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俺様勇者と武闘家日記

作者:星海月
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第1部
ロマリア~シャンパーニの塔
  諍い

 宿に戻ったのは私とユウリだけで、あとの二人はしばらく経ってもなかなか帰ってこなかった。
「格闘場に行ったシーラはともかく、ナギは武器屋に行ってるだけなんだよね? ずいぶん遅くない?」
 男女二人ずつ二部屋で取ったあと、私は一人部屋でぼーっとしているのも何なんで、ユウリがいる部屋にお邪魔していた。
 とはいっても、話の弾まないユウリと会話しても自滅するだけなので、荷物の整理なんかをしていたのだが。
ユウリはユウリで、俺に話しかけるなオーラを部屋全体に充満させながら、真剣に愛用の剣を磨いている。……要するに、二人とも無言だった。
 一通り荷物の整理を終え、一息ついたところで、私は窓の外がすっかり暗くなっていることに気づき、今の言葉を放ったのだ。
 私が二人のことでつぶやいていると、今まで下を向いていたユウリがゆっくり顔を上げ、私の方を見た。
 まるで今初めて存在に気づいたかのような表情をしていたので、私はなんとなく視線をカバンに戻した。
「……まだ帰ってきてないのか、あいつら」
 意外にも、私の呟きを聞いていたらしい。でもその割には、落ち着き払っている。
「そもそもあの二人って、そんなにお金あったのかな?」
 シーラはアリアハンにいたときから酒場のお酒を飲みまくってユウリに酒代払わせてたし、ナギも今までおじいさんと一緒にあの塔で暮らしてたみたいだから、武器を買えるほどのお金を持っているとは思えない。ただ商品を見るだけならこんなに時間はかからないはずだけど……。
 などと考えを巡らせていると、ベッドに座っていたユウリが、真剣な顔で光り輝く剣を鞘に収めて急にその場を立った。
「俺としたことが、迂闊だった。馬鹿を二人も野放しにして、ただで帰ってくるとは思えん。急いで連れ戻すぞ」
「ちょっ、ちょっと待ってよ! 急にそんな事言われても……」
 そういってユウリはすぐさまドアの方に向かう。そして、私の抗議も無視して、勢いよく部屋のドアを開けた。
 どんっ。
「きゃああぁぁっっっ!!??」
 今の悲鳴は私ではない。ユウリがドアを開けたとたん、外側から誰かが彼にぶつかってきたのだ。
「も~~~っ!! 痛いよユウリちゃん!! ちゃんと前見てよ~~~!!」
 悲鳴を上げた人物―――シーラが、口を尖らせながら言った。怒っているにもかかわらず、なんともしぐさがかわいらしい。
 などと私がそんなのんきなことを考えていると、ユウリが親の敵をとったような顔でシーラに迫った。
「お前、今まで遊んでたのか?」
 するとシーラは頬を膨らませた。
「遊んでたんじゃないもん!! 『おしごと』してきたんだもん!!」
「仕事……?」
 ユウリは何か思い当たったかのように表情を変えた。
「あー、ユウリちゃん、なんか変なそーぞーしてるでしょー? やーい、むっつりーvv」
「……………………」
 シーラに冷やかされ、ユウリはなぜか鬼の形相のまま沈黙した。これがナギの場合だと問答無用で呪文を放つのだが、シーラの場合だとどう反応すればいいのかわからないらしい。
 そんなことはお構いなしに、シーラは話を続けた。
「『おしごと』ってぇのは、これよんっっ!!」
 そういってどこからか取り出したのは、一抱えほどもある金貨の入った革袋だった。
「どっ、どうしたのシーラ!!?? その金貨!!」
 どうみたって半日かそこらで稼げるような金額ではない。もちろん裕福ではない私の実家でもあんな大金見たことがない。
「もちろん、モンスター格闘場で稼いだんだよんvv」
「ほ、ホントに?」
 格闘場って、あんな短時間でこんなに稼げるものなの!?
 格闘場・・・・っていうより賭け事自体やったことのない私にとっては、全く理解できない話である。
「こんだけあれば、一か月分はお酒に囲まれて暮らせるもんね♪ あ、ミオちんにもお酒ちょびっとわけてあげるからね☆」
「あ、ありがと……。でも私お酒飲めないからいいよ……」
 するとちょうどタイミングよく、宿の玄関から聞きなれた声が聞こえてきた。
「くっそー!! なんでどこもあんなに高けーんだよ!!」
 どすどすと、荒い足音を立ててこちらに上がってきたのは、私たちが探していた仲間その2、ナギだった。
「おいサル。俺の許可なくこんな遅くまで出歩くとはいい根性してるな」
 まるで子供の門限に厳しい父親のようなことを言うユウリ。
「別にあんたの監視下にあるわけじゃないしいーだろ。それに、ただ出歩いてたんじゃなくて、自分用の武器を買いに行ってたんだよ! ……結局どれも高すぎて買えなかったけどな。誰かさんが一人でお財布握ってるせいでよ!!」
 そう言い放つと、ナギはユウリを鋭く睨み返した。
 そのただならぬ不穏な空気を感じた私は、余計なこととは思いつつも、つい口を挟んでしままう。
「ほ、ほらユウリ。そんなに心配しなくても、やっぱりナギ武器買いに行ってただけじゃん!」
「…………」
「それにこの先の旅のことを考えるなら、新しい武器を買える資金ぐらいナギに渡してあげてもいいんじゃない?」
「…………」
案の定、私が言ったところで状況が変わるわけがなかった。
「……この堅物にんなこと言っても無駄じゃね? あーもう気分悪いから先にメシ食って寝るわ」
 そう言ってナギは、部屋の中に入ろうとした。だが、いまだに床に座り込んでいたシーラにぶつかり、転びそうになってしまった。
「ってぇ!! なんなんだよ、ったく……」
 くるりとシーラのほうを振り返る。どうやらシーラではなく、横に置いてある金貨の皮袋につまづいたらしい。
「お、おま……なんだよ、それ……」
「これはあたしが格闘場で稼いだお金だょん♪ すごいでしょ♪」
 シーラの話を聞いて、ナギの様子が豹変した。言葉を失い、金貨のほうを凝視している。ついでに荒くなっていた呼吸を整え、こう言った。
「その金貨、全部オレにくれ!!」
「…………」
「…………」
「…………え?」
 シーラ、ユウリ、そして私までもが、一瞬沈黙した。けれどすぐにその沈黙は、金貨の所有者によって破られた。
「ナギちん? いまどきそんな冗談誰もウケないよ?」
「いやギャグじゃなくて!! それくれ!! 武器買うから!!」
 そのあまりにも潔い申し出に、私はむしろ心地よさを感じた。
「寝言は寝てから言え。何でお前ごときに全ての金をやらなきゃならん」
「あっ、ユウリちゃん!! あたしのお金だよそれ!!」
 ひょいと金貨を拾い上げたユウリを、シーラが珍しく憤慨した様子で奪い返そうとする。だがユウリはシーラに渡そうとせず、きっぱりとした声でこう言った。
「これは旅の資金にする。つまりリーダーである俺が保管しておく」
「ええっ!?」
 私は思わず声に出して驚いた。いや、私だけではなく、遥かに衝撃を受けた二人も茫然としている。
 これにはナギだけでなく、シーラまでも敵に回した。そりゃあそうだろう。ばくち好きのお父さんが珍しく大勝ちして大金を手にしたと思ったら、お母さんに全部没収されるようなものだもの。
「好き勝手に動き回るお前らに金を持たせるわけにはいかないだろ。ここはリーダーである俺が責任を持って管理する」
……なんか嫌な言い方だ。それじゃまるで私達が聞き分けのない子供みたいじゃない。
 普段はユウリになかなか意見することができない私だけれど、今のその発言にはさすがに容認出来なかった。
「ユウリ、いくら旅にお金が必要だからって、一枚もくれないのはあんまりだよ! それに、ナギが武器をほしがるのは旅を少しでも楽にするために大事だからだと思うし、そもそもシーラのおかげで金貨が手に入ったんだよ? もうちょっと私たち仲間のことも考えて欲しいよ」
「……………………」
「ミオの言うとおりだ! なんでいつもオレたちが我慢しなきゃなんねーんだよ!! そもそもなんでシーラが稼いだ金をあんたが取り上げてんだよ!!」
「ユウリちゃん、あたしが飲んだお酒代ならその袋の半分で充分足りると思うよ!?」
 私たちの訴えを聞いて、ユウリの眉間にしわが、かつてないほど深々と刻まれる。相当不機嫌になっている証拠だ。
「要するに、お前らは俺の意見を誰一人として聞き入れないということだな?」
 沈黙。それは三人一致で肯定を表していた。
「……わかった。そんなに金が欲しいのなら使えばいい」
 どさっ、と重い音が部屋に響き渡る。
「そのかわり、お前らだけで盗賊退治をしてこい」
 …………え。
「この金を盗賊のアジトに行くための準備に使おうと思ってたんだが、そこまでいうなら俺は何も手出ししない」
盗賊のアジトって……、ロマリア王に頼まれたこと?!
「あとはお前らだけでやってくれ。じゃあな」
 そう言い放つと、振り向きもせずあっさりと部屋を出て行ってしまった。
 不安と重苦しい空気を残したまま。
「……い、いまユウリなんて言った?」
恐る恐る私は皆に確認する。ナギは何故かさっきより生き生きとした表情をしていた。
「オレたちだけで盗賊退治だとよ。かえってあいつがいなくて気が楽だぜ」
 ナギはあっけらかんと言い放つ。なんでそんなポジティブなの!?
「いやいや、そういう問題じゃないよ!! 私たち、3人そろってもたいしたレベルじゃないじゃない!! そんな状況で盗賊退治なんてできっこないよ!!」 
 私は考えただけで血の気が引いた。いくら王様の頼みとはいえ、レベル30の勇者抜きで盗賊退治なんて無謀すぎる。
「だいじょーぶだいじょーぶ!! ミオちん、人間やるときゃやるんだよ♪」
 一番説得力の無いシーラに言われ、私はさらにめまいがした。
「シーラの言うとおりだぜ。人間、弱くても3人力を合わせればできるんだ!! って、昔じーちゃんのところにあった本に書いてあったし」
 …………ひょっとして、不安がってるのって私だけ?
 どこまでも前向きな二人に、私は羨望と脱力を一気に味わうという、貴重な体験をした。
 願わくば、ユウリが考えを変えて一緒に盗賊退治をしてくれますように…………。たぶん無理だと思うけど。

 
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