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ある晴れた日に

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111部分:谷に走り山に走りその七


谷に走り山に走りその七

「何時画面から出て来るかってな」
「そうよね。日本の映画が一番怖い?」
「そうだよ。あれが滅茶苦茶怖いよ」
「私は人形が怖いわ」
 恵美が静かに述べた。
「特に日本の人形がね」
「それわかるわ」
 未晴が今の恵美の言葉に頷く。
「髪が伸びたり動いたりね」
「お婆さんが話せたらって思ったら話せるようになって」
 恵美はここで静かに語りはじめるのだった。
「けれどお婆さんは話せなくなって」
「おい・・・・・・」
「何だよそれ」
 皆今の恵美の話に顔を蒼白にさせて聞く。もうG組だけで完全にそっちに神経を集中させてしまっている。
「何で人形が話せるようになったんだよ」
「お婆さんがその代わりに話せなくなって」
「それでね」
 恵美は蒼白になる皆に対してさらに話を続ける。
「お婆さんが動けたらって思ったら動けるようになって」
「またかよ」
「じゃあお婆さんは」
「動けなくなったわ」
 皆の予想通りであった。残念なことに。
「そして最後に」
「最後に?」
「どうなるんだよ」
 皆恵美の次の言葉に固唾を飲む。聞くのが怖いが着かざるを得なかった。最早それは金縛りめいた呪いに近いものになってしまっていた。
「それでよ」
「一体」
 皆怖くて仕方がなくついつち恵美に対して尋ねる。怖い話は最後まで聞かないと収まらない。この時も彼等もまさにそうだったのだ。
「どうなったの?」
「お婆さん」
「それから」
「それでね」
 恵美もそんな彼等の言葉を受けて話す。
「お婆さんは最後にこう思ったのよ」
「何て?」
「この人形が人間だったらなあって」
「人間に・・・・・・」
「そう思ったのかよ」
「そして」
 恵美はさらに言う。
「動けて話せるようにもなった人形は」
「ええ」
 誰かの喉がごくり、と鳴った。
「お婆さんを殺して自分が人間になったのよ」
「お婆さんを殺して」
「自分が人間に」
「だから。ひょっとして」
 恵美の今度の言葉はさらなる追い打ちであり止めになった。
「その人形は今人間として何処かにいるかも知れないわ」
「うわ・・・・・・」
「じゃあ私達がすれ違う人の中に」
「ひょっとして」
 皆続いてこう考えるのだった。
「いるの!?その人形が」
「人間として」
「お婆さんを殺して」
「そうかもね」
 恵美はそのクールな表情を変えることなく皆に告げた。
「今もね。普通に人間の顔をして」
「怖いなんてもんじゃねえんだけれどよ」
 野本も今回は顔を真っ青にさせてしまっていた。
「その話。マジかよ」
「私が昔雑誌で読んだ話よ」
「雑誌で?」
「確か。小学二年か五年か」
 今も出版されている小学館の学習雑誌である。漫画も多いがそういったコーナーも夏になるとあるのだ。この話がすこぶる怖かったりする。
「それだったかしら」
「そういえばああいう手の雑誌って」
「そういう話はな」
「そうよね」
 皆真っ青になったままの顔でひそひそと話しはじめた。流石に今の話は効いた。
「怖いんだよなあ、滅茶苦茶」
「覚えるし」
 忘れられないレベルの怖さだからだ。恐怖は心に残るものだ。
「けれど今の話は何か」
「最凶だろ、おい」
 皆また口々に言う。
「これ以上怖い話はちょっと」
「ないだろ」
「いや、ひょっとして」
 最後に竹山が出て来た。
「あるかも知れないよ」
「あるかも知れないって竹山よ」
「心当たりあるの?」
「一応は」
 こう皆に返すのだった。
 
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