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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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貉(むじな)共の悪巧み・3

「はいはい、darlingもそのくらいにしとくネー!」

 パンパン、と手を叩いて張り詰めた空気を破ったのは金城提督の妻であり、ブルネイ鎮守府の艦娘のトップでもある金剛だった。

「sorryネ、加賀。ウチのdarlingも鎮守府がボロボロにされてちょ~っと機嫌が悪かったデース」

「なに、此方としてもブルネイ艦隊の艦載機を掠奪して使ったのも事実だ。その位の批判は覚悟の上だよ。そうだな加賀?」

 淡々と語りつつも鋭い視線を飛ばす壬生森。揉め事を起こすな、という無言の圧力である。

「……そうね、流石に大人げ無かったわ」

 まぁ、加賀が壬生森の意向を無視して暴れようとしても、どこかの腹ペコ秘書艦が取り押さえただろうが。

「ちっ、余計なマネを……」

「喧嘩買って貸しを作ろうとするとか、本当にヤクザみたいだよdarling?少しは落ち着いて」

「……へいへい」

 俺も金剛に宥められて、仕方無くこの場は収める。まぁ、祝勝会の場で喧嘩ってのもな。

「しかし、君がそれだけ苛立つという事は余程のダメージだったのだろうな」

「応よ。幸いにも人的被害は軽傷ばかりで済んだが、建物やら物資へのダメージがデカい。特にウチの店がやられたのがな」

 そう、一番の問題はソコだ。ウチの店が当分休業になる、と告知をした所、大半の艦娘が発狂しかけたからな。酷い奴はその場で白目剥いてひっくり返りそうになってやがった。ウチの過酷な勤務環境の中で、ウチの店は思った以上に精神的な拠り所になってたらしいや。

「ふむ、それこそ億で済むような額では無いだろうな」

「勿論、今夜の飲食代もキッチリ頂きますので」

「の、望むところでしゅわ……」

 ニッコリと満面の笑みを浮かべた大淀が、隣に座るニライカナイの熊野の肩をポンポンしている。しかし、その眼鏡の奥の眼は笑っていないのでお察しだ。おお、怖い怖い。





「……しかし、それだけの損害を被ったのだ。何処からか補填せねばなるまい?」

「そりゃそうだろ。ウチもこういう時の為の予算も組んであるが、無限に沸いてくる訳じゃあ無いからな」

「とは言え、政府からも大本営からもそんな予算は出せんぞ。どうする気だ」

「な~に、被害をもたらした所から搾り取るさ」

「う、ウチの鎮守府からも出せませんわよ!?」

 ニライカナイの熊野が慌てふためいているが、別にニライカナイに損害賠償を求める気はない。……まぁ、巻き込まれた被害は訴えたい所だが。

「違う違う。もっと大元の、原因たる所から搾り取る」

「……正気か?」

「当然だろ?ツケはきっちり取り立てるのが俺の流儀だ」

 そもそも可笑しいと思ってたんだ。突然現れたネームレベルなんて怪物に、『リバースドナイン』なんて意味深な名前が付けられた理由……それは、元々そいつの正体が解っていたからじゃないのかってな。それに調べていくと、その呼称が使われ始めた最初は米軍だって言うじゃねぇか。コイツはどうにも臭い。リバースドナイン……つまりは逆さの9。9を逆さにすれば6、6という数字が絡んで何度も復活してきた空母、と言えば思い当たる艦は1隻。

「アレの正体、『エンタープライズ』だろ?」

 ニヤリと笑いながらそう呟くと、壬生森が俺の呟きにピクリと僅かな反応を見せる。エンタープライズといっても今も現役の原子力空母『エンタープライズ』ではない。

 CV-6エンタープライズ。第二次世界大戦を生き抜いた、『ビッグE』もしくは『ラッキーE』の異名を持つ灰色の亡霊(グレイゴースト)。それが奴の正体だ。

「……気付いていたのか」

「まぁな。奴の能力というか、曰くとリバースドナインって名前からの推論だが」

 何度も生き返ってきた不死身にすら見える空母、と言われるとイメージされる艦は絞られるし、トラブルが起きた当初からアメリカの影がちらついている事から国も絞り込める。当然と言えば当然の結果だろう。

「だが、エンタープライズが見せ札だった、ってのには俺も驚いたがね」

 俺の一言に再び静まり返る店内。ニライカナイの艦娘も、壬生森でさえ驚いた表情のままで固まっている。何せエンタープライズを陰で操っていた真の黒幕(?)である工作艦『ヴェスタル』にニライカナイ艦隊がトドメを刺した時には、俺達は既にブルネイへと引き返し始めていたのだから。

「あ?何驚いてんだよ。良く言うだろ、『壁に耳あり障子に目あり』ってよ」

 何時、何処で、誰が話を聞いたり見たりしているか解らないから迂闊な話はすべきではないという諺だが、今回は正にそれに近い。

「成る程、潜水艦を忍ばせていたのか」

「索敵と情報収集は戦略の基本だ。そうだろ?」

 そう。予め戦闘海域にはウチの鎮守府所属の潜水艦娘達が網を張っており、ネームレベルの情報収集をさせていた。隠密行動を最優先にさせていた為に集められる情報は最小限だが、そのお陰でニライカナイ艦隊の索敵の網には掛からなかったらしい。ついでにニライカナイの連中の能力解析もさせていたのは内緒だ。

「まったく、油断も隙もない狸だな君は」

「化け狐には言われたくねぇなぁ」




「……という事は、当然撃沈した奴等の遺体も回収済みか」

「当たり前だ。寧ろそれが今回最大のお宝だぞ、逃す訳には行かねぇよ」

 元々ウチの潜水艦達はそういう仕事もしてもらっているからな。その分給料はいいが。今頃明石とか夕張辺りが涎垂らして大喜びで解析してる事だろうさ。

「その解析結果は大本営に提出予定なのか?」

「そこは一応軍人だしな。報告の義務は果たすさ」

 ただし、全てを提出するとは言ってない。それに、奴等の身体には役に立ってもらわねぇとなぁ?

「ま、解析が終わったら遺体はオークションでも開いて、せいぜい他国に売り捌いてやるさ」

「はぁ!?あたし達が苦労して沈めた相手を、他国に売り飛ばす気!?」

 真っ先に抗議してきたのは叢雲。まぁ、壬生森の秘書艦としては当然の反応だろう。

「だが、要らねぇから回収しなかったんだろ?だったら俺達が回収して有効活用したって何ら問題はないだろう?」

「うぐ、それは……そうだけど…………」

「それにアレはアメリカが作ろうとしていた艦娘に似て非なる者が原型なんだろ?だとしたら、アメリカは是が非でも取り返そうとするはずだ」

 そうなれば、オークション開催前に何らかの接触があると見ていい。それを逆に利用して、アメリカから毟れるだけ毟り取ってやる。

「何というか……悪辣だな」

「やはり発想がヤクザね」

「うるせぇよ」

 そこの狐に加賀、ジト目を此方にむけるんじゃねぇ。 
 

 
後書き
さぁアメリカさん、ウチの悪党提督にケツの毛まで毟られた上に内臓まで売られる覚悟と準備はOK?

……それと、お約束の定型文を。

【この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。】

……書いとかないと五月蝿そうですし( ̄▽ ̄;) 
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