戦国異伝供書
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第三十五話 天下一の武士その八
「よいな、では諏訪の地も治めるぞ」
「わかり申した」
信繁は家臣達を代表して応えた、そしてだった。
晴信は実際に諏訪の地面も豊かにすべく本格的に治めはじめた、幸村はその状況を見て思わず唸った。
「何と、他の地まで治められるとは」
「甲斐だけでなく」
「ご自身の領地は全てそうされるのですな」
「お館様は」
「しかもその政がよい」
幸村もその政の中に入っている、今は豊かな田を作っている。灌漑もしておりその政は万全であった。
「諏訪の地はこれまで以上に豊かになるな」
「左様ですな」
「そのことは我等にもわかります」
「諏訪の地を隅から隅まで見ておられます」
「そうして政をされています」
「そうじゃ」
十勇士達にも言うことだった。
「これは当家は恐ろしいことになるぞ」
「恐ろしいとは」
「それはどういったことでしょうか」
「今一つわかりませぬが」
「そのことは」
「ただ戦に強いだけではなくじゃ」
それに加えてというのだ。
「政でも見事なな」
「そうした家になるのですか」
「お館様の下で」
「それが恐ろしいのですか」
「うむ、甲斐だけに止まらずな」
さらにというのだ。
「巨大な、雄飛する家になるぞ」
「この戦国の世に」
「そうした家になりますか」
「ではまさか」
「この乱れに乱れた天下も」
「お館様が」
「出来る」
天下を統一し泰平にする、そのこともというのだ。
「わしはこの諏訪の政を見て思った」
「ではこの諏訪を治め」
「それからもですな」
「さらにですな」
「そうじゃ」
十勇士達にさらに話した。
「お館様は信濃全てを領地にされるおつもりじゃが」
「信濃全てをですな」
「この様に見事に治められる」
「そうお考えですな」
「そしてじゃ、戦で兵達に乱暴狼藉は一切許されぬ」
晴信のこのことも言うのだった。
「そうであるな」
「ですな、兵達にそこも厳しくさせております」
「少しでも盗む者は許しません」
「おなご達に声をかけようとしても厳しく咎められ」
「そうしたことはまさに一切です」
「長尾殿もそうであられるが」
長尾景虎、彼もというのだ。
「お館様もじゃ」
「それこそ天下人のあるべきお姿ですな」
「国も民も大事にされる」
「そのことも見ますと」
「お館様こそは」
「天下人になられる方、わしは確信した」
諏訪での彼の政を見てというのだ。
「ではな」
「これからもですな」
「あの方にお仕えし」
「そうしてですな」
「あの方をお助していきますな」
「そのつもりじゃ、もう幕府には何の力もない」
このことは幸村が見てもだ、最早幕府は山城一国どころか都の片隅にいるだけのものになり果てている。
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