戦国異伝供書

「いいことですが」
「機をですね」
「見るべきことです」
　こう主に言うのだった。
「越後は都から遠く」
「関東のことがあり」
「そしてです」
　そのうえでというのだ。
「一向一揆もです」
「まだいますね」
「あの者達が上洛の途中に阻んでくるやも知れないです」
「だからですね」
「どうしてもです」
　頃合い、それを見てというのだ。
「されるべきです」
「左様ですね」
「さもないとです」
　それこそというのだ。
「厄介なことになります」
「やはりそうですか
「はい、ただ殿のお心を天下に知らしめる為には」
　幕府を立てそこから天下泰平を取り戻そうとするその考えをというのだ。
「まことによいことなので」
「だからですね」
「是非共です」
「上洛自体はですね」
「されるべきです、上杉様から今言われたことも」
　このこともというのだ。
「縁でしょう」
「それ故にですね」
「このことを大事にして」
　そしてというのだ。
「必ずです」
「上洛を果たす」
「そうしましょう」
「その際ですが」
　宇佐美も言ってきた。
「主な家臣達を連れて」
「そうしてですね」
「上洛し」
　そしてというのだ。
「そのうえで、です」
「さらにですね」
「留守もです」
　そこもというのだ。
「確かなものにし」
「そのうえで」
「はい、上洛すべきです」
「その通りですね」
「やはり、ただまことに」
「この度の上杉様のお話は」
「よいこととです」
　その様にというのだ。
「それがしも思いますので」
「では」
「何時かそうしましょう」
「いや、まさかです」
　柿崎も笑って言ってきた。
「上洛となるとは」
「まだ先にしても」
　本庄も言うことだった。
「素晴らしいことです」
「その時は我等もお供して」
「公方様にお目通りをですね」
「都にも参って」
「そうなりますね」
「そうです、ではその時のことも考えつつ」
　景虎は家臣達にあらためて話した。
「今我々がすべきことに励みましょう」
「わかり申した」
　家臣達は皆景虎の言葉に頷いた、そうして上洛を見据えつつも今は自分達がすべきことに励むのだった。


第三十八話　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　２０１９・２・１５