戦国異伝供書
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第三十三話 隻眼の男その七
「ですから」
「ここはか」
「はい、是非です」
まさにというのだ。
「すぐに今川殿に人を送りましょう」
「駿河にじゃな」
「そしてです」
「話を決めてじゃな」
「そのうえで」
まさにというのだ。
「武田家そして甲斐の主となりましょう」
「ではな」
晴信は山本の言葉に頷いた、そしてだった。
信繁を呼んで山本を紹介し彼にも山本にその策を話させた。すると信繁は目を丸くさせて驚いて言った。
「いや、まさかです」
「この様な手があるとはじゃな」
「思いませんでした」
こう晴信に言うのだった。
「ですがそれでもです」
「この策でいくとな」
「誰一人血を流すことなく穏健にです」
「甲斐の主はわしとなるな」
「乱も怒らず」
まさにと言うのだった。
「そうなります」
「ではな」
「この策でいくべきかと」
兄に確かな声で答えた。
「ここは」
「そうじゃな、ではな」
「すぐにですな」
「駿河に人を送るぞ」
「それでは」
「これでよい、しかしこれでもじゃ」
晴信は信繁にと山本に難しい顔でこうも言った。
「わしが父上を追い出したことはじゃ」
「事実ですか」
「そうなる、やはりわしは不孝を犯すな」
親へのそれをとだ、晴信は難しい顔で述べた。
「父親を追放するという」
「兄上、そのことは」
「仕方ないか」
「はい、この場合は。しかもです」
「お命は、じゃな」
「奪っておりませぬので」
それ故にとだ、信繁は兄を慰めて言うのだった。
「ですから」
「非道にまではか」
「至っておりませぬので」
だからだというのだ。
「お気に召されぬなとは言えませぬが」
「最後の一線はじゃな」
「越えておりませぬので」
「そのことはか」
「安心してです」
「ことを進めればよいか」
「どちらにしても父上がこのまま甲斐におられては」
それではとだ、信繁は兄に難しい顔で述べた。
「国はもちませぬ」
「乱れるか」
「兄上の廃嫡に留まりませぬ」
信虎、彼が主でいることでというのだ。
「家臣も民も離れておりますので」
「しかも戦が多く民も疲れておる」
「戦国の世、戦は仕方ないとはいえ」
「父上はそれに頼り過ぎておるな」
「これではいけませぬ、そうしたこともあり」
この度はというのだ。
「仕方ないということで」
「それでじゃな」
「ことを進めましょう」
「それではな」
「はい、その様に」
信繁は兄に述べた、こうしてだった。
晴信は信繁達の協力を得て山本の策を実行に移した、駿河に文を送ると義元も承諾の文を送ってきた。
それを受け得てだ、晴信達は何もない風を装って信虎にこう申し出たのだった。
ページ上へ戻る