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人類種の天敵が一年戦争に介入しました

作者: C
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第18話

 
前書き
 お久しぶりです。
 リアルで色々ありまして、更新するのは半年ぶりですかね。

 すっかりエタ臭ただよう拙作ですが、なんとまだ読んでくださる方々がいるのですよ。

 ありがとうございます。

 

 
 腕前を見たいと言われてレンチェフが連れて来られたのは、格納庫。ジオンのモビルスーツに比べるとずっと小さいモビルスーツ、ストレイド曰くのACが数十機も並ぶ中、少し離れた一画にそれも並んでいた。

 史上初の実戦モデルのモビルスーツ、歴史を変えた新兵器。後継機である新型ザク、MS―06の配備に伴い、旧ザクとも呼ばれるようになったソレ。

 MS―05 ザクⅠ

 野良犬、レンチェフ、女兵士の三人はエレカに乗ってACの前を素通りし、真っ直ぐザクⅠの正面へ向かい、

「この先だ」

 そしてザクⅠの前を通り過ぎた。

「……ちょ、待て待て待て待て待て」

 慌てて声を上げ、運転席にいた野良犬の腕を掴んだのはレンチェフだ。

「運転中に掴むな。危ないだろう」
「んなこたぁどうだっていい! ザク過ぎたぞ! 後ろのアレだ、アレ」


 エレカを止めた野良犬はバックミラーでレンチェフの指差す緑の巨人を一瞥すると、一つ頷いてアクセルを踏んだ。

「そうだな」
「……だから待てって! 俺はザクに乗る為に来たんだろ!?」
「そうだ」
「そうだ!? 今すっげぇ勢いでザクから遠ざかってんだが!?」

 腕前を見せろと言いつつ乗せる予定のザクに乗せないとはなんなのか。

「それなら何のテストなんだ? 俺は生身の白兵や射撃も得意っちゃあ得意だが、爆発物はせいぜい『使える』くらいだぞ。ガスなんてお手上げだ。お宅らと違って、俺はプロのテロリストじゃねぇんだ」
「安心しろ、ミスターが今日乗る機体は別にある。モビルスーツはザクだけではない」

 数分後。
 ストレイドは自慢気に腕を広げた。

「さて、これがミスターに今回乗ってもらうモビルスーツだ」

 隔壁と通路をいくつか通った先にある別の格納庫……の更に先。地下施設とは思えない広さの基地をエレカで走り、実は野良犬は道を間違えているのではないかと考えた辺りでようやく辿り着いた区画に、それはあった。
 赤茶色、黄色、灰色でぐちゃぐちゃに染められたモビルスーツ。鉄色に囲まれた格納庫の中では荒れ地用の迷彩が一際異彩を放っているが、重要なのはそこではない。
 頭部の正面を十字に走るモノアイレール。スカートで覆われているものの、推進機が配置されていることがわかる腰回りと脚部。パーツの一つ一つは太く、下に向かって広がる三角形をイメージさせる配置は重厚な安定感を窺わせる。
 どこを切っても、レンチェフの見慣れたザクの系譜を感じさせない機体。

「これは……完全な新型機……なのか?」
「その通り」

 ストレイドはレンチェフの疑問に答えると、情けない一言を付け加えた。

「多分」
「多分?」

 ストレイドは頬を掻いた。

「……私達は、モビルスーツのことはよく知らないんだ。使ってるのはACやMTだから。これの開発にも協力したけど、リリアナとして協力しただけで、私自身が協力したわけでも詳しいわけでもないんだ」
「……あんた、自分で団長だって言ってたよな?」
「私の場合、団長というのは名前だけ。一番強い奴くらいの意味しかないんだ。私は前の団長の個人的な相棒ってだけで、リリアナとほとんど無関係だったから」
「無関係でトップになれたのか!?」
「ほとんどって言ったろ? 少しは関係あったんだよ」

 少しというのは、互いに殺し殺されという関係である。ストレイドが一方的に殺しまくるだけで、リリアナは一矢報いることも許されなかったが。

「で、本当にいろいろあって団長が死んで、なんだかんだで私が跡を継いだわけだけど、組織運営とかわからないから」

 ストレイドは人殺しの次に家事が得意だが、家計は回せても組織を回す才能は欠けていた。本人に自覚があったのは本人にとっても周囲にとっても幸いだったろう。ストレイドはリリアナの頭となったが、おかげで組織運営に口を出すことは殆どない。
 つまりストレイドとリリアナの関係とは、組織の支援を欲した最強のテロリストと最大戦力を失った組織が手を結んだ、いわゆる幸福な結婚と呼べるものだ。その結果が人類の過半数が死ぬという大惨事となったのは、幸福と言って良いか判らないが。

「そんなわけで、こいつに関しての説明は得意な人に任せる! 私は私の得意な事を準備するから、ミスターはこいつに乗ってリフトで上に。テストは簡単、私達の中でも選りすぐりの連中が指定座標を目指して移動するので、付いて行ければ合格、脱落するようならアウト」

 それを聞いたレンチェフの口元が歪む。

「簡単に言うな、慣らしもないのかよ」
「道中で慣れてくれ」

 あっさりしたストレイドの言い様だったが、レンチェフはその中に違和感を覚えた。指定座標の移動中に機体に慣れろ。それではまるで、移動先で何かあるようではないか。
 レンチェフの疑問に大きく頷くストレイド。

「ある!」
「あるのかよ」
「ざっくり説明すると、私が地中海の東側で働いたので、巻き込まれたくない連邦軍艦隊の生き残りがジブラルタル沖に集結しているらしい」
「ふん」
「それを叩く」
「……はぁ!?」
「心配御無用、殺るのは私。ミスターは他のみんなと一緒に移動して、指定座標に設営中の補給拠点を警護」
「……焦らせるなよ、いきなり実戦かと思ったぜ」

 安堵するレンチェフだが、現実は常に期待を粉砕する。ストレイドの答えはまさにそれ、しかも内容は太鼓判だった。

「正直、実戦はあり得る。ここから中東、北アフリカ一帯を私達は実効支配しているけど、それは域内に連邦軍が存在しないことを約束しない。なにより、半地下のここと違って補給拠点は隠蔽してないから、連邦軍にとっては唯一判明している私達の拠点かもしれない」
「敵襲必至じゃねぇか!」
「しかも他の仲間達には、可能な限り敵はミスターに回せと伝えてある」
「イジメか!」
「入団テストだ。リリアナであれ戦闘団であれ、足を引っ張るヘタレは必要ない」

 その言葉をきっかけに、格納庫の中の空気が変わった。見た目だけならそこらの青年と変わらないストレイドだが、その中身は理想というバグで暴走した最強の殺戮機械だ。目的の為に全てを犠牲に出来る意思と、破壊して来た実績と、押し通してきた自信が、見えない圧力となってレンチェフへとのし掛かり、その心臓を絞り上げる。
「……わかっ、た」

 回れ右して走り出したくなる衝動を辛うじて抑え込むと、レンチェフはどうにかそれだけを口に出した。

「期待している。シマはいつものようにオペレーターだ、管制機に乗ってくれ。ミスターは後輩になるのだから、しっかり面倒を見るように」

 ストレイドはレンチェフの返事に頷くと後ろに控えている女性兵士にも指示を出し、格納庫の更に奥に向かって走って行った。同時に霧散するプレッシャー。

「……ぷあぁっ……ふーっ……ふーっ……なんつー迫力だ。あいつ、一体なんなんだ!? 人間じゃないんじゃないか」

 ストレイドの姿が見えなくなると、レンチェフは酸素を貪りながらぼやいた。軽く頭を振りながらふと後ろに目をやると、まとめてプレッシャーに晒されたのか女性兵士も青い顔をしている。同病相憐れむというわけではないが、同じ境遇にある人間として親近感というか連帯感を覚える。

「あんたも大変だな。ええと、シーマ……だったか? まさかと思うが海兵隊じゃないよな?」

 海兵隊のボスとして悪名を轟かせているのはシーマ・ガラハウ少佐だ。その存在をレンチェフは名前しか知らないが、目の前の女性兵士はどう見ても同名の別人だろうと思えた。独立重駆逐戦闘団というかリリアナの基地に来て以来、常に予想の斜め上しか体験しなかったレンチェフだったが、さすがに今回は普通の展開だった。

「私は海兵隊のシーマではありません」
「だよな」

 海兵隊の悪行は軍内部でも問題になっているほどなので、そんな集団のボスと同僚というのは勘弁願いたいレンチェフは、女性兵士の返事に胸を撫で下ろした。ただでさえ、レンチェフは最悪のテロリストの部下にされていて、心理的にいっぱいいっぱいなのだ。この上さらに愚連隊のボスとよろしくできる余裕などない。難しいことは考えず、気持ち良く戦争がしたかった。
 その意味では、知らない間にテロリストにされていたことは衝撃だったとはいえ、地球人を容赦なく殺す組織と過激なリーダーというのは悪くないのかもしれない、とレンチェフは考えた。今大戦を地球人と宇宙移民者との生存競争と位置付けているレンチェフにとって、殺しすぎることや残虐さ、攻撃性にケチを付けない上司は貴重だ。軍隊とは違うだろうリリアナという集団への不安はあるが、慣れれば悪い職場ではないと楽観できる。同僚が美人というのも良い。

「改めて名乗っておくか。俺はレンチェフだ。よろしく頼む、シーマ」
「私はシーマじゃありません」
「ああ、海兵隊とは別人……」
「だから、海兵隊とかシーマとか、全然違います! 私の名前はシマ。シマ・ハチジョウです」
「シマ・ハチジョウ……日系人か」

 ジオン公国の日系人で最上位者といえばケイ・タキグチだ。シーマ・ガラハウ同様にレンチェフは面識がないが、さすがにギレン総帥の信任篤い公国最高顧問の名前と顔は知っていた。
 そして、日系人は他の人種に比べて強固なコミュニティを持つ。緩やかな体制派でしかない日系人コミュニティはザビ家の特定の誰かに肩入れしたり敵視しているわけではないが、こうして送り込まれている以上、ギレンへの情報流出は時間の問題だ。戦闘団の設立経緯を考えれば、既に知られて――

「違います!」

 ――いるとは限らないようだ。強い口調で否定する女性兵士に、レンチェフは首を傾げた。

「……いや、あんたはアジアンだろう? アジアンじゃない俺には区別が難しいが、あんたはキムチ臭くないし美人だ、コリアンでもチャイナでもない。ヤーパン……ニッケイ(日系)じゃないのか?」

「私は日系じゃありません! 日本人です!」

 シマの主張にレンチェフの思考が一瞬止まる。
 野良犬は、シマはレンチェフの先輩だから面倒を見るように、と言っていた。これはレンチェフと同じ途中参加組、リリアナではなく独立重駆逐戦闘団の人間ということだとレンチェフは解釈していた。シマはジオン公国の女性兵士だと。
 だが、シマは自身のことを日本人と言っていた。それは、つまり。
 シマはジオン公国の軍人ではなく。

「私はシマ・ハチジョウ。故郷の言い方なら八丈志麻。地球連邦軍の少尉です。よろしく、ミスター・レンチェフ」

 敵だった。


 
 

 
後書き
 今月中にあと一話いきたいなぁ。

  
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