ……そんな顔するな。天馬ッ……キャプテンであるお前がそんな顔をしていたら、メンバー全員が不安になる」

 腹部をおさえ、苦痛の表情を浮かばせながら三国は不安そうに自分を見詰める天馬に言葉を返した。
 かつて、雷門のキャプテンをしていた事もある三国。こう言う不安な状況だからこそ、群れのリーダーであるキャプテンがしっかりしなければいけない事を身を持って知っていた。

「信助。三国と交代だ。フェイ、青山、一乃も。準備をしてくれ」

 円堂の言葉に影山、浜野、車田は「まだやれる」と訴えるように円堂を見たが、彼の厳しい顔付きに喉まで出かかった言葉を飲みこんだ。
 自分達の痛みを、彼等自身よく分かってもいたのだろう。
 苦痛と悔しさで顔を歪める三人を一瞥すると、三国は「ゴールは任せたぞ」と信助を見上げ、言葉を吐いた。

「さっきのシュート……ゴールでは無く、キーパーの三国さんに向けて放たれていた……」

 地面に座り苦しそうに息をするメンバー達を見詰め、アステリが囁く。
 「どう言う事」と尋ねる天馬に、はなからスキアはゴールを決めるつもりは無かった事。キーパーである三国を負傷させる為だけにシュートを放ったんだと言う事を説明してみせる。
 アステリの言葉に天馬は顔をしかめると、湧き上がる怒りに握った拳がワナワナと震え出した。

「許せない……サッカーは人を傷付けるモノじゃない!! こんなの……サッカーが泣いてるよ……ッ!!」

 天馬の悲痛の叫びはグラウンド中に響き渡ると、ザ・デッドそしてスキアの耳にも届き、聞こえていた。




『さぁ負傷者続出の雷門、メンバーを交代し後半戦へと臨みます。現在、ザ・デッドが2点をリードし雷門を圧倒中! はたして、このまま勝負はついてしまうのでしょうか!』

・【雷門】フォーメンション・

  剣城      フェイ
      天馬★
 神童  錦  青山  一乃

狩屋    霧野   アステリ
      信助

 負傷した影山、浜野、車田、三国に代わりフェイ、一乃、青山、信助が入り、アステリはDFに下げられての後半戦再開。
 後半戦2度目のキックオフ、フェイがボールを蹴り出し前進する。
 この流れを変えなければ……フェイは心で強く唱えると、迫ってくるザ・デッドイレブンの攻撃を軽やかに飛び跳ね、交わした。

『フェイ選手! 軽やかなステップでザ・デッドイレブンのディフェンスを突破していきます!!』

 「自分が点を決めなければ」……その思いから地面を踏みこむ足にも自然と力が入る。
 パスを繋いでゴール前に上がっていくフェイ。駆けあがるスピードを上げて真っすぐに突っ込んでいった途端、視界が黒く染まる。
 ハッと顔を上げたフェイの目の前には、あの単眼の影の姿があった。

「こんにちわ、フェイさん」
「ッ……!」

 不意をつかれ、前へと駆ける足が停止するフェイ。
 すぐさま後ろの選手にパスを送ろうと視線を映すが、皆一様にザ・デッドイレブンにマークされておりパスを出す事は出来ない。
 ならばと目の前の異形を抜き去ろうとフェイが懸命に動くも、自身の動きに合わせ移動するスキアを簡単に抜き去る事は出来ず、彼の顔に焦りの色が見えてくる。

「おや、まだそんな機敏な動きが出来ますか……なかなか頑張りますね。__もう、力も無いクセに」
「――!」

 耳元で囁かれた言葉にフェイはカッと顔を紅潮させると、目の前の男を睨み付けた。
 それと同時に先程から痛み出していた頭が、更に強く響く様に痛み出すのを感じ、フェイは顔を歪ませる。

「お前、ボクに何をした……ッ!」

 語気を強め尋ねたフェイを一瞥すると、影の世界を見上げスキアは話し出す。

「……この世界は人間の持つ"影"に干渉し、乱す力がありましてね」
「影……?」

 怪訝な顔で呟くフェイにスキアは言葉を続ける。

「古くから、影と言う物は多かれ少なかれその生物の魂が宿るモノ。この世界に長く滞在しますと、影を通じだんだんとその魂が乱れていき……感情の起伏が激しくなったり、力を過剰に失ったりするのです」

 スキアの言葉にフィールドに立つ雷門イレブン全員が驚きの表情を浮かべる。

――「……それに、この世界に人間が長居するのもあまりオススメ出来ません」――

 一番初めにこの影の世界に連れてこられた際にスキアに言われた言葉。
 その言葉の真意を理解するのと同時に、頭の痛みはより一層激しくなっていく。

「他のメンバー以上にアナタが力を失っているのは、前回のゲームでデュプリや化身等、力を大量に使う行為ばかり行っていたから……今も、立っているだけでやっとのハズなのに……試合に出るだなんて――――バカですねぇ」

 大きな単眼を歪ませ、侮辱の意を込め唱えるスキア。耳元で囁かれたその笑い声が、過敏になったフェイの神経を余計に刺激した。

「違う……ッ!! ボクはまだ、戦える!!」

 叫ぶのと同時にフェイはスキアのマークを振り切ると、ゴール目掛け勢い良く駆けだした。

『フェイ選手! スキア選手のマークを振り切り、ゴール目掛け一目散に走り出す!!』
「フェイ!」
「ボクがやる!!」
「な……フェイっ!」

 スキアのマークから外れ猛進するフェイの元に、同じくFWの剣城が駆け込んで来ていた。
 剣城は前方からブロックに入る二人のDFを確認すると、自分の元にパスを送る様にフェイに声をかける。
 だがフェイはそんな彼の言葉に強気な声を上げると、走るスピードを上げ、目の前のDF目掛け突っ込んでいった。

「どうしたんだ、フェイ……」

 いつもと違うフェイの様子に、天馬は走る足を進めながら呟いた。
 そこに横から同じ様に走ってきたアステリが、複雑な表情で言葉を返す。

「天馬。スキアの言った言葉が本当なら……多分今、フェイの心は不安定になっている」
「え?」
「ただでさえ、こんな異質な場所に連れてこられ、こっちは0対2で負けている……『自分が点を取らなければ』と言うフェイの思いが焦りに繋がり、心を不安定にする要因になっているんだ」

 昨夜のカオス戦であれ程冷静に努めていたフェイ。
 そんな彼も、一点も取れず、負傷者ばかり相次ぐこの状況に焦りと苛立ちの感情を露呈させてしまっている。
 アステリの言葉に、天馬は前方を走るフェイの姿を苦しそうに見詰め続けた。

『フェイ選手! 次々にザ・デッドイレブンを抜き去って行きます! 雷門、このまま一点を取り返す事は出来るのでしょうか!?』

 次々に飛び交うディフェンスを交わし、フェイは必死にボールをキープする。
 最中、フェイは先程の敵の猛攻を思い出していた。
――ボールを渡せばザ・デッドによる猛攻が始まる。
――独りぼっちだった自分に居場所をくれた、天馬や……大切な仲間が、また傷付いてしまう。
――そんなの、もう。見たく無い

「これで、決める……ッ!」

 ゴール前。フェイはボールと共に高く跳躍すると、背後から紫色のオーラを出現させる。
 オーラはフェイと同じ緑髪に長いウサギの耳を生やした戦士の姿へと変わると、その体を六つの塊へと分散させた。

「光速闘士ロビンっ! アームド!」

 フェイの声に合わせ、分散されたオーラの塊は発動者の身に纏い、鎧として変化した。
 恐らく体力的に限界が近づいているのだろう。青白い顔をしたフェイは、それでもゴールを狙う。

「バウンサーラビットッ!!」

 空中で放たれたフェイ渾身の必殺シュートは、確かな威力を纏いながらザ・デッドのゴールに向かい突き進んで行く。

『フェイ選手の強力な必殺技がザ・デッドゴールを襲う!! 雷門、同点なるかぁ!?』
「いっけぇー!」
「決まれーッ!!」

 実況者アルの興奮した声に混じって、ベンチエリアに座っていた葵、水鳥、茜も立ちあがり、たまらず声を上げた。
 このシュートが決まれば、雷門イレブンにとって強い追い風となる。
 皆の希望が乗ったそのシュートを、その場の誰もが目を離さずに見ていた。




 だけど。
 “希望のシュート”なんてモノが決まるのは。
 例えばそれが、弱者も強者も関係無い。
 結末の決まった物語だったらの話で

 天馬達の置かれている今この状況では。

 そんなの。

 無力に等しい程の、弱者の悪あがきに他ならなかった。
 
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