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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第7章:神界大戦
  第203話「神界の洗礼」

 
前書き
神界の設定はわざと具体的ではなく抽象的でふわっとした感じにしてます。
本当に曖昧な世界観という設定なので、作者自身も描写に苦労してますが……。
まぁ、いくつもの世界を観測出来るトンデモ世界なので、理論詰めするような世界観やシステムに出来ないんです。
要は“考えるな、感じろ”的な世界です。
 

 








「っ、ふっ……!」

「とこよ!」

「鈴さん、後ろ!」

「ええ!」

 優輝達がカエノスと名乗った神に苦戦している頃、とこよ達も苦戦していた。
 相手は、中性的な容姿で、何故か服を着ずに生まれた姿のままの神。
 無性なため、目のやり場にそこまで困る事はなかった。

「(一体一体の強さは大した事がない。……それこそ、その気になれば前世の私の強さでも勝てるぐらいには、弱い)」

「(でも、()()()()……!)」

 そう。とこよ達が相手にしていた神は一人のはずだった。
 しかし、その神の能力が……。

「ほらほらほら!どんどん増えていくぞ!」

「まさか、分裂能力の持ち主とはね……!)」

 そう、“分裂の性質”。文字通り、分裂する能力だ。
 攻撃だけでなく、本人も分裂出来るため、相手の数は今も増えている。

「二人共!」

「「ッ!」」

 紫陽が合図を出し、とこよと鈴は屈む。
 その瞬間に紫陽が霊術で周囲の分裂した神を薙ぎ払う。

「キリがないねぇ!」

「相手の意志を挫く……と言っても、この数だと……!」

「でも、やるしかないよ!」

 紫陽を挟むように、とこよと鈴が背中合わせで迫る神を斬り払う。

「(キクリエ……とか言ったか。本体とかそういう類であれば良かったんだが、間違いなく一体一体が“本物”だ)」

 分裂の力を見せた時、相手の神は自らとこよ達に名乗った。
 それは余裕の表れか、洗脳され正気じゃないが故の行動なのかはわからないが……。

「(だが、名前が分かっているのなら……!)」

 それは、紫陽にとっては好都合だった。
 押し寄せる神の大群を凌ぎつつ、術式を構築させていく。

「“我が言霊よ、我が敵を縛れ”」

「む……!」

「“敵の名は、キクリエ”!」

 幽世の神として、力を振るう。
 名前を利用したその言霊は、人間であるならば絶対に逆らえない。
 例え相手が神であろうと、動きを鈍くするぐらいは簡単であった。

「今だ!」

「ッ!」

   ―――“斧技・瞬歩-真髄-”

 刹那、とこよが掻き消える。
 目にも止まらぬスピードで、神の大群の間を駆け抜ける。
 コンマ一秒にも満たぬ間に、元の位置に戻り……大群全てが切り裂かれた。

「縫い留める……!」

   ―――“弓技・矢の雨-真髄-”

「押し潰されなぁ!」

   ―――“三重圧陣”

 間髪入れずに、鈴が矢の雨を降らし、怯ませる。
 直後、紫陽が重力で押し潰す霊術を三重で行使する。
 単純な三倍の重圧ではなく、三乗された重圧が、神の大群を押し潰す。

「はぁっ!」

   ―――“剛力神輿-真髄-”

 明確な殺意を持って、とこよは斧に持ち替えて何度も神を叩き潰す。
 虐殺にしか見えない程、神は潰れていくが……

「……それが、どうした?」

「(やっぱり、意味がない……!)」

 数が多いためか、単に意志が挫けていないからか、神はあっさりと復活する。

「あはははははは!他愛ない、他愛ないぞ!」

「くっ……!」

 さすがのとこよも、多勢に無勢。
 鈴や紫陽と連携を取らなければ、たちまち袋叩きに遭う程だった。

「(さっき潰した分、さらに分裂した……!)」

「もう一度……!」

 さらに数が増え、紫陽が咄嗟にもう一度言霊を使う。
 同じように、神の名を利用して強力な言霊を放つが……。

「……効かない……!」

 今度は、全く無意味だった。

「(意志が重視されるから、言霊も意志次第で簡単に無効化出来るって訳かい……全く、本当にこっちの法則は通用しないね……!)」

 言霊は神界の神相手に相性が悪い。
 そう考えて、紫陽はすぐさま別の霊術に切り替える。

「とこよ、鈴!」

 霊術で大群の退かせる。
 その僅かな間にとこよと鈴は体勢を立て直す。

「ふっ……!」

「はぁっ!」

 とこよは槍に持ち替え、鈴は刀を鞘にしまった状態で、何度も神の大群を弾き飛ばす。
 刃で切り裂いてしまえば、そこから分裂してしまうため、それを避けていた。

「(押し切られる……!)」

 多勢に無勢。そんな状況下で、徐々にとこよ達は追い詰められていく。











「ふっ……!」

「ッ……!」

 一方で、サーラとユーリも猛攻を仕掛けていた。
 だが、相手の神は二人掛かりの猛攻すら悉く防いでいた。
 最も、どちらも限界を出していないので、実力差は決まった訳ではない。

「はぁああっ!!」

 怒涛の連撃がサーラから繰り出される。
 しかし、それだけやっても相手に当たるのは僅か数撃だけだ。
 ほとんどの攻撃は避けられ、当たるのは防ぎきれなかった時のみ。

「このっ……!」

 しかも、それはユーリが援護をしている状態での話だ。
 サーラ単体でも当てる事は可能かもしれないが、二人掛かりでこの様だった。

「(速い……!)」

 偏に、相手の実力が高かった。
 初撃を防いだ事と言い、優輝達やとこよ達が相手にしている神より、サーラ達が相手にしている神の方が強いのだ。

「サーラ!」

「後ろは任せます!」

 ユーリとコンビネーションを取る事で、相手の速度に食らいつく。
 ただ追いかけるだけでは追いつけないため、受け身の態勢を取り、攻撃してきた所を的確に捌き、反撃する。

「ふっ……!」

「はぁっ!」

 アロンダイトと敵の光の剣がぶつかり合う。
 剣速は相手の方が速く、既に五回は斬られる程に隙を突かれている。
 しかし、実際はその隙をユーリが埋めていた。
 魄翼で剣を逸らし、魔力弾と砲撃によってサーラの隙を潰していた。

「ここです!」

「なにっ!?」

「はぁああっ!!」

 ほんの一瞬。普通なら影響がないような、僅かな攻撃の緩み。
 それを隙とし、ユーリが魄翼で剣を絡め取る。
 そして、サーラが刹那で五連撃を繰り出す。

「……なるほど、結構やりますね」

「ッ―――!?」

 しかし、それすらも。
 目の前の神には通用しなかった。
 剣は即座に破棄され、サーラの連撃は躱された。
 唯一当たりそうになった一撃も、新たに作られた光の剣で防がれた。

「一通り見させてもらった所で……私はルーフォス。“光の性質”を持ちます。以後、お見知りおきを……」

「光……なるほど……」

 丁寧な物腰で、一度間合いを離した女神……ルーフォスは名乗る。
 そのまま自分の性質も話し、サーラとユーリは今一度彼女を注視した。
 金色の髪と瞳に、薄黄色を基調とした白い衣。
 性質に合った容姿をしている事にサーラ達は気づく。
 神の持つ性質と、その容姿には共通点があると言う事に。

「我が光すら塗り潰したイリス様のため……あなた達を沈めましょう……!」

「っ……!」

 丁寧な物腰と、柔らかい微笑みの表情。
 それが一転して、狂気に満ちた笑みへと変わる。
 ……洗脳された事による、性格の変化だ。

「(敵は光そのものと捉えるべきか……!)」

 余裕の表れからか明かした彼女の性質。
 言葉だけで全てが把握できる訳ではないが、推察するには十分だった。
 同時に、考えた通りであれば厄介だと、サーラは確信する。

「『“光の性質”……ですか。敵は闇を扱う神だと聞きましたが……』」

「『言い換えれば、光すら塗り潰す程の闇を使う……と考えられます』」

「『……本当に、規格外ですね』」

 対極の関係にあるはずの、ルーフォスの性質。
 にも関わらず、彼女は邪神イリスによって洗脳されていた。
 漠然だった規格外さが、確かなものに変わっていく。

「『いずれにせよ、倒さねば……』」

「『何も変わりませんね……!』」

 念話はそこで終わる。
 その瞬間、アロンダイトと魄翼が光の刃を逸らす。

「(出し惜しみはなし。全力を……否、全力以上で打ち倒す!)」

 力の温存など馬鹿らしいとばかりに、サーラは身体強化を全開する。
 本来ならば体に負担が掛かる程の身体強化。
 しかし、神界の法則において、“限界”などあってないようなもの。
 その事を僅かにでも理解し、“今が限界ではない”と思い込みさえすれば……

「(……いける……!本来ならば魔力リソースの10割を使っているにも関わらず、他の魔法も使用可能。体への負担もなく、魔力に限界もない!)」

 このように、ほぼノーリスクで身体強化ができる。
 サーラは特殊な能力などはないが、簡単な自己暗示程度ならば可能だ。
 それにより、本来負担が掛かる身体強化を“造作もない”と断じたのだ。

「ユーリ!……常に、全力以上です……!」

「……はい!」

 サーラの様子を見ていたユーリも、サーラの言葉に力強く頷く。
 同時に、魄翼が隆起するように大きくなり、一対から二対になる。
 それだけでなく、ユーリが待機させていた魔力弾の数が倍になる。

「我らを舐めるな……堕ちた神よ!」

「っ……!あぁ、いいです、いいですよ……!それでこそ、潰し甲斐があります!」

 互いに、先程までよりも力が増している。
 その状態で、再びぶつかり合った。











「輝け、星々よ!」

   ―――“étoile splendeur(エトワール・スプランドゥール)

 司が祈り、並みの砲撃魔法すら容易く凌ぐ魔力弾が降り注ぐ。

「ふん!」

 だが、その魔力弾は気合と共に展開された理力の障壁に阻まれる。

「ッ……!」

   ―――“Delay(ディレイ)

 その瞬間の隙を突くように、奏が背後に回って一閃する。
 しかし、それも掠るだけで、躱される。

「……の野郎……!」

   ―――“Glitter Arrow(グリッターアロー)

 あっさりと凌がれるのを見ながら、帝が魔力を圧縮する。
 帝の膨大な魔力が圧縮された“ソレ”は、矢の形を作り、撃ち出される。

「そこ!」

   ―――“pression(プレシオン)

 避けようとする敵の神。
 しかし、押さえつけるように、司の重力魔法が発動。
 着弾し、確かに直撃する。

「っし、これで……!」

「ようやく、一撃……!」

 そう。戦闘を開始してから、司達はようやくまともに一撃を当てる事が出来た。
 一応、今までに何度か攻撃を命中させている。
 しかし、それは司達自身も理解している、“致命打にならない一撃”だった。
 高威力の一撃を命中させたのは、今の帝の一撃が初めてだ。

「ふん、なるほど……多少はやるな」

「……わかっていたけど、倒せてないね」

「ええ……」

「そりゃあ、あいつの性質を考えればな……」

 司達が対峙した神の名は、“ジャント”。
 金と黒のメッシュの髪に、赤い瞳の強面寄りのイケメンと言った容姿をしている。
 態度が大きく、傲慢な一面もあるが、それは彼の性質故だった。
 彼の性質は“格上の性質”。
 相手の力を上回る事に長け、その“格上らしさ”が性格にも出ていた。
 その余裕故に、自ら司達に自分の名と性質を明かしていた。
 だが、その性質が厄介なのには変わらず、司達の戦力を“上回って”いた。

「反則っつーか……わかっちゃいたが、規格外すぎだろ……」

「ありとあらゆる点で、上回られてる……」

 既に、司のジュエルシードを使った全力砲撃。
 帝の宝具による攻撃もあっさりとそれを“上回る”一撃で相殺された。
 奏の最高速度もそれを“上回った”速度で反応され、防がれた。

「(……これで、先兵だからね……)」

 相手は、エースでも何でもない。
 ただの先兵だと、ソレラは言っていた。
 目の前の男よりも遥かに強い神が、後に控えているのだ。

「……気持ちで負けちゃダメだよ。それこそ、私達の敗北に他ならない」

「……だな。幸いと言っちゃなんだが、俺達も気持ち次第で傷も体力も元に戻る。物理的なダメージや再生と違うせいで、違和感があるけどな」

「でも、そのおかげで今も戦えているわ」

 司達は攻撃を与えるまでに、何度もジャントの攻撃を食らっていた。
 神界の法則を僅かにでも知っていたため、その攻撃のダメージは残っていない。
 無意識下で、“こうなるだろう”と思い込んでいるものに関しては、ちょっと意識する程度では覆しようがないが……戦闘続行には、これで十分だった。

「意識すれば、限界はなくなる。……敵を倒す方法がまだ理解できないけど、好都合な事もあるね。……そうでしょ?」

「そうね。……限界を超えるのが、容易いわ」

「限界を……そうか……!それなら……!」

 今まで、司達は元の世界での全力で戦っていた。
 無意識下で、それ以上の力は抑えていたのだ。
 だが、意識すれば限界以上の力を引き出せる。
 そのことに司と奏は気づいており、帝も今気づいた。

「本来なら、体に負担があって長続きしない事も……ここならノーリスクで使える……!」

「そういう、事っ!!」

「ッ!!」

   ―――“Delay Double(ディレイ・ダブル)

 刹那、司がいくつも転移魔法を発動。身体強化も爆発的に倍率を上げる。
 奏もまた、ディレイを二重に発動させ、一瞬で間合いを詰める。

「はっ!」

 追撃するように、帝も王の財宝、投影魔術を使って剣を飛ばす。
 さらに、干将・莫耶も三セット投擲し、短距離転移魔法で敵の後方に転移する。

「ふん!」

 奏の連続的な超高速機動から繰り出される連撃。
 司の魔力弾や砲撃魔法と、爆発的な身体強化による超高速の刺突。
 そして、帝の武器群と投影魔術による矢の攻撃。
 それらを、ジャントは的確に捌いていく。

「はっ!無駄無駄無駄ァ!いくらスピードを上げたとて、俺を超える事は出来ん!」

「ちっ、本当、チート過ぎるぞ!」

 追いつくように、干将・莫邪が飛んでくる。
 しかし、それらもあっさりと躱され……帝がそれをキャッチ。近接戦に切り替えた。
 
「吹き飛べ!」

「ッ、散開!」

 直後、ジャントは三人の攻撃を転移で躱す。
 さらにばら撒くように、理力による弾幕を放った。

「遅い!」

「ッ……!?」

 そして、三人が避けた所で、ジャントは奏の瞬間速度を“上回った”。
 奏の瞬間速度は今の司よりも速い。
 その奏を上回ったと言う事は、今この場で誰よりも速い事に他ならない。

「はぁあっ!」

「くっ……ぁあっ!?」

「速い!?」

 凄まじい速度で、拳が繰り出される。
 直撃はハンドソニックで防いで避けたものの、奏はその猛攻に大きく後退する。

「人間にしてはかなりの速度だったな」

「ッ―――!」

「だが、俺はそれすら上回る」

 奏の次にターゲットにしたのは司だった。
 一撃、二撃と、繰り出された攻撃を司は何とか防御する。
 しかし、続けられる攻撃はシュラインでは防ぎきれない。
 よって、障壁を張ったが……威力を減衰させるに終わり、吹き飛ばされた。

「なっ!?」

 ほぼ直感だった。
 帝は、奏と司が連続して吹き飛ばされたのを見た瞬間、次は自分だと確信した。
 同時に、防ごうと王の財宝から盾を展開する。

「がぁっ!?」

 威力を減らすという意味はあった。
 しかし、防ぐことは出来ずに吹き飛ばされる。

「っづ……!くそ……!」

 吹き飛ばされた三人は、先程弾幕を躱す前の場所に戻っていた。
 散開したのを押し戻すように、ジャントは三人を吹き飛ばしたのだ。

「速すぎる……!」

「限界以上の強化をすれば、その分相手も強化されるって事……!」

 こちらの力量を上回る性質。
 そんな性質に、三人は完全に翻弄されていた。









「っ……!」

 五つの勢力に分断され、他の四つで戦闘が開始されたのを、ソレラは肌で感じていた。
 そして、目の前に自身が戦う相手が降り立つ。

「……はぁっ!」

 直後、ソレラの手にRPGなどで女神が持つような、神聖な杖を握る。
 そのまま、理力を弾幕として放ち、敵にぶつける。

「まだ……!」

 さらに被せるように、弾幕だけでなく砲撃も追加する。
 その表情は、冷静ではなく、どこか焦りもあった。

「皆さんも、攻撃を……!」

 間髪入れずに、ソレラはなのは達に指示を出す。

「え、でも……」

 容赦なく攻撃を叩き込んでいるのを見て、はやてがそれでいいのかと戸惑う。
 敵がソレラの攻撃を無防備に受けていたのもあって、十分だとも思っていた。

「反撃の余地を与えてはいけません。一気に、最速、最短で戦意を折らなければ、この程度のダメージは簡単に回復されます……!」

「え……?」

 その言葉に、フェイトは何事かと思った。
 ソレラの理力による攻撃は、まるでなのはの砲撃魔法、フェイトのファランクスシフト、プレシアの雷撃を合わせたかのような苛烈さだった。
 それほどの攻撃を“この程度”と断じられたのだ。

「早く……!」

「っ、“パイロシューター”!……“ブラストファイアー”!」

 ソレラの催促に、シュテルが真っ先に思考を切り替えて魔法を放つ。
 包囲するように魔力弾を放ち、砲撃魔法と同時に命中させる。

「ふむ、考えるより手を動かす事が先決のようだな?クロハネ、後子狸!」

「わかっている」

「私、ついでみたいやな!でも、了解やで!」

 続けるようにディアーチェがアインスとはやてに声を掛け、魔法を放つ。
 ちなみにだが、既にはやてはリインとユニゾン済みだ。

「ッ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

「だ、大丈夫?」

「……一気に理力を使いましたから……継戦を考慮しない攻撃だと、さすがに消耗が……」

 他のメンバーが追撃を始めた所で、ソレラは息を切らして膝をつく。
 ユーノが心配して声を掛けるが、かなり消耗していた。

「……ですが、ここからが私の性質を活かせます……。“守られる性質”、私を守ろうとすれば、自ずと力が上昇します……!」

「え、あ……!」

 ソレラから淡い光が放たれる。
 直後、ソレラの前に出ていたメンバーが同じ淡い光に包まれる。
 その瞬間、そのメンバーの弾幕の威力が飛躍的に上昇した。

「なるほど……これは便利ですね……!」

 いち早くその威力向上を把握したシュテルは、弾幕を増やす。
 一発一発が砲撃魔法のような威力を発揮する。
 本来ならばこんな事は出来ない。しかし、ソレラの性質がそれを可能にしていた。

「戦意を挫く……そのためには、相応の意志を込める必要がある……」

「……アリシア?」

 戦闘を観察していたアリシアが、ふとそう呟く。
 同じく適度に弾幕を放ちながらも観察していたアリサが声を掛ける。

「……相手を倒す明確な方法が、よく分からなかったから、ちょっとね」

「……そうね。こうして攻撃を続けてるけど、それで倒せるとは限らない。……何度かここの法則を聞いていたけど、要はあれでしょ?“負けるつもりがなければ負けない”っていう、千日手みたいなものでしょ?」

 アリシアもアリサも、神界での法則の厄介さを理解していた。
 負けるつもりさえなければ、実際負けないのだ。
 例え、圧倒的な力量差で蹂躙され続けようとも、倒れる事はない。
 だからこそ、戦意を挫く必要があった。

「意志を伴った攻撃。言霊が近いけど……ただ言霊をぶつけるだけじゃあ、全く意味がない。必殺の一撃と共に、同等の“意志”を叩き込む。概念とかが形を成しているのなら、一度その存在意義を打ち砕く。……そうじゃないと、倒せない」

「……その、通りです……」

 アリシアが観察していた情報からそう推察する。
 すると、それを聞いていたソレラが肯定した。

「この僅かな間に、攻略の糸口を見つけるとは……さすがですね」

「椿と葵にさんざん鍛えられたからね」

 一筋の冷や汗を流しながらも、アリシアはソレラの言葉に答える。
 ソレラの肯定により、アリシアの推察は確かなものだと決定された。
 ……故に、さらに敵の厄介さが際立った事を、理解したからだ。

「“意志”を挫く“意志”。……これ、なかなか用意出来る事じゃないよ」

「……そうね。今でこそ、皆の攻撃で抑えているけど……」

「っ、いけない……!」

 どうするべきかと悩んでいた時、すずかが声を上げる。
 その瞬間、弾幕の手応えが消えた。

「抜けられた!」

「反撃が来るわよ!」

 弾幕の間にあった、僅かな隙をついて、敵は弾幕の範囲外へと逃げた。
 そして、そのまま反撃に移ろうとして……

「―――させない」

「もう一度墜ちるがいい」

「行かせないよ!」

 フェイト、シグナム、レヴィの三名により、叩き落された。

「“ストラグルバインド”!」

 直後にユーノのバインドが決まり、続けざまに何名かが追加でバインドを放つ。

「反撃は……させない……!」

 あれほどの攻撃を受けて、普通に動く事ができる。
 その事に危機感を覚えたのか、ユーノが拘束を強めようとする。
 その意志が拘束を強化させ、敵を逃がすまいとより強固になる。

「……言霊の応用で、私達がやるべきかな」

「……そうね」

「他の皆は、ちょっと難しいからね。出来る人は別の相手をしてるし……」

 言霊を扱う霊術使いであるアリシア達。
 言霊そのものでは効かないとはいえ、その理論自体は戦意を折るのに適している。
 そのため、アリシア達が致命打を与えるのに最適だった。

「連続で叩き込むには、初めての試みだから不向き。なら……」

「必然的に、一撃になる訳ね」

「でも、たった一撃じゃあ……」

 戦意を挫く一撃。言霊の応用で可能とは言っても、上手く出来るとは限らない。
 連続で放つのは現状不可能なため、一撃では不安があった。

「三撃だよ」

「えっ?」

「私と、アリサと、すずか。同時に叩き込んで強力な一撃にするの」

 簡単に言うが、それは困難なものだった。
 普通に技を同時に叩き込む……のとは、少し違う。
 “意志”をぶつけるには、ほんの僅かなずれも厳禁だ。
 一息の元、完璧に同時に叩き込まなければ、一人分の“意志”を三回叩き込むだけになる。……それでは、足りない。

「……行けるね?」

「……やってやろうじゃないの」

「うん……!」

 だが、()()()()()()()
 そう言わんばかりに、三人はその一撃を用意した。
 僅かにでもタイミングがずれれば、戦意を挫くには足りなくなる。
 しかし、この時のための、修行をしてきた。
 コンビネーションも大門の時より遥かに洗練されている。
 隙は他のメンバーが作っている。一撃を重ねる事ぐらい、造作もなかった。

「……私に合わせて!」

「ええ!」

「うん!」

 三人が同時に飛び出す。
 敵を抑えていたメンバーは、三人の様子を見ていたリニスが念話で何かすると通達していたため、驚く事はない。
 むしろ、タイミングを合わせやすいように、弾幕が止んでバインドが増えた。

「一心、両断!」

「「ッ!」」

   ―――“一心閃(いっしんせん)-三重(みえ)-”

 三方向からの一閃が、完全に同時に決まった。
 一撃では足りない。故に三撃。しかしそれでも足りない。
 だからこそ、完全な同時だった。
 ただ威力が三倍になった訳ではない。
 直撃のインパクト、それが同時だったのであれば、三乗にも近くなる威力だった。

「どう……!?」

 そのため、いくら弾幕を叩き込まれ、平然としていた敵も、放物線を描くように宙を舞い……地面に倒れこんだ。

「ッ……!」

「まだです!」

 しかし、それでも立ち上がろうとし……真っ先に反応した人物がいた。

「はっ!」

「ふっ……!」

 一人はソレラ。まだ倒していなかったのが分かったため、即座にトドメを刺すために理力の一撃を叩き込んだ。
 ……もう一人は、なのはだった。

「な……ぁ……」

 偶然にも、二人の一撃は同時に叩き込まれた。
 そして、それがトドメとなり、敵の神は崩れ落ちた。

「なのは……!?」

「……アリシアちゃん達を見てて、似たような事は出来ないかなって……」

 なのはが放った一閃。それはアリシア達には劣るものの、確かな“意志”があった。
 見様見真似……それに近いもので、なのははその一撃を繰り出したのだ。

「……下地があったから、私達は出来たのに……」

「凄いわね……なのは」

 天才……でも言い表せないような“何か”を感じるアリシア達。
 それほどまでに、なのはは“強くなって”いた。

「……なにはともあれ、これで一人です」

「ようやく一人、ですか」

 ソレラが倒した神の様子を確かめ、安堵したように呟く。
 その言葉に、リニスは苦い表情でそう言った。

「これが神界です。……理解、出来ましたか?」

 初戦から、異常な戦いだった。
 洗礼を受けたかのように、その戦闘はなのは達に衝撃を与えていった。













 
 

 
後書き
“分裂の性質”…文字通りの能力。今回の神の場合は、本当にこれだけ。応用はない。しかし、それでも本人や攻撃を増やせるので非常に厄介。

キクリエ…“分裂の性質”を持つ神。服と性別がなく、中性的な容姿をしている。名前の由来は細胞のギリシャ語とロシア語の組み合わせ。

三重圧陣…文字通り、三重に施した重圧で押し潰す霊術。倍率は三乗される。

ルーフォス…“光の性質”を持つ女神。戦闘にも使える能力だが、光を扱う神の中では弱い方。名前の由来は光のラテン語とギリシャ語の組み合わせ。

“光の性質”…文字通り光に関する性質を持つ。今回の場合、光の武器や高速移動などを使用。戦闘にも使いやすい。

Glitter Arrow(グリッターアロー)…魔力を圧縮し、矢の形にして打ち出す魔法。分類は射撃魔法だが、大魔法すら貫通する威力を持つ。

ジャント…“格上の性質”を持つ。理論上、どんな相手をも上回れるが、完璧に性質を扱えていないため、イリスに堕とされた。傲慢な態度で、如何にも格上っぽい。名前の由来はジャイアントキリングから適当にもじった。

“格上の性質”…対峙した相手を上回る性質。かなり強い能力だが、上回るステータスを間違えると途端に雑魚化する事も。

Delay Double(ディレイ・ダブル)…“重奏”と違い、かつて使ったディレイをさらに重ね掛けに特化させたもの。瞬間的な速さが“重奏”よりもあるが、負担も大きい。当然ながら、トリプルなどさらに重ね掛けが可能。

一心閃-三重-…言霊を応用した、“意志”を挫く“意志”の一閃。その三重。重ね合わせるように同時に放たれたため、一閃の三倍の威力ではなく、三乗に近い威力を発揮した。


唯一名前も性質も不明なまま倒された神ェ……。
仕組みを理解していたソレラがいたために、仕方ない事なんですけどね。
同じ名前の性質の神は複数存在します。例え同じ性質でも神によってその質はピンキリです。 
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