ある晴れた日に
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166部分:共に生きその十六
共に生きその十六
「何かどっちも相当派手なやつだよな」
「しょっちゅう上演されてるよ」
「その二つよりも有名なのか」
「向こうじゃね。もう何かっていうと助六らしいし」
「東京の話はよくわからねえけれどな」
関西にいるせいだった。実は正道にしろ竹山にしろ関東には暗い。
「そんなものか」
「そうだよ。ところでさ」
「ああ」
「これからどうするの?」
不意に話を変えてきた竹山だった。
「これから。もう夜だけれど」
「んっ!?帰るけれどよ」
「何なら晩御飯どう?」
「晩御飯!?御前の家でかよ」
「うん、ここでね」
こう言ってきたのであった。
「どうかな。よかったら」
「ああ、それはいいさ」
正道はこの申し出は断ったのだった。その右手を横に振って。
「それはな」
「いいんだ」
「幾ら何でも図々しいだろ」
そしてこう言うのだった。
「歌舞伎を見せてもらってダビングさせてもらってしかも菓子にコーラまで御馳走になってよ」
「大したことじゃないけれど」
「自分で大したことじゃないっていうのは相手にとってはそうじゃないんだよ」
正道は言った。
「それはな」
「そんなものかな」
「そうだよ。だからな」
「うん」
「これで退散させてもらうさ」
実際にここでギターを手に取るのであった。
「これでな」
「そう。じゃあまた明日ね」
「ああ・・・・・・っと」
ここで彼は動きを止めた。立ち上がろうとしたところで。
「そうだ、一つ忘れていたよ」
「何?」
「助六。ダビングしないと」
「はい、これ」
早速DVDを出してきたのであった。丁寧にケースの中に入れてある。
「どうぞ」
「えっ、これか!?」
「そうだよ。ダビングしたやつね」
見ればケースにちゃんとそういうことまで書かれてあった。
「これがね」
「もうあるのか」
「驚いた?」
「驚いたっていうかよ」
少し口を尖らせて言う正道だった。
「もうあったのか」
「話している間にちょっとね」
竹山は少し笑って言ってきた。
「ダビングしていたんだ」
「早いな」
「時間があればできることはしておくんだ」
竹山は言う。
「だからね」
「御前も結構しっかりしてるんだな」
「そうかな」
「そうだよ」
正道はその竹山に対して告げた。
「自分でそうじゃないって思ってることが相手にとってはそうなんだよ」
「さっきと同じ言葉だけれど」
「けれどもだよ」
彼は言うのだった。
「それはな。あるんだよ」
「ふうん」
「まあとにかくな」
正道は話を戻してきた。
「とりあえず皆でも観ような」
「音楽、くれぐれも御願いするよ」
「ああ、わかってるさ」
竹山の言葉に応えながら彼の家を後にする。これがあらたな話のはじまりであった。彼ともう一人の。
共に生き 完
2008・12・31
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