ある晴れた日に
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100部分:小さな橋の上でその十六
小さな橋の上でその十六
「そんなのよ。っていうかじろじろ見たら変態だろうが」
「まあ脚も胸も見たらね」
「容赦なくぶっ飛ばすから」
これまた実に物騒な言葉だった。
「正直なところ」
「容赦しないわよ」
「少なくとも俺は見ねえよ」
はっきりと言い切った正道だった。
「そんなのよ。御前等もな」
「あんた、そんなんだとずっと結婚できないわよ」
「歳取って一人で居酒屋でもするつもり?」
「ああ、それもいいな」
正道も正道で悪びれずに言葉を返す。
「それで店の名前はしゃむすんな」
「しゃむすん!?ああ」
「あそこね」
どうもそれだけで二人もわかったようである。すぐに納得した顔で頷いてきた。
「ヘラクレスよね」
「突進太郎」
「わかるのかよ」
「こんなの簡単よ」
「言っちゃ何だけれど巨人のこと以外には詳しいわよ」
巨人のことは知ろうともしないだけである。やはり筋金入りのアンチ巨人しかいないクラスであった。
「近鉄の背番号二でしょ」
「栗橋茂さんでしょ」
「そうさ」
当然ながら正道もこのことはよく知っていた。言い出しっぺだから当然のことであるが。
「藤井寺でな。居酒屋やっててな」
「美味しいの?それで」
「そのお店」
「カレーがいいぜ」
話は何時の間にかそちらにいっていた。何故か近鉄のことに詳しい正道だった。
「あそこはカレーがな」
「ふうん、カレーね。それじゃあ」
「あれっ、少年」
ここでメモを取り出し書きだした明日夢を見て奈々瀬が言う。
「何かあるの?」
「ええ。カレーが美味しいのならね」
その奈々瀬に応えて言う明日夢だった。
「ちょっと。チェックしておこうかなって思って」
「カレーを?確か少年の家って」
「居酒屋だけれどカラオケもやってるじゃない」
「ええ」
これはもう言うまでもないことだった。彼女の家が経営しているスタープラチナは既にクラスの面々の遊び場所にもなっている。プリクラ等もよく使用されているのだ。
「そこにカレーメニューに入れてるから」
「そういえばそうだったわね」
「そうだったわねってあんた何度もうちの店に来てるじゃない」
「カレー、カラオケじゃ食べないから」
こう返す奈々瀬だった。
「御免、それ知らなかったわ」
「知らなかったの」
「カラオケじゃいつもお菓子にお酒だから」
勿論奈々瀬は未成年である。もっともこの地域ではこうしたことはあまりというか殆ど守られてはいない。誰もが酒を飲んでいるクラスなのだ。
「カレーは。ちょっと」
「今度食べてみてよ」
すかさず自分の家のメニューを宣伝する。
「結構自慢なんだからね」
「お菓子は美味しいわよね」
「そっちも自慢なのよ」
意外と料理には自信のある店のようだ。
「クレープとかケーキとかね」
「そういうのやっぱり作ってるの?」
「クレープは家で作ってるけれどケーキは違うのよ」
「ああ、やっぱり」
それを聞いて納得した顔で頷く奈々瀬だった。
「そうよね。自家製って感じじゃなかったから」
「お店から仕入れてるのよ」
「お店何処?」
「山月堂」
こう答える明日夢だった。
「そこよ」
「あれっ!?山月堂って」
「あそこじゃねえかよ」
ここで野本も話に入って来た。
「柳本のよ」
「ええ。沙紀の彼氏の慶彦さんの家じゃない」
「実はうちもあそこと馴染みなのよ」
今わかった真実であった。
「それでね。ケーキ仕入れさせてもらってるのよ」
「へえ、そうだったのかよ」
「そういえばそんな味だったわよね」
「けれど沙紀があそこの息子さんと付き合ってるのは知らなかったわ」
これは明日夢の知らないことであった。どうもそこまで詳しいわけではないらしい。
「っていうか聞いてびっくりだったし」
「そうだったの」
「あそこが本来は和菓子屋さんなのは知っていたけれどね」
流石にこれは知っていた。相手の店が何をしているのか知らないで商いをする程明日夢の家も明日夢自身も馬鹿ではないということだった。
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