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天体の観測者

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レーティングゲームⅠ

 VIPルームにてウィスが静かにモニターを見据える。
 その深紅の双眸が見据えるはこのレーティングゲームの行方か、それとも全くの別の何かか、それはウィスにしか知り得ない。

「……」

 想像するだけでも面白い。
 相手を格下と見下し、侮り、己の優位を疑わず、自身の勝利を確信していた者の足元が掬われる瞬間は痛快だ。

 もし仮に、リアスとその眷属達の潜在能力の高さを理解し、自身と眷属達の力を今日まで鍛え続けていれば、結果は変わっていたかもしれない。

 だが、ライザー・フェニックスは早々にリアス達に見切りを付け、己の力を過信した。
 彼は平時の無駄な思考を続け、延々と益体の無い妄想に耽るだけであった

 勝利の渇望の放棄
 思考の忘却

 即ち、それは紛れもない『慢心』に他ならない。

 しかし、これは祝うべきことでもある。
 ライザーは遂に『挫折』の何たるかを理解することになるのだから

 オカルト研究部で出会った当初から、ライザーがフェニックスの力を絶対視し、慢心していることは誰の目に見ても明らかであった。

 フェニックスの力は絶大だが、絶対ではない。 
 打倒する術など幾らでも存在する。
 リアス・グレモリーが滅びの魔力を極限にまで極めれば勝つことは不可能ではないのだ。


『それでは、レーティングゲームを始動します』


 司会進行役であるグレイフィアの声が響く。
 両陣営の眷属達が戦場へと足を運び、遂にレーティングゲームが始まった。

 そして驚くべきことに王であるリアス・グレモリーが即座に動き出し、敵陣営の王であるライザー・フェニックスの本拠へと飛翔していく。
 眷属である朱乃達は各自がリアスの指示に従い、戦場へと向かう。
  
 モニター越しにサーゼクスとグレイフィアの両名が驚愕を隠せない。
 レーティングゲームの勝敗を左右する王が敵陣営の真っ只中へと向かう、その愚行に言葉が出てこなかった。


─ レーティングゲームの序盤にてリアス・グレモリーとライザー・フェニックスが対峙する ─







▲▼▲▼







 塔城小猫 vs 雪蘭(シュエラン)

 駒王学園の体育館にてリアス・グレモリーの『兵士』の一誠と『戦車』の小猫が戦闘を繰り広げる。
 相手はライザー・フェニックスの眷属である『戦車』の雪蘭と『兵士』であるミラ、イルとネルの4人だ。

 だが、戦況は終始、一誠と小猫の2人に優位な状況で進んでいた。

 ライザー眷属である彼女達は確かに強かった。
 彼女達からは鍛錬の成果が伺え、10日前の自分達では敵わなかっことは認めよう。

 しかし、余りにもウィスが規格外過ぎた。
 修行期間である10日間、修行を施してくれたウィスの足元にも及ばない。
 速度・膂力・その全てがウィスは理不尽なまでの強さを誇っていた。

 そして、王であるリアスの指示により身体の重りを外した今の小猫は先程とは一線を画す戦闘力を誇る。

「次で決めます。覚悟してください。」
「……くッ!?」

 今の子猫には相手の戦車の動きがまるで止まって見える。
 その動きは余りにも緩慢で、移動速度が遅過ぎた。

 当たらない。
 『戦車』である雪蘭の攻撃が掠りもしない。
 子猫は必要最低限の動きで、敵の攻撃を躱す。

「……ほい」

 小猫は大きく一歩足を前方へと踏み出す。
 拳を強く握り締め、一瞬だけ仙術の力を使用し、全身の力を満遍なく伝えた一撃を直撃させる。

 ウィスとの修行でこれまで以上に体の遣い方を学び、自身の姉である黒歌には仙術の手ほどきを受けた。
 今の小猫の実力は10日間まえよりも飛躍的に伸びている。
 今の小猫は一時的に仙術の行使が可能だ。

 まだ、姉との確執が解決したわけではない。
 だが、今は過去の姉との確執よりも自分を救ってくれたリアス部長の為にこの力を遣うと決めたのだ。

 今も仙術を行使することに恐怖を感じないと言えば嘘になる。
 しかし、ウィスとの修行で如何に自分の力が矮小なものなのかを実感し、以前よりこの力に対する恐怖は和らいでいる。
 ならば今は、この力を一時的にでも遣い、相手を殲滅することに専念する。

このレーティングゲームに勝ったらこれまでにウィスと何があったのか聞かせてもらいますからね、黒歌姉様


「か…は…!?」

 先ずは急所である鳩尾
 続けて、顎へと掌底を叩き込み、脳を揺らすことで脳震盪を起こし、意識を朦朧とさせる。
 決して、敵である雪蘭に反撃の隙を与えない。

「止めです」

 小猫は意識が朦朧とし、ふらついている雪蘭へと無数の拳の連打を打ち込む。
 再び仙術の力を身体へと一瞬だけ漲らせ、全身の力を一点に集中させた必殺の拳を叩き込んだ。

 その威力は凄まじく、雪蘭は体育館の壁へと激突し、大きなクレーターに沈み込む。
 雪蘭の身体から粒子が溢れ、虚空へと消える。

『ライザー・フェニックス様の戦車1名、リタイア』

 グレイフィアの戦況を伝える無機質なアナウンスが周囲に響き、塔城小猫が勝利を収めた。



「やったな、小猫ちゃん!」
「触らないでください、一誠先輩。」

 喜びの余り一誠が小猫の肩に触れようとするも、小猫に避けられてしまう。

 見れば向こうでは一誠の洋服崩壊(ドレス・ブレイク)により衣服を吹き飛ばされ、泣いているライザーの眷属達がいた。

 何と酷い光景であろうか。
 正に一誠の欲望が具現化した必殺技である。

 どうやらウィスの名の下行われた地獄の特訓は彼にこの破廉恥極まりない技の習得を後押してしまったらしい。
 小猫は洋服崩壊(ドレス・ブレイク)の存在を嫌悪しているようだ。

「外に出ましょう、一誠先輩」
「わ、分かった、小猫ちゃん」

 一誠は小猫の剣吞な雰囲気に圧されながらも彼女の言葉に従う。

 突如、一誠が突如、地面に減り込み、深く埋没する。
 強大な重力がその身に降りかかり、一誠の身は地面に深く沈んでいった。

『一誠』
「す、ずみまぜん、ウィスさん……!」

 地面とキスした状態で一誠が謝罪する。
 途方も無い重力の圧力に顔が上がらない。

『今のは女性に対して余りにも酷すぎる技ですね』
『今後、使用する時には相手の武装を破壊することだけに止めてください』
「しょ、承知しました……!」

 死の恐怖を感じた一誠が即答する。

「一誠先輩、反省してください」
「はい、小猫ちゃん、申し訳ありませんでした」

 小猫の突き刺す様な視線に耐え切れず、一誠がまたしても謝罪する。
 今のは明らかに自分が悪かった。

 正直な話、洋服崩壊(ドレス・ブレイク)を使用しなくても相手には勝てたのだ。
 ウィス自身、そのような戦法で自分が勝っても素直に喜べないだろう。

 10日間も修行を施した弟子が相手の衣服を剝ぎ取り勝利する。
 自分がウィスの立場であったら……

うん、酷過ぎる

 ウィスが怒るのも無理はない。
 怒って当然だろう。

「やっちまったなぁ……」
「一誠先輩、行きますよ」
「はい、小猫ちゃん」

いや、本当にすみません

 猛省する一誠と小猫の2人がその場から離脱し、木場の援護へと向かう。
 体育館は既に朱乃の手によって爆破され、何も残ってなどいなかった。





 雷の巫女・姫島朱乃 vs 爆弾女王(ボムクイーン)・ユーベルーナ

 体育館の上空では両陣営の女王である朱乃とユーベルーナが対峙する。
 魔力同士がぶつかり合い、ユーベルーナが上空より眼下の地面へと墜落した。

 地面にはクレーターが出来上がり、周囲に爆煙が巻き上がる。
 朱乃は上空より敵の女王を見下ろしている。

「雷の巫女、これ程の実力とは……!」

 息を乱しながら、ユーベルーナは宙に浮遊する朱乃に対して挑発的な笑みを浮かべる。

「でも、貴方の魔力も余り残っていないようね」
「ご心配なく、まだ余力が残っておりますわ」

 ユーベルーナは依然として余裕を崩さない。
 無論、朱乃もまだ余力は残し、戦局は完全に朱乃へと傾いている。

 ならば相手のこの余裕は何なのか、朱乃は怪訝な表情を見せる。

「ふふ、そんな余裕なんてあるのかしら?」
「それは……」

 懐より取り出されるは一本の瓶

「どうやら此方の方が上手だったようね」
「ま、まさか……」

 ユーベルーナが取り出したのは"フェニックスの涙"
 如何なる傷も癒すことが可能な代物だ。

「ガッカリしたかしら?」
「まさか、こんなことが……」

 文字通り、ユーベルーナが全快の状態で復活する。
 形勢逆転された朱乃が悔し気に表情を歪め、ユーベルーナを睨み付ける。

 予てよりフェニックスの涙を準備し、形勢逆転に成功したユーベルーナは内心でほくそ笑む。
 傷だらけであった自分の身体の傷は癒え、全快した。

 愛する王であるライザーより頂いたフェニックスの涙を遣い、敵を追い込んだのだ。
 対する雷の巫女はまだ余力は残しているが、圧倒的に此方が有利であり、負ける要素など見当たらなかった。 


勝った

この勝負我々の勝利だわ!


 ユーベルーナは自身の策が成功したことに口元の笑みを深め、勝利を確信する。
 気を抜けば高笑いをしてしまいそうだ。

 雷の巫女を撃破した後は、残党を始末してしまおうと既に勝利を疑っていないユーベルーナに……






「なんちゃって」
「……は」

 朱乃の声が届いた。

「なんちゃって、ですわ」
「……は?」

 呆けた声を上げるユーベルーナに対して朱乃は笑みを浮かべる。
 雷の巫女は先程と変わらず、余裕を崩すことなく超然とした態度で宙に浮遊する。

「まさか、本気で私が全ての手札を切ったと思っていたのかしら?」

 朱乃はライザー陣営がフェニックスの涙を使用してくることは予め予測していた。
 リアスからの忠告もあり、朱乃はフェニックスの涙に常に注意していた。

 敵がフェニックスの涙を使用し、形勢が逆転されてしまわないように
 例え、フェニックスの涙が使用されても、余力を残しておくように
 朱乃は終始、全力の半分以下の力で戦っていたのだ。



「見せて差し上げますわ」

 朱乃は両手を腰で構え、拳を強く握りしめる。
 真紅の瞳を細め、身体より魔力を放出する。

「私の真の力を」

 体内で魔力を高め、堕天使の力を解放する。
 全身より雷のスパークが迸り、朱乃の力が急激に上昇していく。

 大気が震え、大地が揺れ、風が吹き荒れる。
 VIPルームにて観戦するサーゼクス達は朱乃の実力に感嘆し、校庭で戦闘を行う一誠は言葉が出なかった。

 眩い閃光がユーベルーナの視界を奪い、周囲を照らし出す。
 今なお朱乃の力は上昇し続け、金色のスパークが大気を走っている。

 途端、眩い閃光がフィールド一帯を包み込み、ユーベルーナが前方を見た瞬間、驚愕した。
 
 その身に纏うは金色のスパーク
 全身から魔力と雷光を放出させ、先程とは一線を画す力を朱乃は周囲に波及させる。

 今ここに、真の力を解放した朱乃がユーベルーナと最終決戦を迎えた。 
 

 
後書き
ユーベルーナ「此方にはフェニックスの涙があるのよ」
朱乃「それは……!」
ユーベルーナ「ふふふ……」
朱乃「ま、まさか……」
ユーベルーナ「ガッカリしたかしら?」
朱乃「まさか、こんなことが……」
ユーベルーナ「ほ───っほっほっほ!!」
朱乃「畜生、畜生ですわ───!!」


朱乃「なんちゃって☆」
ユーベルーナ「……は?」 
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