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戦国異伝供書

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第四十話 上田領有その九

「遠慮致します」
「そうか」
「それがしはそうしたものには興味がないので」
「問題なく暮らせればか」
「はい、金も禄も」
 そうしたものはというのだ。
「興味がないので」
「そうであったな、お主はそうであるな」
「はい、それがしよりもです」
「お主の家か」
「宜しければ真田家を」
 幸村の家であるこの家をというのだ。
「お願いします」
「そうか、それがお主の願いか」
「左様であります」
「お主の考えはわかった、しかしな」
「それでもですか」
「お主だけの者はそれなりの禄を持ってな」
 そうしてというのだ。
「そしてじゃ」
「そのうえで、ですか」
「そうじゃ、当家の為に働いてもらいたい」
 武田家の為にというのだ。
「天下泰平を目指しているだけにな」
「だからですか」
「やがてお主には大名になってもらい」
 万石取り、それにというのだ。
「そしてじゃ」
「そのうえで」
「充分に働いてもらう」
「では」
「お主にあらためて言う」
 晴信は幸村に言葉を強くさせて述べた。
「金はいらぬと言ったが禄はじゃ」
「それは、ですか」
「今は五千石じゃ」
 それだけだというのだ。
「これだけお主に与える」
「そしてその五千石で」
「働いてもらうぞ」
「これからは」
「まず信濃を手に入れてじゃ」
「そこからですか」
「上洛か。その前に」
 声にある真剣なものが宿っていく、それで言うのだった。
「越後とじゃ」
「信濃を手に入れたなら」
「そうじゃ」
 まさにというのだ。
「戦になるかも知れぬしな」
「越後の長尾家と」
「わしは長尾虎千代は片腕に欲しいが」
 天下を統一しその後の泰平を考えるとだ。
「しかしじゃ」
「その前にですか」
「信濃を手に入れて越後と接するとな」
 その境をというのだ。
「相手も警戒してじゃ」
「動きますか」
「長尾家の本城は春日山じゃ」
「春日山は信濃と近いです」
「まさに目と鼻の先じゃな」
「越後は細長い国です」
 東北から南西にかけてそうなっている、そうしてだった。
 それでだ、こうも言ったのだ。
「それで信濃との境のすぐ傍に」
「春日山の城がある」
「本城を攻め落とされるとどうにもなりませぬ」
「そうじゃ、だからな」
 そうした事情があるからだというのだ。
「長尾家としてはな」
「信濃と国を接すると」
「その時はじゃ」
 まさにというのだ。
「戦になるやもな」
「そうなりますか」
「あの者は強い」 
 長尾景虎、彼はというのだ。 
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