戦国異伝供書
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第三十八話 意識する相手その八
「問題はです」
「小田原城ですか」
「あの城は天下一と言ってまでの堅城です」
だからだというのだ。
「そうおいそれとはです」
「攻め落とすことはですね」
「出来ないです」
例え景虎でもというのだ。
「十万の兵を用いても」
「十万でもですか」
「あの城は他の城と違いますね」
「はい、城だけでなく街全体をです」
本来は城下町といい城の下に街がある、だが小田原城はというのだ。
「堀と城壁、石垣で囲んでいます」
「その為非常に大きく」
「兵糧の備えも常にかなりです」
「だから籠城されますと」
「もうそれで、です」
「攻め落とせなくなるのというのですね」
「ですから」
それでというのだ。
「あの城を攻め落とすことは」
「無理でもですか」
「その時は諦めて」
そうしてというのだ。
「越後に戻られて下さい」
「わかりました、ただこの度は」
「小田原まではですか」
「攻め入ることはないでしょう」
こう直江に言うのだった。
「やはり相模まで攻め入りたいですが」
「この度はですね」
「上野を攻めて」
「そうしてあの国にですね」
「上杉様の場所を取り戻す」
「それを為すことですね」
「そうなります、そして」
景虎はさらに話した。
「また別の機会になるでしょう」
「相模に攻め入るのは」
「そうなるでしょう、では」
「今はですね」
「上野に兵を進めます」
こう言ってだ、景虎は出陣した。そうして実際にだった。
上杉家の城を幾つか取り戻しそれを定実に譲り渡した、だがここで戦の流れはこれまでと見て越後に戻った。
そうしてだ、春日山で客人となってもらっている定実に話した。
「本来なら相模まで攻め入られなばなりませんが」
「いや、とんでもない」
景虎の今の言葉にだ、定実は仰天して述べた。
「相模までは」
「とてもですか」
「それがしも考えていませんでしたぞ」
「そうですか」
「確かに北條は憎き敵ですが」
それも代々となっている。
「そこまではとても」
「ですから」
この度はというのだ。
「それだけに留まりました、ですが」
「次の機会はですか」
「必ずです」
景虎は定実に強い声で話した。
「相模まで攻め入り小田原の城も」
「いや、あの城は」
定実もこう言うのだった。
「幾ら何でも」
「攻め落とせないとですか」
「あの城は他の城と違います」
「街が、ですね」
「そうです、ですから」
このことも直江と同じことを言うのだった。
「幾ら何でもです」
「攻め落とせず、ですか」
「あの城を攻め落とすなぞ」
それはと言うのだった。
「それこそ天下の軍勢を集めないと」
「十万の兵でもですね」
「関東の兵を集めれば十万はいましょう」
それだけの数になるというのだ。
ページ上へ戻る