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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第二百二十六話 マダム=バタフライその三

「そうでしたし」
「当時はそうした話もあったな」
「それで外国の人と結婚するとかは」
「お吉さんもそうだったしな」
「実際に蝶々さんみたいに」
「否定されていたな」
「そうみたいですね、蝶々さんもでしたけれど」
 味方は侍女のスズキしかいないという状況になっていた、その為第二幕では蝶々さんには寂しさもある。
「お吉さんなんかは」
「知っている、酷い話だ」
「そうですよね」
「ああした話は繰り返してはならない」
 井上さんは強い声で言った。
「蝶々さんの様な話もな」
「ええ、本当に」
「だからこそだ」
「ピンカートン中尉に実際に会ったらですか」
「言わずにいられない」
「そうですか」
「間違いなく彼の家は暗いものだろうがな」
 蝶々さんのことが影を落としてだ。
「例えご子息を大事に育ててもな」
「多分大事に育てているでしょうね」
「あの中尉は軽薄だが外道かというとな」
「違いますね」
「外道なら第二幕でも平然としている」
 自分がしたことを指摘されてもだ。
「何とも思わない」
「世の中そうした人間もいますね」
「当時はキリスト教、白人主観の倫理観が主流だったが」
「それでもですね」
「まだあの人はその中でな」
「人種的偏見とか少ないですか」
「そんな感じもするしだ」
 極端なものになるとクー=クラックス=クランになる。もっともこの組織も創設者はやがて過激化する組織と離れ白人と黒人の融和を主張する様になった。
「まだな」
「ましですか」
「少なくとも大戦中日系人を迫害した者達よりはな」
「ましですか」
「私はあの時のカルフォルニアの知事にもだ」
「実際に会ったらですか」
「言わずにいられない」
 ここでも井上さんの声は厳しかった。
「当時の自分をどう思うかとな」
「厳しいですね」
「あのことで多くの日系人が苦しんでだ」
 収容所にまで入れられてだ。
「死んだ人もいる、つまりだ」
「多くの日系人を殺しもしたんですね」
「人種的偏見を剥き出しにしてな」
 このことは当時のその人の発言を見ればわかる、法律家とは思えない主張をしたうえでジャップという差別用語まで平気で使っていた。
「そうしていたからな」
「だからですね」
「言わずにいられない」
「何でも当時のことを反省していたそうですけれどね」
「後になってな」
「それで公民権運等の時は」
 黒人の権利拡大の話だ、キング牧師やマルコムエックスが活躍している。
「最高裁判事としてです」
「大きな貢献をしているな」
「そうなんですけどね」
「十万の日系人を苦しめた人が二千万の黒人を救った」
「何か複雑ですね」
「それがアメリカなのかも知れない」
 井上さんは複雑な顔になりこうも言った。
「そうも思うが」
「それでもですか」
「本人に会ったならな」
 その時はというのだ。
「言う」
「絶対に」
「もうその人は亡くなっているが」
 二十世紀初頭に生まれた人だ、もう故人となっている。 
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