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最後の恋

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第二章

 変事それもこれ以上はないまでのものがおこった、何と市に静かに暮らさせていた信長が本能寺で重臣の一人であった明智光秀に討たれたのだ。
 この時嫡男であり跡継ぎだった信忠も二条城で明智に討たれそのうえで織田家のそして市の先はわからなくなった。
 明智は羽柴秀吉に討たれ清州城でこのことが話されることになった、その結果信長の嫡孫つまり信忠の子である三法師が織田家の主となり信長の次男である信雄が後見人となったが実質は明智を打ち信長の仇を取ったことにより大きな名声を得てそこから力も手に入れた羽柴秀吉が第一の者となっていた。
 この時信雄は自分が織田家の主即ち天下人になると思っていたがそれは違っていたのだ。そしてこのことがわかっていた信長の三男である織田信孝は自分が織田家の主になろうとしたがそれは適わなかった。
 だがこのことについてだ、彼は自分と共に羽柴と対立する立場となった柴田勝家に言った。
「権六、わかっておるな」
「はい、このままではです」
 柴田は濃い髭で顔の下半分が覆われ強い光を放つ目で信長によく似た整った顔立ちの信孝に応えた。
「猿めが天下を乗っ取ります」
「そうなる、何故兄上はわからぬ」
 信雄、彼はというのだ。
「前よりどうにもという方だったが」
「それどころかです」
「五郎左達もな」
 織田家にとって柴田と並ぶ重臣である丹羽長秀そして池田恒興もというのだ。
「何故わからぬ」
「殿が本能寺で倒れられて我を失っておるか」
「そうかもな、しかし猿はな」
「織田家でなくですな」
「自分がな」
「そう考えています」
「だからじゃ」
 それでと言うのだった。
「我等はじゃ」
「ここはですか」
「そうじゃ、猿を倒すぞ。その為にな」
 柴田に対して言うのだった、清州城での話し合いは終わったがそれで終わるとは誰も思っていなかった。
 それでだ、信孝も言うのだ。
「お主の力を借りたい」
「織田家の為に」
「そしてその為にな」
 信孝は柴田に自分の考えを話した、そしてだった。
 叔母である市のところに急いで向かってだ、深々と頭を下げて頼み込んだ。
「どうかです」
「私にですね」
「そうです、叔母上のお考えは存じています。ですが」
「織田家の為に」
「叔母上も猿のことはおわかりでしょう」
「はい。あの者は」
 市も冷静であった、それで信孝に曇った顔で話した。
「織田家を盛り立てるのではなく」
「自分が天下人になるつもりです」
「父上の天下を奪い取り」
「だからですね」
「どうか権六とです」
 柴田、彼とというのだ。
「夫婦になって頂けますか」
「そうしてですね」
「はい、織田家をお助け下さい」
 柴田を織田家の一門に組み込みその立場と忠義を確かにして羽柴と戦う力になってもらう為にというのだ。 
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