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戦国異伝供書

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第三十六話 越後の次男その七

 こうして虎千代は還俗してだった。
 父の枕元に来た、為景はその我が子に言った。
「そなたこれを機にだ」
「何でしょうか」
「元服してだ」
 そのうえでというのだ。
「諱を名乗るがよい」
「その諱は」
「景虎とせよ」
「長尾景虎ですか」
「それがそなたの名になる」
 諱はそれだというのだ。
「よいな」
「はい、それでは」
「そしてだ」
「これからはですね」
「そなたの武でだ」
「長尾家、そして越後の国と民を」
「守れ」
 是非にと言うのだった。
「よいな」
「わかりました」
「そしてだ」
 為景は景虎にさらに話した。
「お主御仏は信じておるな」
「心より」
「毘沙門天だったな」
「毘沙門天の如く魔を降し」
「そしてじゃな」
「天下の乱れをなくしたいと考えています」
「天下か」
「越後を治めて」
 そうしてというのだ。
「出来ればです」
「この乱れに乱れた天下をか」
「毘沙門天の降魔のお力で」
 それを以てというのだ。
「是非です」
「天下を正したいか」
「そうも考えています」
「そうか、それがそなたの想いか」
「日々毘沙門天に手を合わせ」
「願ってか」
「誓っています」
 そうもしているというのだ。
「今は」
「そうなのか、ではだ」
 為景は景虎のその言葉を聞いてだった、床に伏したまま我が子の顔を見てそのうえで言うのだった。
「そなたはそうせよ」
「宜しいのですか」
「お主の誓いはわかった」
 だからだというのだ。
「それならだ」
「その様にですね」
「生きよ、そしてだ」
「そのうえで」
「お主がそう思うならな」
「その志をですか」
「果たせ、そしてじゃ」
 そのうえでというのだ。
「この天下そうしたいならな」
「降魔の力で泰平に致します」
「ではな」
「はい、ではこれより」
「その剣振るうがよい。ただ」
 為景は景虎にこうも言った。
「お主は戦国の世に生きるには真っ直ぐ過ぎる」
「だからですか」
「そうだ、だからだ」
 それでというのだ。
「そこを付け込まれぬ様にな」
「そこは注意すべきですか」
「おそらくお主は謀は不得手」
 為景は既にそのこともわかっていた、それで言うのだ。
「ならばその真っ直ぐな心と剣でだ」
「謀をですか」
「断ち切って進め」
 そうせよとも言うのだった。 
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