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東方英雄戦線録

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暗黒

「よいしょっと…」

私たちはようやく任務先の島に到着した。
バーサーカーが楽しそうに笑いながら言う。

「ここも随分と空気が変わっちゃったね〜…前はもうちょっと綺麗な場所だったんだけど…」

そう言いながら、バーサーカーは緊張感の無い足取りで島の奥へと歩いて行く。
アレスが船から降りて言う。

「雪風、俺はしばらくここを離れられそうにない。通信機器の調子が悪い様でな。バーサーカーが奥に進んだのなら、お前も行くといい。セイバーはここの守りをしてもらうからな。」
「そうですね。雪風、これを持って行ってください。」

私はセイバーからリングの様なものを受け取る。
私がそれを腕につけるのを見てセイバーが言う。

「それはマスターと私の魔道通信機なのですが、雪風とマスターが離れ離れになる以上、私が持っているより雪風が持っている方が良いかと思います。」

セイバーなりのバックアップのつもりだろう。
私はセイバーにお礼を言ってバーサーカーが行った方向へと歩を進める。

「にしても…寒いね…ここってこんなに寒いものなのかしら…」

ポツリとそんな愚痴をこぼしていると楽しそうな声が聞こえる。

「当然だよっ!このアタイの能力でここら一帯は氷漬けなんだからさっ!」

突然、冷たい風が吹いたかと思えば、目の前に小さな羽っぽいものを浮かべてる少女が現れる。
私は何とか情報を得られないかと会話を試みる事にした。

「初めまして。私は雪風と申します。貴方は誰ですか?」

少女はドヤ顔しながら無い胸を張って言う。

「ふっふっふ…このアタイの名前を聞いて驚かないでよね!アタイは完全最強完全無敵完全兵器のチルノ様だ!」

すんごく失礼だと思うけど、バカだと思ってしまった。

「では、チルノさんに聞きたい事があるんですけど…」

私がそう言った瞬間、チルノは目を輝かせて言う。

「なら、この最強のアタイとアタイの弟子に勝てたら教えてやろう!いでよ!我が弟子!ランスロット!」
「がぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「うわっ!」

当然現れたサーヴァントの攻撃をギリギリで回避する。
当然の様にその先の地面が抉られる。

「不味いですね…バーサーカー相手だとさすがに私程度の魔術師の魔障壁じゃ防げません…」

私は何とかアレスと連絡を取ろうとするが、ランスロットの猛攻がそれを許さない。

「くっ…どうすればいいの…」

私がランスロットの猛攻を紙一重で避けながらそんな事を考えていると…

「私の雪ちゃんに何やってんだー!」

ズガンと強烈な体当たりによってランスロットが吹っ飛ぶ。

「バーサーカー?!」
「雪ちゃん、遅くなってごめんね。ここからは私があいつの相手をするよ!」
「ありがとうございます。相手はバーサーカーのランスロットです。かなり手強い相手ですので、気をつけてくださいね。」
「了解っ!」

バーサーカーはそう言うと突撃する。
ランスロットが武器から弾丸を発射して応戦するが、バーサーカーのバラの剣が綺麗にそれを捌き斬る。
ランスロットは遠距離攻撃が効かないとわかったのかそのままバーサーカーに突撃する。
そして、互いの得物がぶつかり、凄まじい衝撃を放つ。

「バーサーカー!」
「わかってる!」

バーサーカーがそのままランスロットを突き飛ばして不思議なカードを掲げて言う。

「くらえ!抑制!スーパーエゴ!」
「ガアアアアアア!」

バーサーカーが呼び寄せたハート型の弾丸がランスロットの力を奪う。
私は魔力を集中して、簡易魔術を発動させる。

「バーサーカー、受け取ってください!簡易強化魔術:脚力強化(パワーレッグ)!」

私の魔術がバーサーカーの霊基に作用し、効果を発揮する。
強化されたバーサーカーの蹴りでランスロットが吹き飛ばされる。

「ありがと!後は任せて!」

吹き飛ぶランスロットに追い討ちをかけるようにバーサーカーが地を蹴る。

「アーサーアアアアアアアアアアアア!」

ランスロットがそう言うと禍々しい色の魔力を放ち始める。

「はーっはっはっはー!やってしまえー!」

チルノが楽しげに言う。
私はこいつはヤバいと判断してバーサーカーに指示を出す。

「バーサーカー!」
「了解!」

地を進行方向と逆側に蹴りこみ、バーサーカーが私のすぐ近くまで後退する。
ランスロットの禍々しい魔力がチルノを目掛けて放たれる。

「え?!ちょ!こっちはアタイだよ!」

チルノが一撃目を間一髪で避けるが、逃げ切る事が出来ずに二撃目の魔力に囚われる。

「ちょ…やめ…」

禍々しい魔力がチルノを包み込み、その身体と結びつこうとしている様に見えた。
私はこのままではチルノにとっても、私たちにとっても最悪の展開になるだろうと感じた。

「バーサーカー、早急にランスロットを止めてください!あれは危険過ぎます!」
「私もちょうど同じ事を考えてたから、準備は出来てるよ!焼き尽くせっ!全てを焼き焦がす炎龍の神炎を纏いて時よ(アポカリプスシール)!」

燃え盛る炎と共にバーサーカーが突っ込む。
ランスロットがバーサーカーのその様子を見て魔力を高める。

「グルルルル…ガアアアアアアアアア!」

ランスロットがまるで聖杯を使ったかの様な膨大な魔力の壁を発生させる。
バーサーカーの宝具はその壁に阻まれて、ランスロットを倒す事は出来なかった。
そして、ランスロットが魔力の壁を解放するとまるで衝撃がそっくりそのまま返ってきたかの様にバーサーカーが吹き飛ばされる。

「グッ…なんて強い魔力なの…いくら不完全な状態とは言え、こんなにも容易く弾かれる様なものじゃ無いんだけど…」

バーサーカーが驚いた様子で言う。
無理も無い話だ。
私の感じる限り、あまりに異質な強い力を持った宝具であるのは間違いないはずだ。
いくらランスロットの方がバーサーカーより英霊として格上だったとしても、無傷では済まないだろう。
そもそも狂化のかかっているランスロットが魔力の壁を作って攻撃を防ぐ事自体が異常だし、無傷で済ませるどころか、完全に宝具による衝撃をそっくりそのまま返していたのだ。

「いやだよぅ…アタイ、そんな事したくないよぅ…」

チルノが何かに抵抗している様な言葉をもらす。
私はチルノを見て言う。

「もしかして、何者かが彼女とランスロットを無理矢理融合させようとしているんでしょうか…」
「それはマズいね…さすがに幻想郷の秩序がこれ以上乱れるのは私たちにも良くないんだけどなぁ…」

気になる地名が出てきたが、今はチルノを助ける為に何が出来るかを考えよう。

まずランスロットから出ている禍々しい魔力だ。
あの魔力はおそらく通常の召喚術では使う事の無い術式が組まれて居るのだろう。
サーヴァントと契約者を一定の条件下で融合させる術式だと思う。
おそらく、私たちの研究していた仮初の英雄の術式に手を加えたものだ。
そして、この術式は私たちの組織の最重要機密だった事から、これが出来るのはこちら側の上層部の人間のはずだ。

次に前回の戦闘時に戦った金髪の子だ。
あの子は闇を纏って居たからよくわからなかったが、あの子がバーサーカーに倒された時に今回の感じと似た様な魔力が抜けるのを確認していた。
これだけを見るとサーヴァントの核を壊せばサーヴァントが消滅する原理を利用して、運良くランスロットの核だけを破壊出来れば、あの禍々しい魔力を消す事は可能だろう。

最後にあの膨大な魔力の壁だ。
バーサーカーの宝具が発動した時、ランスロットはバーサーカーを視認した後にあの魔力の壁を発生させた。
何故、バーサーカーであるランスロットからあの膨大で精密な魔力が出てきたのかはわからないが、マスターとサーヴァントの関係から考えられるのは、ランスロットは操られている状態であり、魔力はマスターを通じた聖杯からの魔力の過剰供給を強制的に行わせたのでは無いかと考えよう。
となれば、バーサーカーのランスロットがあの様な膨大な魔力の壁を発生させる事も可能なのだろう…

ここまでの事を考えれば、チルノがあの魔力に取り込まれた後、チルノと言う少女の意識が完全に消滅する前にランスロットの核を破壊すればあの魔力から助け出す事が出来るはずだ。
問題はそこにたどり着くまでの戦い方なのだが…

「バーサーカー、一つだけ今の私たちで出来そうな作戦があるんですが…」

バーサーカーはそれを聞くと楽しげに笑って言う。

「うん!任せた!」
「…え?」

私は何の躊躇いもなく、バーサーカーが私の前に出るのを見て驚く。

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイやだイやだイヤだイヤダイヤダイヤダイヤダァァァァァァァ!」

チルノが禍々しい魔力に呑み込まれて、ランスロットが消滅する。

「いい?私は雪ちゃんの兵器よ!雪ちゃんを信じて戦うのが私のやるべき事だから、雪ちゃんが私に遠慮する事は無いよ。それに今はサーヴァントだから、多少の無茶は出来るしさ。」

バーサーカーはまるで自分にも言い聞かせているかの様な口調で言う。
チルノが禍々しい魔力を纏って佇む。

「バーサーカー…」

私の呼び掛けにバーサーカーが頷く。
私も覚悟を決めてバーサーカーに言う。

「バーサーカー!あいつを…ランスロットを倒してください!」
「了解!」

バーサーカーはそう言って突撃する。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッーー!!!!」

チルノが禍々しい咆哮をあげて応戦に向かう。 
 

 
後書き
ここでちょっと小ネタ的な補足。
作中ではまだ出てませんが、雪風のサーヴァントのバーサーカー、古明地こいしの宝具として使われる「全てを焼き焦がす炎龍の神炎を纏いて時よ(アポカリプスシール)」は宝具ランクEXの種別は対世界宝具になります。
「アポカリプス」は覆いを外すと言う意味ですが、この宝具はアポカリプスの"暗示"文学的な部分を強く強調した宝具になります。
「シール」は貼り付けるものである為、暗示を付与する(貼り付ける)と言う意味でこの言葉を選択してます。
魔力を消費して、この世界の全ての出来事や万物に通用する「暗示」をかける事で宝具を発動させてると言うのがこの宝具のタネと言う訳です。(1話の時は"自身が全てを焼き焦がす龍神の炎を纏う"と言う暗示をかける事で発動させてます。)
この暗示をかけると言う能力のおかげでクーフーリンの宝具である刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)の様な結果を先に作る宝具も無力化する暗示がかけられます。(ただし結果に対する認識が必要になる。)
使い方次第では防御にも攻撃にも使える様にはなっていますが、バーサーカーが不完全な状態の仮初の英雄(アリス・サーヴァント)なので、能力にかなり制限がかかっており、幸運A+++以上だと暗示をかけられない場合や攻撃時は対象サーヴァントの魔力耐性がA以上だとかなり威力が落ちます。
防御時はA+以上の攻撃を受けると僅かにダメージを受けます。
ちなみにアポカリプスは善悪の終焉を意味する事もある様です。(詳しくはWikipediaへ)

また雪風がランスロットの攻撃を避けれた理由ですが、これには彼女の「実験体」としての経験が影響してます。
この話については後の物語内で語らせて頂こうと思います。 
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