魔法が使える世界の刑務所で脱獄とか、防げる訳ないじゃん。
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第一部
第34話 新年魔法大会 【崩れる】
「はいはーい‼︎ ミオウちゃんでぇっす‼︎ みんな、お弁当食べ終わったかなー⁉︎」
そもそも食べ始めてもいないんだけど。
心の中でそうツッコミつつ、私は手袋を嵌め直す。そろそろ緊張してくる頃だ。私は一度失敗しているからな、ここで順位を落としてしまったら、ただでさえ出番少なくて悲しんでいる囚人達がさらに悲しむ。まぁそれもそれでいいけど。
と言うわけで、優しい琴葉サマは頑張るのであります。
「……おーい、黒華ー。顔がにやけてンぞ、気持ちわりィ」
「うるさいなぁ馬鹿橙条、今凄く気分がいいの、邪魔しないでくれる?」
「更に邪魔したくなった」
「ウザい、黙れ、死ね」
あーウザい。囚人のために頑張るとか、私、馬鹿みたい。
決めた。勝って主任看守部長の座を守る。そしてクソ橙条を顎で使ってやる。跪いて、「ごめんなさい」って言わせてやる。
そうと決まれば勝つだけだ。あんなカスに負ける訳ない。パッと勝って、ビュンッと決勝行って、チャチャッと優勝してやる。
「はーいっ! じゃあ準決勝始めるよー‼︎ ……って言いたいところだけど」
美桜ちゃんの楽しそうな声が急に萎んでいって、暗い声になる。どうしたのだろう、あの子が人前で暗い様子を見せるなんて、今までで一度も無かった筈。
出場者達は準決勝用のフィールドへ繋がる通路で待機しているため、美桜ちゃんの顔を見る事は出来ない。
だが、準決勝の出場者である、橙条、青藍、神白、そして私は美桜ちゃんの異変に気付いて、一斉にフィールドに跳び出す。美桜ちゃんも、私達と同じ頃にここに配属されている為、かなりの付き合いだからこそ、美桜ちゃんが暗いのはおかしいと思ってしまう。
実際、それは正しかった。
「美桜ちゃん」反射的に彼女の名を呼ぼうとした。
だが、その前に鈍い音がして、“目の前の地面に鮮血が散った”為、叫ぶ事は出来なかった。
「———逃げ、ッ」
私の右隣にいる橙条が、か細い声を出す。口元は紅に染まり、彼の腹部には———人の腕が通る程の穴が開いていた。
咄嗟に伸ばした手が、彼の頰に触れる。そして再生魔法を発動し、橙条は元通りになる筈だった。
だが、再生魔法が発動される前に、鈍い感覚がして、直後腕の感覚が無くなった。———腕を切り落とされた。
橙条はそのまま倒れ、地面に血が広がっていく。
橙条が作った血溜まりの中に、私の切断された腕が落ちて、雪みたいに白かった肌が赤く染まっていく。
「———ぁぁぁぁぁぁあああああああああああ‼︎‼︎‼︎‼︎」
痛い、痛い、痛い、痛い。
死ぬ? いや、死なない。そんなに、死ぬ程痛い訳じゃない。腕なんて、再生すればいい。
じゃあ何が痛い?
痛い。
頭が痛くなる程の絶叫。その直後、それを搔き消すかの様に、一つの爆発が起こる。
爆発が起こったのは———一舎代表者席。
要達が、巻き込まれた?
「準決勝は出来ませんよ。だって———ここで、みんな殺されるんですから」
美桜ちゃんを見る。優しい彼女がそんなこと言う筈ない。
「———ああ、なんだ、そういうことだったんだ」
自分のモノとは思えない程の、感情が含まれない、小さな声。
視線の先にいる彼女の後ろに———黒い外套を纏う、青年が立っていた。
魔法無効化。第一魔法刑務所を囲う様に、魔法を発動させる。
「おいで———“絶刃”」イメージによって愛刀を出現させ、腰に提げる。
そのタイミングで、耳を劈く様な断末魔が響き渡る。モニター越しにこの大会を見ていた人達が、殺されたのである。
「……こっちゃん?」
だが、そんな事は関係ない。
青藍が私の腕を掴んで、私を止めようとするが、それを振り払って私は進む。
私は———ヤツを殺す。
「“久し振り”だねぇ、琴葉君」
「私は御前を殺す。———マフィア首領、“黒華湊”」
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